第265話 抵抗する男



Side ミア


地球にできた、死霊系ダンジョンを攻略している。

ウー・リーという人の魂がダンジョンマスターとして取り込まれ、地球にダンジョンが出現してしまった。


「ん~、おかしいわね……」

「ミア、何がおかしいの?」

「いえ、ダンジョンに出現してる死霊系の魔物がおかしいと思ったのよ」

「死霊系の魔物がおかしいの?」


ずっとダンジョン内を映しだしたモニターを見ていて、私は何かがおかしいと感じた。

でも、何がおかしいのか分からない……。


「どうも、違和感というか変な感じがするのよ……」

「それって多分、出現する死霊系の魔物の種類じゃないかしら?」

「魔物の種類?」

「ああ! そうね、そうよね!

私も、何か違和感を感じていたんですけど、それが何か分からなかったんです!」

「ソフィアも?

……それで、魔物の種類ってどういうこと?」

「ミア、分かるでしょ?

このダンジョン、死霊系の魔物が出てきているにしては死神とかバンパイアが出てきてないでしょ?

まあ、バンパイアが死霊系か分からないけど……」

「そういえば、出てきた魔物ってスケルトンにゴースト、ゾンビにリビングデッドと有名どころがあるものが多いわね……」

「まるで、地球のホラー映画に出てくるような死霊系の魔物ばかり……」

「?! もしかして、ダンジョンマスターの知っている死霊系しか出てきていない?」

「そうよ。

ダンジョンマスターになった、ウー・リーの知識の中の死霊系しか現れないのよ」

「でもさっき、巨人のスケルトンが出たわよ?」

「あれは、人間サイズのスケルトンを大きくしただけよ。

巨人のスケルトンじゃないわ」

「……確かに、私の知っている巨人の骨組みではなかったわね。

あれでは、自分の重さに耐えられないはず……」


そうか! 違和感の正体はそれか!

巨人のスケルトンではなく、人間のスケルトンを大きく巨大化しただけだから、動き方がぎこちなかったのか。


あれでは、自身の重さでつぶれてしまう。

それを魔力で、無理矢理立たせて襲いかかってきたのか!


「どうりで、巨人のスケルトンの割に弱かったはずだ……」

「だから、巨人のスケルトンも数体出現させただけで出なくなったのか……。

スケルトンナイトやスケルトンアーチャーなど、小技と数で襲いかかってきているようだけど、烏合の衆って感じで弱いわね」


すでに、六十階層に突入している。

それに、ゴーレム騎士はまだ二百体以上いるのだ。

このダンジョンに、勝ち目はないはず……。



そして、その後もたいした死霊系魔物も出現しないで、ゴーレム騎士たちは六十六階層の最下層へ突入し、ボス部屋の扉の前に到着した。


「いよいよね。

エレノア、中の様子はどう?」

「虫ゴーレムからの映像には、何も動きはないわね。

ダンジョンマスターのウー・リーは、座ったまま動かないわ」

「それじゃあソフィア、ゴーレム騎士たちに扉を開けさせて」

「了解!」


重く重厚な鉄と思われる扉が、押し開けられていく。

ゆっくり、ゆっくりとゴーレム騎士に押されて開いていく。

そして、扉が左右に開くと中のボス部屋にゴーレム騎士たちが突入していく……。


『ようこそ、私のダンジョンへ!』

「?! この声、ウー・リーの声?」

「そうでしょう?

ダンジョンマスターが立ちあがって、こちらに声を掛けてきたのよ!」

「ソフィア、ゴーレム騎士を通じて、こちらの声を届けることできる?」

「任せて、大丈夫よ」


ソフィアが操作盤を操作し、ミアにマイクを渡した。


「あなたが、このダンジョンのボスってわけね?」

『初めまして、私はウー・リー。

元遺跡調査隊のメンバーだった助教授だ』

「元遺跡調査隊? もしかして、自分はもう死んでいることに気づいているのかしら?」

『ああ、私はもう死んでいる。

ここにあるのは、私がこの世に残した恨みや憎しみだけだ……』

「恨み? 憎しみ?」

『すべては、私の妻への恨み! そして憎しみ!』

「あなたの家庭の事情なんて関係ないわ。

私たちは、このダンジョンを攻略するためにあなたを倒すのみ!」

『いいよ。私にとって、こんなダンジョンなんてどうでもいい。

でも、誰かが私を操るんだよ。

死にたくない、壊されたくないって……。

だから、抵抗させてもらうよ!』

「!?」


そう言った後、ボス部屋に大量のスケルトンやゴースト、ゾンビやリビングデットが出現した。


『さあ、死んで仲間になれ!』

「ゴーレム騎士隊、戦闘開始!!」


ボス部屋に突入させてあったゴーレム騎士、約二百体が戦闘を開始した。

剣を抜き、盾を構え戦っていく。

そして、戦い始めてすぐにボス部屋の扉が大きな音をたてて閉まった!


「扉が閉まったことにより、閉じ込められたわ!」

「外には何体残ってる?」

「約百体残っているわ。

このゴーレム騎士たちはどうする?」

「そのまま待機させておいて、中で戦っているゴーレム騎士たちに何かあった時の予備になるから」

「分かったわ。

中の戦いは、こっちが優勢みたいね……」


それにしても、ウー・リーには妻がいたのね。

夫婦仲は、よくなかったようだけど……。

そして、ウー・リーはダンジョンなんてどうでもいいと思っていた。


だけど、何かに操られて戦っている……。

その操っているのは、ダンジョンの意思というやつね。



「ボス部屋いっぱいの死霊系魔物の数、約半分に減りました!

ダンジョンマスター、ウー・リーへの攻撃が始まりました!」

「手の空いたものから、ボスへの攻撃に切り替えて!」

「了解!」


しかし、ウー・リーもなかなか強いわね。

ダンジョンに操られているとはいえ、あんなにも戦えるものなの?

それに彼が手に持っている武器、確かモーニングスターっていう武器だったと思うけど、ゴーレム騎士を一撃粉砕はありえないわ……。


「ま、まずいよ、ミア!

ゴーレム騎士が、一撃で粉砕されちゃったよ?!」

「盾をうまく利用して、攻撃をしのぐのよ!

衝撃を受け流す形で、避けるの!」

「そんな無茶な……」

「エレノア! 数だけの死霊系魔物はどう?」

「まだ、四分の一残ってる!

手の空いたゴーレム騎士から、ボスに向けているから何とかなるはず……」

「ここは、数で押し込むしかないわ……」


こうして次々にゴーレム騎士たちを、ダンジョンマスターと戦わせてようやくウー・リーの討伐に成功した……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る