第270話 違う世界の颯太



Side ???


浮遊大陸の町ガランが魔物に襲撃を受けたと聞いて、俺たち神殿兵士と神殿騎士、さらに勇者様方と一緒にガランの町へと向かった。


そして、町に到着してみれば城壁に囲まれた町が壊滅していた。

しかも、城壁は無傷なのに町の建物はほとんどが崩壊し、人々も無事なものがいない状態だった。


俺たち神殿兵士は、神殿騎士と組んでまだ生きている人たちの捜索、救助を任される。


「神殿兵士のアリウスです!」

「同じく、神殿兵士のフィルといいます!」

「同じく、神殿兵士のリーブです!」

「神殿騎士のロランドだ。

君たち兵士と私とで、町の生存者を探しここに避難させる。

行くぞ!」

「「「は、はい!」」」


俺たちは四人一組となり、ガランの町へと出発した。

勇者様方は、町の周りを捜索して魔物を討伐するらしい。

さすがだ、勇者様方だけで町をこんなにした魔物を討伐できるとは……。


俺たちは、崩壊している町へと入り、いろいろな場所を捜索する。

生存者がいることを祈りながら……。



「いたぞ! 生存者だ!」

「……ホントだ、子供が二人生き残っている!」

「すぐに避難所へ連れて行く!

歩けない場合は、お前たちが背負って運んでやれ!」

「はい!」

「分かりました!」

「アリウスは、俺と一緒にこの周辺を捜索する!」

「了解!」


俺は、フィルと一緒に子供を背負うと、避難所にしている場所へと走って行く。

俺たちが背負っているとき、子供たちは泣かなかった。

ただ、生きている、そんな感じしかない。


どうも感情が無くなっているようだ……。

無理もない、大型魔物の襲撃でショックを受けたのかもしれない……。


「リーブ、この子たちは……」

「……」


俺は、顔を左右に振る。

この子たちを助けるには、長い時間が必要になると思う。

それでも、回復するかどうか……。


「かわいそうにな……。

でも、この子たちだけというのは……」

「たぶん、この子たちを逃がすために……。

そうなったのかもしれないし、もしかしたら別の場所で生きているのかもしれない」

「……生きているといいな」

「ああ、望みは薄いけどな……」

「……」


それからは、喋ることなく俺たちは子供たちを避難所まで運んだ。



避難所に到着し、世話をしている教会職員に引き渡すと、捜索のために神殿騎士のロランドの元に戻る。

その途中、城壁の外で大きな音とともに地響きを感じた。


そして、魔物の断末魔の叫びを聞く。


「あれは……」

「おそらく、勇者様方がこの町を襲ったと思われる魔物を倒したんだろう……」

「さすが、勇者様方だな……」

「魔物は勇者様方に任せて、俺たちは捜索に戻ろうぜ」

「ああ、一人でも多く生存者を探さないとな!」


決意も新たに、俺たちは走り出していた。

町の仇は、勇者様方がとってくださる。

俺たちには、俺たちのできることをするだけだ……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


地球で生まれたダンジョンの問題が解決し、再び異世界側の情報収集をしていると、浮遊大陸で動きがあったとエレノアから知らされた。


今後、地球でどのようにダンジョンを利用するのかを話した後、異世界側に放っていた虫ゴーレムなどからの映像で判明したらしい。

地球のダンジョンに掛かりっきりだったため、察知するのが遅くなったようだ。


そして、浮遊大陸で起きていることがさらに俺たちを驚かせていた。


「……どういうことでしょうか?

この一条颯太という人物、マスターに瓜二つなのですが……」

「ミア、俺に双子の兄化弟はいないぞ?」

「ええ、分かっています。

ですが、この人物の顔はマスターそのもの……」


俺たちは、勇者たちが浮遊大陸に来ていることや、浮遊島を落とした黒幕のプリラベーラという女性の事や容姿にも驚いたが、一番驚いているのが一条颯太の事だった。


……これは、俺の予想だが、この一条颯太とは、違う時間軸の俺なのだろう。

現に、ミサキやカナデが勇者としてこの異世界に召喚されていたが、俺の知る二人ではなかったことを考えると、そういう可能性の方が高い気がする……。


「マスター、どうしましょうか?」

「……今は監視と情報収集のみにしよう。

何が起こるか分からないが、このプリラベーラと名乗る女性に任せていた方がいいような気がする」

「勇者たちは、話を聞くでしょうか?」

「おそらくな。

それに、勇者たちの目的は天界の門だ。

その目の前に立っている屋敷が、気にならないわけがないだろうし……」

「ですよね……」


それからは、浮遊大陸で情報収集をしていく。

また、魔王のダンジョンの状況も調べ始める。


勇者たちのことを調べているうちに、魔王のダンジョンの話題が出てきたので調べることにしたのだ。



「なるほど、浮遊戦闘艦、か。

これはもう、SFの世界じゃないか?」

「かなり地球のアニメなどの影響が出ていますね。

宇宙戦艦なんちゃらのような感じですし……」

「まあ、違う時間軸の俺だと思うからな。

男のロマンを追いかけて設計したのだろう……。

ところで、一条颯太は、召喚された地球人なのか?」

「いえ、プリラベーラとの会話で違うことが分かりました。

一条颯太は、迷い人だそうです。

違う世界から、この世界に迷い込んだ人という意味だそうで、プリラベーラの話では、昔から勇者召喚を行ったとき、何回かに一回の割合で巻き込まれるそうで、過去にもいたそうです」

「……勇者召喚の弊害というやつか。

迷惑な話だな……」


やはり勇者召喚とは、どんな世界でも迷惑なことこの上ないな……。

一条颯太は、勇者召喚に巻き込まれる形でこの世界に迷い込み、プリラベーラと知り合ったということか?

……いや、拾われた、といったところか。







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