第271話 勇者の心
Side 勇者ミサキ
浮遊大陸にある町ガランの城壁の上で、私は外を見ている。
浮遊大陸の大きさは、大陸と付いてはいるがその実、地球のニューギニア島と同じぐらいの大きさだと思う。
私の目算での話だから、実際はどうなのか分からないけどね……。
そして、浮遊大陸は草原と森がほとんどだ。
いくつか山があるにはあるが、その標高を考えれば小さな山だよ。
「ミサキ、こんなところで何してるの?」
友人の、勇者カナデが声をかけてくれた。
カナデとは、勇者召喚される前からの友人でクラスメートでもある。
「町の外を見ていたの。
あそこの森の奥でしょ? 天界の門があるとされているのは……」
「教会の説明が事実なら、そうなんだろうね」
「カナデも信じてないんだ」
「カナデも、ということはミサキも信じてないんだ。
まあ、あの件から私も教会は信用してないから……」
あの件、教会の図書室の奥にある禁書庫で見つけたあの本を見つけたことだ。
私とカナデは、本を読むためというより情報収集のために図書室を利用していた。
一方の勢力だけを信用しては、必ず間違いが起きると高校の先生が口を酸っぱくして仰っていたことだ。
それを私たちは、気をつけている。
だからこそ、情報収集はどんな時でもしなければと考えている。
「図書室の奥の書庫、だね……」
「うん、禁書をしまってあったあの書庫……」
「でも、今でも不思議なんだよね。
何で、あんな書庫が存在しているんだろう……」
「教会にとって、あの書庫は都合の悪い本ばかりが集められていた。
……なんでだろうね」
それで、私たちは見つけたんだよね。
禁書庫で、異世界人を実験体にした、ダンジョンの利用方法を。
「教会の教義では、ダンジョンは魔王が作るもの。
また、魔王が手下に与えるものとある。
それが、召喚したばかりの異世界人に、ダンジョンコアを埋め込みダンジョンマスターとして利用する。
国の存続のために……」
「ムカつく内容だった……」
でも、教会のことが信じられなくなった。
また、教会を疑うようになったのもその頃からだった。
そして、教会のことを調べれば調べるほど矛盾点が見つかり、ますます信用がなくなっていった。
「今では、教会を信じている感じを態度でしているだけ。
本心は疑いの目で見ている」
「こんなこと、他の勇者の前では言えないよね~」
「……でも、勇者の中にも教会を信用していない人もいるんじゃないかな?」
「たぶんいるだろうね。
でも、表には絶対に出さないと思う」
「やっぱり、送還のことがあるから?」
「うん、教会が私たちを元の世界に帰してくれるかは分からないけど……」
教会の裏の顔、私たちはそれを調べている。
だけど、こうして勇者たちだけでの任務には従うしかない。
今は、だけど……。
「あ、いた」
「勇者ショウコ、何か用?」
「カナデとミサキを呼びに来たのよ。
勇者トモヤが、天界の門の場所が分かったらしいわ」
勇者トモヤは、勇者レンジに何か作ってもらっていたから、その魔道具を使って天界の門の場所を調べたんでしょうね。
で、場所が分かったから勇者全員でそこを目指そうと。
「それじゃあ、行きましょうか……」
「そうね、カナデ」
「ったく、何で私が呼びに来ないといけない……」
それは多分、暇そうにしていたからじゃない?
ショウコは、自分のやるべきことをよく、人に任せていたし……。
私たちは、証拠と一緒に移動する。
ガランの町から、浮遊大陸の内側へ向かうための門へ。
▽ ▽ ▽
Side プリラベーラ
私が座っている椅子がある謁見の間には、アルテミスと一条颯太、そしてシャリーが土下座している。
しかも、シャリーは少し震えていた。
たぶん、私が怒っていると思っているのね……。
「シャリー、面を上げろ」
アルテミスがそう言うと、シャリーは恐る恐る頭を上げる。
そして、私の顔を見て目をそらした。
「シャリー?
どうして、勇者たちが乗ってきた浮遊帆船を飛べなくしたの?
浮遊帆船を壊さなければ、勇者たちが帰ったかもしれないのに……」
「申し訳ございません!
浮遊戦闘艦の力に、気分が高揚してしまい、イケイケ、ドーンドー…ンと……」
「はぁ~」
私の溜息に、シャリーはビクッと怯える。
そんなに怯えなくても、お仕置きはしないわよ……。
「颯太?
あなたの設計開発した浮遊戦闘艦は、やっぱり早すぎたようね」
「そのようだな……。
浮遊戦闘艦の力に、溺れる者がいるとはな」
「申し訳ございません!」
再び、シャリーが頭を下げて土下座する。
「もういいわよ、シャリー。
やってしまったものはしょうがないわ。
過去は変えられないし……。
それよりもアルテミス、勇者たちの動きは?」
アルテミスは、シャリーの方から私に向き直ると話始める。
「はい、現在勇者たちは話し合いをしているようです」
「話し合い?」
「はい、天界の門へどう進むかの話し合いを……」
「ということは、見つけたのね」
「どうやら、向こうの勇者の一人が、天才的な魔道具作りのスキルがあるようで……」
「天才か……」
一条颯太が、考え込んでいるわ。
自身も、いろいろと開発をしているようだからライバル視しているのかもね。
「他の連中は?」
「教会の騎士や兵士に職員と思わしき連中ですね?
そやつらは、ガランの町が魔物に襲われたことでいろいろと動いているようです。
そのため、勇者たちは勇者たちで動くようようです」
「……そう、それなら教会に邪魔されずに話し合いができそうかしら?」
「おそらくは……。
勇者の中に、教会を信用していない者もいるようですし……」
「話し合いができるといいわね……」
私の話を聞いてくれるといいのだけれど……。
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