第273話 不協和音
Side ???
魔王のダンジョンの第二百層。
そのフィールドの中心に立つ黒い神殿の中の祭壇の間に、一人の男が立っていた。
「……フム、さすがに倒されるか。
だが、弱いな神殿騎士と神殿兵士たち。
昔の勇者の影に全滅するとはな……」
その男が手をかざして、起動させていた魔法陣にひびが入り、そしてすぐに、甲高い音をたてて魔法陣が割れた。
「過去の勇者オオノ、なかなかの強さだ。
だが、さすがに勇者とはいえ紅龍フレアドラゴンとケルベロス、それにブラックユニコーンを相手にしてはひとたまりもないか……」
黒い影となって戦っていた光景を思い出し、男は感心する。
やはり、勇者という存在は規格外だと……。
だがこれで、教会が送り込んだ者たちが引き返してくれるとありがたいが、おそらくそうはならないだろう。
特に神殿騎士と神殿兵士たちは、変なプライドがあるからな。
たった一体の影に、全滅したなど認めるわけがないだろうしな。
「だが、皮肉だな。
教会が過去に召喚した勇者によって、教会の騎士や兵士が倒されるとは……。
ククク、これは魔王様にご報告しよう。
面白がってくださるに違いない……」
そう言うと、再び男は手をかざし床に魔法陣を作りだす。
「影召喚! 勇者カエデ!」
魔法陣に現れたのは、十二歳の少女だ。
その手には聖剣が握られており、ドレスアーマーを装備している。
だが、魔法陣から姿を現した瞬間、その全身は黒く変わってしまう。
その代わり、黒い少女の影が召喚された少女の姿に変わり、ゆっくりと消えた。
「次の相手は、この少女勇者がしてくれる。
さて、この階層まで到達した教会の騎士や兵士たちは、どこまで戦えるかな……」
そうフッと笑うと、転移して消える。
その場には、剣を持った少女の影だけが静かにたたずんでいた……。
▽ ▽ ▽
Side 魔物使い隊 クリン
生き残っていた魔物使い隊のメンバーと、紅龍フレアドラゴンにケルベロス、そしてブラックユニコーンたちを連れて第百九十二層の入り口まで戻ると、そこには神殿騎士と神殿兵士たちを叱る隊長の姿を確認した。
「貴様ら悔しくないのかっ!
それでも男か!!」
「く、悔しいです!」
「悔しかったら、強くなれ!」
……なぜか、どこかで聞いたことのあるような叱り方だが、これで神殿騎士たちも、神殿兵士たちも敵を前に逃げ出すこともないだろう。
何せ、あの黒い敵相手に一目散に逃げだしていたからな……。
「クリンたち魔物使い隊も帰ってきたか。
どうだ? その様子では倒してきたと思うが……」
俺たち魔物使い隊に殿を任せた、隊長の一人が声を掛けてきた。
こいつに任されたおかげで、三人も犠牲が出てしまった……。
「はい、一応討伐に成功しました。
ですが、三人もの犠牲が出てしまい……」
「あと、グリフォンが全滅してしまって……」
「ま、まあ、あの敵は強すぎた。
犠牲も仕方ないことだろう。
君たちを責めることはないから、これからも頼むぞ?」
「は、はい!」
俺は返事をするも、この隊長を信頼することはないだろう。
魔物使い隊の隊長をしているくせに、他の隊長と一緒に逃げるとはな……。
「クリン、隊長なんだって?」
「俺たちに責任はないってさ……」
「仲間が三人も犠牲になっているのに、掛ける言葉がそれかよ……」
「とにかく、俺たちは俺たちで行動しよう。
隊長の命令なんて、もう聞けないだろう?」
「だな。隊のみんなにも話しておく。
それより、まだ進軍は続けるのか?」
「たぶんね……」
逃げ出す神殿騎士たちや神殿兵士たち、それにその隊長たち。
もはや、魔王のダンジョンで戦えるのは俺たち魔物使い隊の従魔たちだけだ。
俺たちも、従魔無しでは戦うことすらできない。
やっぱり、勇者たちの力が必要なんだよな。
「ハァ、俺たち生きて帰れるかな……」
「クリン、そんなこと言うなよ。
俺たちみんな、不安に思っているんだからな……」
「ごめん。
でも、このままじゃあ全滅は確実だろう?」
「勇者様たちの一人でもいれば、生きて帰れるんだがな……」
「いないものはしょうがない。
俺たちで、何とかするしかないぞクリン、ドリー」
「ジュリアス、紅龍の世話はいいのか?」
「ああ、今はおとなしくしている。
だが、時々命令を聞かなくなっているみたいなんだよ」
「従魔の卵の効力が、切れかけているのか?」
「分からない。
だが、紅龍だし、もしかしたらそうなのかもしれないな……」
「何とかしないと、確実に俺たち全滅だぞ?」
「分かっている。
俺が何とか制御してみるから……」
従魔の卵の効力が切れるか。
そうなったら、確実に俺たちは狙われるだろうな……。
そして、魔物使い隊が全滅すれば、この部隊も終わりだ。
この先で、魔物の調達をしておかないと……。
▽ ▽ ▽
Side ???
浮遊大陸の町ガランから移動した勇者たちは、大陸の奥へと進み、目の前の光景に唖然としていた。
何せ、想像と全く違うほどの大きさの天界の門が、目の前にそびえ立っていたからだ。
なぜ、この大きさでガランの町から見えなかったのか信じられない。
なぜ、この天界の門の両開きになっている扉の右側が、少し開いているのか。
なぜ、天界の門の前に貴族が住むほどの大きな屋敷が建っているのか……。
そして、その屋敷の門の前に執事姿の男が、勇者たちを見ている。
勇者たちは、その場に立ちつくし驚いていた……。
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