第249話 迷子



Side セビラ


アメリカダンジョンパークにある最初の町、そのどこか。

周りは、いろいろな家が建ち並ぶ住宅街。

開園後は、この住宅街にも人が住むことになるようだが、今は空き家が多い。


「……どうしよう、迷ってしまった」


漸く開店準備が終わり、ダンジョンパーク開園前に町の中を散歩していたのだが、地図を忘れたため今いる場所がどこなのか分からなくなってしまった。


さらに、空き家が多い住宅街ということは分かったものの、誰もいないため道を聞くこともできない。


「うう、標識でもあれば、分かるんだけど……」


ずっと歩き通しで、住宅街をウロウロしていると馬車が止まっている家を見つけた!

おそらく、誰か人がいるはず。

そう思い、急いで家に近づき玄関ドアの呼び鈴を鳴らすも、誰も応答しない。


「誰もいないの?」


不安になり、何度も呼び鈴を押すが応答がない。

周りを確認するが、ここ以外で人がいそうな家はない。



私は、玄関のドアノブに手をかけ回してみると、玄関ドアが開いた。

そのまま、ドアを開けて中を確認する。


「……どなたか、いませんか~……」


小さな声で、声をかけるも返事はない。

小さな声で言ったのだから、それは、返事があるわけないよな……。


こうなったら、直接声をかけようと、家の中に侵入するが誰もいない感じだ。


「お、お邪魔しま~す……」


私は玄関から入り、誰かいないか家の中をウロウロする。

最初の部屋は、キッチンだった。

その隣に、大きなリビングがあり、ドアがあったので開けてみると、トイレだ。


「ん~、トイレか……」


ドアを閉め、リビングを奥へ進むと階段が見えてきた。

だがこの階段、パッと見、何かがおかしい。


「……何だろう、何かがおかしい気がする……」


階段の前で、じっと考えて分かった。

目の前の階段は、下へ通じている階段だからだ。


この家に入る前、この家の外観を見たが二階建てだった。

そして、ここまで家の中をうろついたが、二階への階段はまだ見つけていない。

さらに、家の中心と思われる場所に下へ降りる階段があった。


「でも、下に降りる階段はいいとしても、何でこんなに大きいの?」


この家の下に降りる階段が、かなり大きい。

住宅の階段のはずなのに、大きさは学校の階段並みだ。

横幅があり、高さもある。


そして、地下一階へ降りるはずなのに、降りる階段が長い!

この長さ、地下一階ではなく地下三階ぐらい降りる長さだ……。


「どうなっているの?」


ますます不安になりながらも、誰か人がいないか探すために、私は一歩一歩降りていった。

そして、一階分降りたところで、後ろから足音が聞こえた。

それも、急いでいるのかは知っている足音だ。


「え? え? え?」


混乱した私は、人がいたという喜びよりも、何か分からないものが降りてきたという恐怖から階段を走って降りてしまう。

降りてくる足音から、逃げたのだ。


自分の鼓動が悲鳴を上げているにもかかわらず、階段を急いで降りていく。

だが、すぐに私の右腕が何かに捕まれた。


「きゃああああ!!」




▽    ▽    ▽




Side エレノア


「本当に、すみませんでした!」


リビングのソファに座って、女性が私に頭を下げて謝っている。

どうやら、住宅街で迷子になり、馬車が止められていたこの家に道を尋ねに来たのだとか。


だが、誰も出てくる気配がなかったので、誰かいないかと家の中を探して下に降りる階段を見つけたらしい。


「で、階段を下りたと……」

「はい、家の外観に合わない下へ通じる階段があったので……」

「いくら人がいないからって、人の家に入ったら泥棒でしょ?」

「本当に、申し訳ございません。

どうしても、道を尋ねたかったので……」


この女性、この町の商店街に服屋の店の従業員だそうだ。

名前は、セビラ。

二十五歳のシングルマザーだそうで、娘が二人いるそうだ。


子どもを育てるには、お金が必要とのことで服屋のスタッフ募集に応募して、採用され働くことになったとか。

また、子供は商店街の近くにある教会の孤児院で預かってもらっているとか。


孤児院って、もうできていたのね。

それに教会ね~。


「セビラさん、ここはダンジョン企画のスタッフ専用の家なのよ。

この町には、ここと同じような家が何軒か用意されていて、休憩なんかで使うようになっているのよ」

「そうだったんですね……」

「今は、いろいろと準備のために誰かしらきているんだけど、ここ以外にもあるから大変なのよね~」

「ああ、分かります。

開店準備って、大変ですよね~」

「でも、よかったわ。

下に降りる前に捕まえられて」


セビラも、安堵しているみたい。

人に会えたという安心感かしら?


「あの、一ついいですか?」

「何?」

「あの階段の先は、何があるんですか?

かなり下の方へ、続いているみたいですけど……」

「ん~、今は内緒かな」

「……今は、ですか?」

「ええ、今は、内緒。

そのうち、発表すると思うわよ。

ダンジョンパークは、日々成長しているからね」

「なるほど……」


納得していない表情しているけど、今は、納得してほしいわね。

マスターによれば、アメリカダンジョンパークの二階層以下で、いろいろとやる予定らしい。


それに、一階層でさえまだ、すべてのフィールドを使用しているわけではないのだ。

いろいろな町を作って、人を呼び込む予定でもあるし、日本のダンジョンパークとも、繋げる予定でもある。


いつの日か、世界中がダンジョンパークで繋がるかもしれない……。







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