第267話 浮遊大陸にて



Side ???


浮遊大陸にある町ガラン。

この町から、浮遊帆船などに使われる浮遊石が輸出されている。

今、この町の空中桟橋に勇者たちの乗った浮遊帆船が到着した。


「……ねぇ、私の見間違いかな?

あそこに停泊している浮遊帆船が、幽霊船に見えるんだけど……」

「勇者ミサキ様、私の目にも幽霊帆船に見えます。

……どういうことでしょうか?」

「!? ロット! 空中桟橋に近づけろ!

兵士たちを甲板へ! 勇者様方は、この船に残っていてください!」


浮遊帆船で指示を出していた船長は、すぐに異変に対応する。

空中桟橋に停泊する浮遊帆船が、幽霊船のようにボロボロになっていた。

何故そんな状態で、今もなお浮いていられるのか……。


これは、町に何かが起きたようだと察し、町を調べるため教会が世話役として乗せていた神殿兵士を投入することにしたのだ。


「船長! 私たちも町へ向かいます!

あの町で何かが起きたことは確かです。勇者だからと、ただ待っているわけにはいきません!」

「勇者ミサキ様……」

「私たちだって、降りるわよ!

このまま船に残っていても、気になって後で調べに降りてしまうと思うし、それならみんなと一緒に行動しましょう」

「勇者カエデ様……」

「……分かった。だが、危険だと判断したらすぐに帰ってくるんだぜ?

この大陸から、一目散に逃げてやるからな!」

「ええ、分かったわ!」


空中桟橋に、浮遊帆船が横付けされるとすぐに、もやいを固定させる。

そして、橋を浮遊帆船と空中桟橋の間につけると、神殿兵士や一部の勇者たちが桟橋に降りる。


「神殿兵士たちは、すぐに町へ向かってくれ!」

「「「ハッ!」」」

「勇者様たちは、あの幽霊帆船を調べるのですね?」

「ええ、どうしても気になるのよ……」

「勇者ミサキ様、何か感じ取られたのですか?」


すると、勇者ミサキは幽霊帆船を見ながら答える。


「さっき、あの帆船の側面に穴みたいなものを見つけたのよ。

それに見て、あの帆。

ボロボロに破れているように見えて、マストと帆がしっかりと結ばれていないだけのような気がするのよ……」

「……確かに、あんなに風になびいているけど風を受けることはできそうだね……」

「とにかく、近くに行ってみましょう」


勇者たちと従者たちは、ボロボロになって幽霊帆船と見間違う浮遊帆船に近づく。

すると、浮遊帆船の状態がハッキリと確認出来てきた。


空中桟橋に横付けで停泊している浮遊帆船は、何者かの攻撃を受けたようだ。

勇者ミサキの見たという、船の側面の穴は、確かに開いていた。

それも、いくつもの穴が……。


「……これって、砲撃の後?」

「どうやらそのようですね。

船の中へ入ってみましょう、何か分かるかもしれません」

「そうね……」


勇者たちと従者たちは、浮遊帆船の中に入っていく。

桟橋と船の間に橋が渡されていて、中に入ることは容易だったが……。


「この橋、船員たちが船から逃げるために掛けたのかな?」

「停泊中に、出入りするために掛けた橋じゃないでしょうか?

で、その時に何者かに襲われて、避難に使った……」

「その襲ってきた相手とは?」

「普通に考えるなら、空賊ですが……」

「空賊が、この帆船を襲う?」

「……」

「この帆船は、運搬用の浮遊帆船ですね。

船底に、浮遊石が残っていました。

後、貨物室にも浮遊石が木箱に詰められていましたよ……」

「浮遊石を、お宝といえなくもないですが、浮遊帆船の方が価値がありますよね。

空賊が狙うなら、浮遊帆船は無傷で手に入れそうなものですけど……」

「……勇者ミサキ様、これはあくまで私の仮説ですが……」

「聞きましょう。

勇者カナデの従者ホルスの仮説を」

「もし空賊が、犯人だとして襲った目的は、浮遊帆船ではなく町の方だったということは……」

「ねぇ、この町ガランに、空賊が狙うような物があるの?」

「はい、勇者ショウコ様。

この町のギルドの金庫に、浮遊結晶があります。

浮遊結晶は、浮かぶ宝石といわれるほどの価値あるものです。

オークションに掛ければ、国が買えるほどの値がつくらしいですよ」

「へぇ~」


勇者ショウコの目が変わった。

まるで、獲物を狙うかのような鋭い目で怪しい光を放っている……。


「勇者ショウコ様?

浮遊結晶は、この浮遊大陸から動かすことはできませんよ?」

「何で? ただの宝石なんでしょ?」

「浮遊結晶は、この浮遊大陸を浮かばせている原動力といわれています。

しかも、浮遊大陸にはいくつもの浮遊結晶が存在して、浮遊大陸全体を浮かび上がらせているとか……」

「ですから、浮遊結晶をこの浮遊大陸から動かすことは、浮遊大陸を崩壊させることになります」

「……一つや二つ程度ならいいんじゃないの?

大陸全体にいくつもあるんでしょ? 浮遊結晶は」

「それでも、あえて危険を冒す必要はありませんでしょう」


そこへ、町の方から走って来た神殿兵士の姿を見つける。

浮遊帆船の甲板から、従者ホルスが声をかける。


「そこの神殿兵士!

急いでいるようですが、町で何かありましたか?!」

「! た、大変です!

町が! ガランの町が! 襲撃を受けたようです!」

「なんですって?!」

「襲撃?! 何に襲われたか分かるか?!」

「魔物です! 襲撃後から、大型のキメラの一種ではないかと!」


神殿兵士の報告では、町は襲撃を受けた後で、死体がいくつも放置されていた。

さらに、浮遊大陸の中央へ向けて人々の足跡や、何かを引きずった跡などが残っていたらしい。


そして、町には無事な建物がほとんどなく、その崩れた建物の中で人々の死体を発見したとか……。


浮遊大陸で、今何が起きているのか……。







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