第258話 従魔の卵



Side ミア


コアルームで、地球の様子、ダンジョンパークの様子、異世界側の様子をモニターしていますが、今注視しなくてはならないのは地球の様子です。


実験ダンジョンが、核の攻撃を受け実験中止となりましたが、いろいろと残ってしまったものもあります。

その一つがトレントの苗木でしょうか。


どうやら、トレントの種が、何かの魔物か動物によってダンジョンから持ち出され、地球の自然に根付いてしまいました。

私たちの知らない間に数を増やし、今では北の大国の領土の三分の一、あの国の北側、元独立国のほぼ全域での植生を確認しました。


これでは、生み出される魔素が海を渡って日本へも届いてしまいますね……。

まあ、ほとんどは海に吸収されますから届くのはごく一部。


「そういえば、礼文島で二足歩行の猫が発見されたとありましたね。

どうやら、ごく一部でも影響が出始めているということですか……」

「マスター?」


地球の様子を観察していると、エレノアがコアルームに入ってきました。

マスターに会いに来たということは、何か報告があるのでしょうか?


「エレノア?

マスターならいませんよ」

「あ、そうか。

今日から修学旅行に出発したんだったか……」

「何か、マスターに報告することがあったのですか?」

「ん~、ミアでもいいか。

さっき、魔王のダンジョンに教会側が総攻撃を始めたんだよ」

「……ついに始まりましたか」

「ミアは知ってたんだね」

「知っていたというか、その兆候があることは分かっていましたから、一応魔王ディスティミーア様には連絡してあります」

「なら、問題ないかな……」


魔王には知らせてありますし、対処は向こうがしてくれるでしょう。

それに、教会側の戦力も総攻撃とはいえ、召喚勇者の大半が戦力温存か何かの作戦か知りませんが参加しないことになっているようです。


「あ、魔王のダンジョンとの交流は大丈夫かな?」

「魔王のダンジョンと繋がっているのは、最下層の町とですから大丈夫でしょう。

何かあれば、最下層の町の人たちがこちら側に避難してきますから、それで分かりますよ」

「なるほど、それなら大丈夫か。

ところで、魔王のダンジョンって何階層あるんだっけ?」

「確か、二百階層以上と聞いていますが……」

「ほえ~、二百階層とはまた深いね~。

うちのダンジョンとは大違いだ」

「私たちのダンジョンは、広さを求めたダンジョンでしたからね。

それと、人を住まわせることも考慮すれば、ダンジョンとしては平和なものになったのではないでしょうか?」

「確かに~」


みんなの認識にあるダンジョンとは、全く違うものになりましたが、私はこのダンジョンでよかったと思います。


「マスター、いる?」

「あ、ソフィア。

マスターは、修学旅行でいないわよ」

「あ、そうか。

今日から三泊四日、いないんでしたね」

「ソフィア、何かマスターに報告があるの?」


エレノアの報告を聞いていると、コアルームにソフィアが入ってきました。

ソフィアもまた、何かマスターに報告することがあるようですね……。


「異世界側の町で、問題があったんだけど一応二人には報告しておくわ」

「聞かせて」

「ミアもエレノアも、従魔の卵っていう魔道具知ってる?」

「いえ、私は知らないわね」

「ミアが知らなんじゃあ、私も知らないわ」

「……二人とも知らないのね。

従魔の卵っていうのは、テイムできない魔物なんかをテイムするときに使うものなのよ。

最近教会が発明した物らしくて、今問題になっているの」


従魔の卵、ですか。

異世界側も監視していましたが、分かりませんでしたね。


「それは、どんな効果があるの?」

「動物型の魔物で、テイムできないものをテイム可能にする魔道具なの。

この従魔の卵に封じ込めた魔物を、卵が解放されるときに見たものを主人と思わせる魔道具なのよ」

「ん~、つまり刷り込みを利用したテイム用の魔道具というわけね」

「そう」

「でも、それで何が問題になるの?」

「実はこれ、人にも使うことができるのよ」

「はあ?!」

「まあ、問題はそこじゃないのよね……」

「違うの?!」

「本当の問題はこの魔道具で、横取りテイムが横行していることなのよ……」

「横取りテイム?!」


横取りテイム。

本来は、ありえないテイムの仕方だわ。

最初の人がテイムした魔物を、次の人がこの従魔の卵を使用して横取りするってことよね?

……なるほど、刷り込みを利用しているからテイムした主人のことをきれいさっぱり記憶から消して、まったく無垢な状態で新しい主人に認識させる。


「でもそれ、その場ではできないよね?

魔道具に封じ込めたとしても、開けた人が最初にテイムした人なら問題ない……わけないか」

「何せ、刷り込みを利用しているから記憶もなにもきれいさっぱり無くなっているということね……」


記憶もなにもきれいさっぱり……。

教会が考えそうなことね。


……ん? ちょっと待って。

何か、大事なことを見落としているような気がするわね……。


「ねえエレノア、さっき教会が総攻撃を開始したって報告したわね。

もしかして、この従魔の卵を使って教会側が倒せない魔物をテイムしていったら、魔王のダンジョンが大変なことにならなりませんか?」

「……確かに、まずいかも」

「え? 教会側が魔王のダンジョンに攻め込んだの?」

「しかしたら、勇者たちを外したのって従魔の卵を使うため?」

「強い魔物を勇者に、倒させないために……」

「すぐに知らせましょう!」


魔王に知らせて、対策をしてもらわないと……。

テイムできない魔物をテイムする魔道具、考えてみれば、魔王のダンジョン対策ととれなくもないわね……。


ああ、こんな時にマスターがいれば、何かしらの対策を考えてくれるのに……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


「あ、富士山見えた!」

「おお、ホントだ……。

今日は天気がいいから、頂上の方までしっかり見えるな……」

「頂上の方は、少し雪があるみたいだな……」


新幹線から見る富士山は、なかなかいいものだな。

後、クラスのみんなで見るのも新鮮な感じがするな……。







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