第275話 教会の狙い
Side プリラベーラ
「勇者ショウコ、私と颯太は想像するような関係ではないわよ」
「え、そ、そうなの?」
私に指摘され、驚いて顔を赤くすると勇者ショウコは、一条颯太を見る。
颯太は、ショウコに見られて少し顔を赤くしながらも肯定した。
「あ、ああ、俺とプリラベーラはショウコの想像する関係じゃない。
俺がこの世界に来て、どうすればいいか困っている時に助けてくれた人だ。
つまり、命の恩人だな」
「命の恩人って、颯太はどこに現れたの?」
「俺は、気がついたらこの浮遊大陸の森の中にいたよ。
それで、森の中で魔物に追いかけられているところを、アルテミスさんに助けられたんだ。
で、アルテミスさんに連れられプリラベーラに会って、援助してもらっているってところか……」
「……颯太、それってヒモ生活じゃない~」
「ヒモって……」
颯太は、他の勇者たちを見渡す。
「ヒモだな」
「ヒモね」
「ヒモにしか見えないよ?」
「異世界に来て、ヒモって……」
「一条さん、ヒモです」
勇者アキラ、勇者カナデ、勇者ミサキ、勇者トモヤ、勇者レンジはそれぞれの感想を言っていく。
それぞれの意見を聞いて、颯太は落ち込んでいった。
「そ、そんな……」
「もう! 颯太がヒモになっていたなんて、恥ずかしいわ!
プリラベーラ様? これからは、私が颯太を支えます。よろしいですか?」
「それは構いませんが……、よろしいのですか? 颯太」
「えっと……、それは……」
「颯太?」
プリラベーラに、勇者ショウコは自身がこれからは支えると宣言するも、颯太は、いろいろとやり残したことがあるため言葉を濁している。
フフフ、はっきりとやり残した研究があると仰ればいいのに……。
それでは、私の元を離れたくないように誤解されますわよ?
……案の定、勇者ショウコ様の機嫌がどんどん悪くなっているようですわね。
ここは、助け舟を出すべきかしら?
▽ ▽ ▽
Side 魔王ディスティミーア
「魔王様、ダンジョンの二百階層で、教会の討伐部隊は引き返すことになりそうです」
「それは、お主の研究していた魔法の力か?」
「はい、影魔法と申します。
過去の姿を投影し、実体化した物です。
ですので、過去の人物そのものではなく過去の伝承に基づいた姿となります。
そこに魂や人格などは存在せず、あるのは戦い方のみ。
この魔法の本来の使い方は、教練用に使うのが正しいかと」
「なるほど、教練用の魔法を戦いに使用したということか……」
どうやら、私の危惧した仕様ではなかったようだ。
過去の勇者たちの魂がこの世界に捕らわれ、教会関係者や今の勇者たちへ無理に戦わされているのかと思ったが、違うようだな。
そこに過去の勇者たちの魂や意思などは存在せず、あるのは投影された影のみか。
「ところでゼルブ、教会の連中が使っていた魔道具のことは何か分かったか?」
「それは、魔物を仲間にできる卵のような魔道具のことですな?」
「そうだ。私としては、アレはかなりまずいものだと考えているのだが……」
そうだ。
教会関係者のものが使っていた、卵のような魔道具。
大きさが少し嵩張るため、使い勝手が少々悪いが、効果は恐ろしいものだ。
何せ、ボスクラスの魔物でも、ダンジョンのボスクラスの魔物でも仲間にすることができるらしい。
動物系の魔物に限るという制限があるようだが、まずいものはまずい。
この先、三百層までの間に動物系の魔物は各階層で出現する。
それも、人族の間では伝説となっている魔物もいるのだ。
こちらの用意した魔物を、簡単に仲間にされてはDPの無駄遣いだ……。
「教会関係者の話では、その卵は勇者レンジが作りし魔道具だそうです。
名を従魔の卵。
動物系の魔物だけを、従魔とすることができるようです」
「そのような物を、この先も使用されては……」
「ご安心ください、魔王様。
我が影魔法が、教会関係者の思惑など打ち払って御覧に入れます。
勇者以外にも、人族の伝承には強者がかなりそろっていますので……」
強い勇者がそろっている、か。
過去の魔王討伐も、勇者たちの功績だ。
そんな勇者たちが、敵として立ちはだかることができれば足止めにもなるだろう。
「頼むぞ。
ゼルブの作りだした影魔法、大いに期待しているぞ」
「ハハッ、我が魔力が続く限り必ずや、教会の奴らを蹴散らしてごらんに入れましょう!」
これで、教会の連中も引き返すことになりそうだな……。
▽ ▽ ▽
Side プリラベーラ
「さて、皆様は教会の人たちから天界の門に関してどう聞いているかしら?」
「天界の門に関して?
確か、魔王討伐に必要な門だって聞いたけど……」
やはり、本当のことは告げずに何も知らない勇者たちを誘導しているようですね。
天界の門があろうがなかろうが、魔王討伐に関係ありません。
「それは間違いです。
魔王討伐に、天界の門が必要になることはありません」
「そ、それは、間違いないのね?」
「はい、勇者ミサキ。
そもそも天界の門とは、天界と呼ばれる世界への扉にすぎません。
もちろん、魔界への門も同様に、魔界へ行くための門ということです」
「……」
「そもそも、この世界には私たちがいる世界と、天界、そして魔界の三世界がございます。
教会は、この三世界をその手中に収めようと狙っているのです。
ですが、この三世界を手に入れるには天界の門と魔界の門が必要になる」
「なるほど、だからこうして捜索させていたわけか……。
だが、三世界を手に入れるとしてもどうやって?」
「それこそ、勇者様方を使って、です。
三世界とは別の世界から召喚した強力な戦力。
そして、魔王や天界の神すらも凌駕する力。
それが、教会の言いなりになるのです。
さらに、教会は最後の手段も持っているはずです」
それこそ、勇者すらも従えることのできる力、隷属の呪い。
勇者召喚陣には、その隷属の呪いが施されている。
かつて、異世界人召喚をした男が研究でたどり着いたもの。
その呪いによって、異世界人たちを意のままに操ったとか……。
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