第272話 不穏な影



Side ???


どこかの城塞都市にある大聖堂に、二人の教会関係者がいた。

一人は、モントーリ枢機卿といい勇者召喚を教会の主導で復活させた立役者。

そしてもう一人は、アルオール司祭といい、モントーリ枢機卿の下僕だ。


「枢機卿、どうでしょうか?

勇者召喚陣は、復活しそうですか?」

「ん~、ダメだな。

とてもではないが、召喚に必要な魔力が足らん……」

「やはり、生贄の数が足りませんか……。

少し前、ブリーンガル王国で難民が大量に発生した報告を聞いたときは歓喜したものですが、教会の名を出してこちらに来る難民が少なかったようで……」

「難民を全員使ったとしても、微々たる差でしかないだろう。

新たな勇者を召喚しようとすれば、王都規模の人数が必要になるはずだ……」

「そんなにですか……。

では、前までの勇者召喚に使われていた魔力の供給元は……」

「報告書通りの、封印されていた魔王で間違いないだろう。

困ったものだな……」


どこからか、勇者召喚に関する情報提供があった。

一応探らせてみたが、提供元は分からなかった。


本来なら、そんな情報は信じることなく破棄するのだが、勇者召喚の情報以外にもいろいろと情報が記載されており、そのいずれも本当だった。

そのため、勇者召喚に関する情報もすべてを信じることなくこちらでも調べてみたが、すべて間違いなかった。


「次の勇者召喚のために、魔王封印をお願いするとは……。

枢機卿は、勇者の扱いが上手いですな」

「フン、勇者たちをおだてることなど簡単だ。

力を持つものといえど、中身はただの世間知らずの子供にすぎん。

我々が、おだててお願いするだけで二つ返事で動くなど、本当に愚か者よ」

「フフフ……」

「しかし、異世界人は魔王が悪だと決めつけているようだが、何故なのだろうな……」

「シスターの一人が聞いたのですが、勇者たちの世界には魔王を討伐する書物が人気なのだとか。

その書物の中では、勇者が正義で悪の魔王を討伐し、人々に平和をもたすのだとか」

「なるほど、それで召喚されてすぐに、我々のお願いを聞いたということか。

……愚かよな」

「まったく……」


二人は、ニヤリと表情を崩すと、声を上げて笑った……。


魔王のダンジョンは順調に進んでいると報告が入り、勇者たちも浮遊大陸に降り立ったという報告が先ほどもたらされた。

天界の門も魔界の門も、我々教会の手に落ちるのも時間の問題。


こうも順調に物事が進むと、怖くなってくるが二人は素直に思い描いていた。

教会による世界改変を……。


だが、細かいところは二人に伝わっていなかった。

勇者たちも、浮遊大陸に降り立ちはしたが浮遊帆船が航行不能になり、ガランの町が崩壊したこと。

そのために、浮遊石の採掘が当面不可能になったことなどだ。


また、魔王のダンジョンのことも細かいところが伝わらなかった……。




▽    ▽    ▽




Side ???


魔王のダンジョンの第百九十二層で、従魔使い隊のクリンは遺跡のレンガ壁に身を潜めていた。

その側には、他の従魔使い隊の仲間が屍をさらしている……。


「クッ、何だあいつは……」

「お、おい、クリン」


そこへ、従魔使い隊の仲間の一人のデリーが身を屈めて近づいてきた。


「デリー、無事だったのか?」

「それは俺のセリフだ。

それより、アレ、何か分かるか?」


デリーの指さす先にあるモノ、それは、黒い人型をした何かだった。



それは、俺たちがこの階層を進んでいる時に襲いかかってきた。


すぐに、神殿騎士や神殿兵士たちは迎え撃つも、ことごとく蹴散らされた。

さらに、従魔たちに対峙させて、戦っている間に蹴散らされた騎士や兵士を助けるつもりだったのだが、従魔のグリフォン十三頭は瞬殺される。


そのため、紅龍フレアドラゴンを投入してケルベロスたちと連携させることで、ようやく戦えるようになった。

そして、戦っている間に、神殿騎士と神殿兵士を救出し回復させる。


回復させた神殿騎士と神殿兵士は、その敵に恐れをなしてすぐにその場を逃げ出す。

回復のお礼もなく、一目散に逃げだした。


そのため、その場に残された従魔使い隊は殿を隊長たちに任され、今こうして隠れる羽目になっていた。



「すまない、鑑定の魔道具が使えないんだ。

だから、あれが何かは分からない……」

「……そうか、それじゃあ従魔の卵も使えないな……」

「あれを従魔にするつもりだったの?」

「あれだけ強いんだ、従魔にすれば……」

「いや、動物系の魔物じゃないんじゃない?

そうだとすると、従魔の卵は使えないだろう」

「全身が黒いからか?

でも、人型だぞ?」

「人型でも、動物系とは思えないって!

それに、魔物かどうかも怪しい……」

「……」


その時、紅龍フレアドラゴンの一撃が決まり、黒い人型が地面に叩きつけられた!

さらにそこへ、今まで隠れていたブラックユニコーンが黒い人型に突っ込み、角を人型の胸に突き刺した!


『ーーー!!!!!!!』


声にならない声が、周辺に響く。

さらに、別のブラックユニコーンたちが他の方向から角を黒い人型に突き刺していく!


三本突き刺され、黒い人型は光の粒子に変わり霧散した。


「……た、倒したのか?」

「……どうやら、そのようだな」


紅龍フレアドラゴンが、翼をはためかせながら地面に降り立つと、ケルベロスやブラックユニコーンたちが少し鳴いた。


そこで、ようやく俺たちは助かったことに安堵し地面に座り込んでしまった……。


「た、助かった……」

「だが、犠牲も多かったな……」


クリンの指さす先に、従魔使い隊の仲間の死体が、三体ほど倒れている。

グリフォンを瞬殺されたとき、ダメージのフィードバックを受けて心臓発作を起こしたのだろう。


こいつらは、普段からグリフォンと一体になって偵察とかしていたからな……。


「とりあえず、騎士や兵士たちと合流しようぜ……」

「だな。

でも、アレは何だったんだろうな……」

「さあな……」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る