第255話 報告



Side 五十嵐颯太


今日は、ミアにコアルームに呼び出された。

何でも、すぐに報告しておかなければならないことがあるそうだ。


「修学旅行の準備に忙しいときに、お呼び立てして申し訳ありません」

「いやいや、準備はあらかた終わったから構わないよ。

それで、何か報告があるんだろ?」

「はい、マスター。

まずは、こちらをご覧ください」


ミアがそう言った後、俺の目の前にモニターが出現し、何かの木の映像が流れる。

それは、住宅街にある一軒の家の庭に生えている若木のようだ。


別に、おかしいところは……。


「……あれ? ミア、もしかしてこの木は……」

「お気づきになられましたか?

そうです。これはトレントの木です。

まだ、成長しておりませんがすでに魔素が生成され空気中に放出されています。

さらに、ここら一体に他のトレントの木が植えられているのを発見いたしました」

「これって、どこの住宅街だ?」

「あの国です。

あの国の首都から東側の地域になります。

さらに、森林でおおわれている山間部でもトレントの木を発見いたしました」


あの国の山間部でもトレントの木を発見?

ということは、だいぶあの国にトレントの木が蔓延っていることになるな……。

でも、どこから?


遺跡ダンジョンから、トレントが出現したということはなかった。

魔素がダンジョンから流れていて、周りの植物に影響を与えてトレント化した?

そしてそれが、何らかの形で移動しあの国のあちこちに根を下ろしたとか?


「ミア、あの国の魔素の分布を見れるか?

ここ最近のを」

「昨日、測定したものがあります」


そう言うと、別のモニターを出現させ表示してくれた。

そして、そこに表示されたものを見て、俺は驚いた。


「あの国の北部は、完全に魔素が広がっているな。

それもかなりの濃度だ。

それに、北の大国の東側にも魔素が広がっている。

これは、トレントがかなりの広範囲に生息している可能性があるな……」

「すぐに調査します。

それで、生息を確認されたトレントの始末はどうしましょうか?」

「トレントは、植物の魔物だ。

本来なら討伐した方がいいんだろうが、ここはこれ以上広がらないように間引くだけにしてくれ」

「それは構いませんが、なぜ……」

「北の大国で、二足歩行の猫が出現しているからな。

もしかしたら、トレントの出す魔素の影響かと思ってな……」

「分かりました。

トレントは、間引くだけにしておきます」


それと、二足歩行の猫をはじめとした変異した動物の確認も指示しておいた。

もしかしたら、人の変化も起きているのかもしれないが今は確認が取れていないからな。

調査は後回しだ。


それにしても、このままだと地球にトレントが蔓延するのも時間の問題か?




▽    ▽    ▽




Side ???


あの国の生物・細菌研究所に、スーツ姿の男たちが入ってきた。

そして、例の魔物が解体保管されている一室に入ってくる。


「な、何ですか?! あなたたちは!」

「保安部のものです。

こちらの研究機関で、遺跡から出現した化け物を培養しているとの報告がありました。

強制的に調べる予定でしたが……」


そう言って、円柱型の水槽に目がいく。

そこには、ゴブリンの幼生体が入っていた。


「そ、それは……」

「調べる必要も無いようですね……。

キム研究員、国家騒乱罪で逮捕します!

それと、あなたの研究はすぐに凍結されるでしょう」

「そ、そんな!

これは、国家のためになると……」

「核により無くなった遺跡に関する研究は、禁止命令が出ていたはずです。

なぜ、すぐに破棄されなかったのか……」

「……」

「連れて行け!

それと、研究物の押収も忘れるな!」

「「ハッ!」」


女性研究員は、スーツ姿の男たちに連行されていった。

そこへ入れ替わるように、男性研究員が入ってくる。


「……お手数をおかけします」

「いえ、あなたの通報がなければたいへんなことになるところでした。

これが世に出ることになると、大変な混乱をよぶことでしょう」

「混乱、ですか?」

「ええ、このような化け物を制御できるとは思えませんからね。

それに、この化け物がどのような生物かご存じですか?」

「確か、ファンタジー物の物語なんかに書かれていますね。

女性を襲って自分たちの仲間を産ませるための苗床にするとか……」

「フフ、それは偏った知識ですよ。

こいつらは数で襲ってきます。

増やし方は、実際のところ分かっていません。

もしかしたら、あなたの言う通りかもしれませんし分裂で増えるのかもしれません。

ですが、確実に数を増やし数で襲いかかってくるのです」

「……戦ったことがあるような言い方ですね?」


男は、男性研究員の方を見るとフッと笑う。


「ええ、遺跡調査隊に参加して戦ったことがありますよ。

遺跡からあふれ出るように出現し、仲間を逃がすために戦いました。

今、生きているのが不思議なくらいの戦いでしたよ……」

「……」


二人の間に沈黙が流れる。

そこへ、別のスーツ姿の男が入ってきた。


「隊長、こちらに来ていただけますか?

別の化け物が入った水槽を発見しました」

「分かった、すぐ行く。

では、ご協力ありがとうございました」


男性研究員に敬礼すると、男たちは部屋から出ていった。

男性研究員は、幼生体の入った水槽を見る。


「これで、いいはず……。

俺は、間違っていないはずだ……」


たとえ裏切り者と呼ばれても、この行為が国家のためになると信じて……。

そう男性研究員は、自身を納得させていた……。







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