第259話 教会の侵攻



Side ???


魔王ダンジョンに攻め入って、第十六階層へ侵入した。

ここは、墓場フィールドと呼ばれる場所で敵として出現するのは、スケルトンとゾンビがほとんどだ。

フィールド内は、ほぼすべて墓地となっていて進みにくかった。


だが、教会が考案した従魔の卵を使った信仰が功を奏し、これまで犠牲無しで進めている。


「ローベン隊長! 従魔たちの消耗が激しすぎます。

どこかで休息をお願いできませんか?」

「何? 従魔などそこら辺で調達可能だろう」

「ここは、スケルトンとゾンビがほとんどです。

従魔の卵で捕らえられるものがいません!」


従魔の卵を使って、捕らえることのできる魔物は動物型しかいない。

それが、どんな強力な魔物でも捕らえることができるのだから従魔の卵様様なのだが、弱点がこの、動物型魔物以外に効果が無いというものだ。


そのため、今我々の従魔となっているのが十四階層で捕らえたオルトロスなのだ。

二つ頭の大きな犬なのだが、ここまで戦わせすぎたのかかなり疲労している。


「チッ! 従魔の卵、使えないな!

……仕方ない、この先の噴水がある場所で休憩だ! オルトロス三十二頭の世話、しっかりするんだぞ!」

「は、はい!」


ブツブツと文句を言いながら、ローベン隊長は行軍に戻っていった。

俺も、自分の行軍位置に戻る。

そして戻ると、隣を行軍する友人のデリーが話しかけてくる。


「クリン、よく進言してくれた!」

「デリーも、気になっていたんなら隊長に進言すればいいのに……」

「あの隊長だぞ?

従魔を、ただの魔物としか思っていないあの隊長に、何を言っても無駄だと思ったんだよ……」

「でも、こうして見ていればこの子たちが、かなり疲労しているのは分かりきっていることだろう?」

「……そうなんだよな。

従魔にしてから、ずっと戦いっぱなしだしな。

いい加減、休ませてやりたかったんだけどな……」


『噴水が見えたぞー!

あそこでいったん休憩だー!』


「……どうやら、本当に休憩してくれるようだな……」

「そこは、ちゃんと考えているんだろうね。

隊長を任されている人だしさ……」

「そうだな……」


水を出さない噴水場に到着後、俺たちは休憩に入った。

従魔たちも、各々休息をする。

神殿騎士隊、二十人。神殿兵士隊、五十三人。

従魔使い隊、三十人。そして、それぞれの隊長が三人。

さらに、従魔としたオルトロスが三十二頭。従魔としたオークが三頭。

ダンジョンウルフの灰色が二頭。

この大所帯が、休息をとる。



「はぁ~、疲れた……」

「ジュリス、お疲れ」

「クリンもお疲れ」

「オークとダンジョンウルフの数、だいぶ減ったな……」

「行軍の先頭で戦わされていたからね、減りもするよ……」


従魔の卵で捕らえたダンジョンウルフ、最初は五十頭からいたんだが、今ではわずか二頭。

オークも、従魔の卵で最初は六十頭いたが、今ではわずか三頭だ。


「動物型の魔物を見つけ、従魔の卵をその見つけた魔物に向けて呪文を唱える。

すると、魔物が従魔の卵に吸い込まれ、三十秒ほどたつと排出される。

そして、最初に見た人を主人として従魔となる。

両手に抱えられるサイズとはいえ、今でも信じられない効果ですよね……」

「そうだな、この従魔の卵を発明した魔道具士は天才だよな。

ただ、教会に使われなければ、だけど……」


教会は、テイム魔物や従魔を仕方なく認めているが、教義には反しているので本音では認めることはできていない。

だから、魔王討伐までの必要悪といったところか。


「クリン、オルトロスたちに水を出してくれるか?」

「了解。この樽に水を出せばいいのか?」

「ああ、並べてある樽にお願いする」

「……これ全部? 他にも水魔法の使い手はいただろう?」

「ああ、ダメダメ。

神殿騎士は、協力しないし神殿兵士は、金を要求するからな……」

「他の従魔使いに、水魔法が使える奴はいなかったか?」

「今は魔力切れだ。

だから休ませている」

「……そうか、戦闘中の援護で?」

「それと、神殿騎士や神殿兵士たちに頼まれてな……」


なるほど、体を拭いたり汗を流したりに使われたのか。

ワガママな連中が多いからな、特に神殿騎士の連中は……。


この先、魔王のいる最下層まで行けるのか?

このままの行軍で……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


京都駅に到着した俺たちは、駅の外に出ると待っていたバスに乗り込み奈良へと向かった。

京都の町を散策するのかと思ったら、それは明日からだそうだ。


「何で京都駅で降りてから、奈良に向かうんだ?」

「さぁ~、何か都合があるんじゃないか?」

「それって、大人の都合ってやつか?」

「じゃないの?」

「それって、癒着とか袖の下とか?」

「さぁね。もしかしたら、もっと単純な理由かもしれないね~」

「単純な理由?」

「泊まるホテルが京都にあるから、そこを中心に移動しているとか」

「なるほど……」


陸斗と悟が、バスの中で変な雑談をして盛りあがっていた。

そんなどうでもいい会話ではなく、京都の町をバスの中から眺めろよ。

奈良の町を眺めろよ。


「この後は、どこに行くんだっけ?」

「東大寺や法隆寺に行く予定よ。

そこでは、班ごとの移動になるから私たちの班と一緒に移動しましょう?」

「特に断る理由もないし、陸斗たちも賛成するだろうからいいよ」


というわけで、凛たちの班と俺たちの班は一緒に見学することになった。

さて、写真を撮りまくるぞ……。







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