地球の魔力と異世界の教会の章
第252話 目覚める女性
Side ???
『ニャー』
私の耳元で、猫の鳴き声が聞こえて目が覚めた。
朧気ではあるが、何があったのか少しだけ記憶がある。
「……ここは、病院?」
「目が覚めたようね?
ここは、救護所よ。病院ではないわ」
私に話しかけてくるのは、美人な看護士と思われる人で、ロシア系の金髪の女性だ。
私は不意に、瓦礫に埋まる記憶がよみがえり、息が荒くなる。
すると、私を心配したのか猫が私を見て鳴いた。
『ニャー』
「……ありがとう、私は大丈夫だよ」
『ニャー』
私の頬を、右前足でテシテシと叩いてくる。
ん、全然痛くない。
「この子、ずっとあなたの側に付きっきりだったのよ。
ずいぶん懐いているようだけど、あなたの飼い猫なの?」
「いいえ、猫は好きだけど、私は飼ったことなかった……」
「じゃあ、すごく懐かれたのね……。
後で、先生の診察があるわ。
それで、許可を貰えたらリハビリをするからね」
「はい……。
あの、今は何月何日ですか?」
「今日の日付?
今日は、十月の二十九日よ」
「……ありがとう」
「それじゃあ、このまま横になっててね?」
「はい」
『ニャー』
看護士さんは、私がベッドに横になるのを確認すると、部屋を出ていった。
猫は、ベッドの側の机の上を寝床にしているようで、ベッドから寝床に移動していった。
ベッドに横になって、天井を見ていると思い出す。
私の記憶の日時と、今確認したに日時がかなり離れていた。
「はぁ~、何が起きているんだろう……」
右手を寝転んでいる私の顔の前に持ってきて、意識を集中する。
すると、右手が淡く光りはじめた。
それを確認して、さらに意識を集中すると右手は光を放ち始めた。
さらに意識を集中すれば、右手が輝き始める。
『ニャー』
「はっ?!」
猫の鳴き声で、意識がそれた。
それと同時に、右手の輝きが霧散する。
鳴いた猫の表情がどこか悲しそうだ……。
……そういえば、右手が輝いて敵を倒す、そんなロボットアニメがあったような記憶があるな。
確か、日本のアニメだったような……。
私は、右手を見ながらいろいろ思い出していた。
「……確か、俺の右手が真っ赤に燃える。
勝利を掴めと『失礼するよ』」
「先生?」
「ああ、どうやら気がついたようだね。
どうして、ここにいるか分かるかい?」
「確か、瓦礫が襲ってきたところまでは思い出しました……」
「そうか……」
先生、そんな痛ましい表情をしないでください。
……でも、瓦礫に襲われた記憶を思い出したけど、怖いという感じはないな。
何でだろう……。
「君の名前を聞いても、いいかな?」
「………」
「ん? 思い出せないのかな?」
「……はい」
「うん、一時的に思い出せないだけかもしれないから、ゆっくり思い出していこう。
それじゃあ、なぜあの場所にいたのかは分かるかい?」
「………」
「これも、思い出せないか」
「はい……」
この後、いろいろ質問されて答えていくということを繰り返すことで、私の今の状況が分かった。
私は、断片的記憶喪失らしい。
自分の名前が思い出せないのに、年齢は思い出せた。
「十九歳」
「十九歳……。君が発見された場所は、大きなビルの前だった。
今は、崩れて瓦礫の山になっているが……。
そこで、何をしていたかは分かるかな?」
「えっと……。
確か、待ち合わせ場所へ向かっていたような……」
「確かな記憶かな?」
「……分かりません。朧気に、そんな景色が見えただけで……」
「大丈夫だよ、ゆっくり思い出せばいいんだからね」
『ニャー』
「ほら、猫も無理するなといっている」
「分かるんですか?」
「なんとなく、そんな気がするだけだ。
だが、今日はここまでにしよう」
白衣を着た先生は、私の脈をとり顔色を見て部屋を出ていった。
途端に静かになる病室。
扉の向こうのこもった音が、微かに聞こえているが気になるものでもない。
「……私、誰なんだろう」
▽ ▽ ▽
Side ???
猫に好かれた女の子が、目を覚ました。
自身の身体を治した奇跡の女の子は、いまだ目覚める様子はない。
だが、猫に好かれた女の子が、記憶消失とはな……。
部分的だったことは、幸いだったのか?
それと……。
私は、救護所にいる二足歩行の猫たちを見る。
窓の外を見ている、二足で立ったままの猫。
その中に、靴を履いている猫がいる。
……世の中、何かがおかしくなっている。
猫が、二足歩行を始めるなんて……。
俺も、窓の外に目を向ける。
すると、そこには顔が二つある犬の姿が見えた。
確か、オルトロスとかいったか?
「先生! 急患です! すぐに来てください!」
「分かった!」
休まる暇がないな、この救護所に来てから。
そんな愚痴を考えながら、走って急患の元へ向かった……。
▽ ▽ ▽
Side ???
ここは、今も意識が戻らない女の子の病室。
自分で、魔法のような治療を行った奇跡の少女。
奇跡を起こした少女として、新聞にも大きく載ることになったが、いまだ取材にも応じられていない。
いつ目が覚めてもいいように、看護師も医者も、そして記者も待機している。
『ニャー』
『ニャー』
「……本当に、二足歩行猫が多くなったわね。
それに見慣れてしまって、今では何の違和感も無くなったわね……」
女の子の世話をしているが、いまだ呼吸だけしている。
本来なら、排せつ物とかあるものなのだが、それもない。
もしかして、内臓が動いていない、とか?
「どうなっているのかしら……」
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