第242話 魔法を使う地球人



Side ???


北の大国の、ある国との国境近くの魔物の被害を受けた街。

今その町には、捜索、救助の軍隊が調査をしている。


「待て! おい、アレを見ろ……」

「瓦礫が、浮いている?」

「隊長!」

「近づいて確認だ。

化け物はもういない、ゆっくりと近づくぞ」

「「は、はい!」」


破壊されたビルの瓦礫が散乱する場所で、一カ所浮かんでいる瓦礫が発見された。

何かがあると思われるのだが、それが何か分からない。

そこで、隊長と呼ばれる男は、ゆっくりと近づいて確認しようとした。


そして、浮かぶコンクリートの瓦礫の元まで進み、下を確認する。

すると、そこにいたのは……。


「おいっ! 女の子が倒れているぞー!

君! 大丈夫か?!」

「隊長! この浮いている瓦礫をどかします!」

「落とすな!! みんなでしっかり持ってどかすんだ!」

「「はい!!」」


おそらくビルの壁の一部と思われる瓦礫が、倒れている女の子の上で浮いていた。

それを三人の大人が掴み、力を込めてゆっくりと横へスライドさせていく。

女の子の上に落とさないように、緊張しながら動かしていく。


そして、五分ほど時間をかけてスライドさせると、ある場所でドスンと地面に落ちた。


そしてすぐに、女の子に近づき肩に触れる。


「おい! 大丈夫か?!」


そう声をかけた後、厚手の手袋を取り、女の子が息をしているか確認する。

そして首を触ると、脈があるか確認した。


「弱いが、息をしている! 脈もあるぞ!」

「今、人を呼びました! 担架も来ます!」

「そうか……」


隊長は、少し安心した後、女の子の上に浮いていた瓦礫を見る。

大きさは机の天板ぐらい。

重さは、おそらく何トンもあると思われる。

中の鉄筋が、何本か出ていた瓦礫。


「こんな物が、どうして浮いていたんだ?」

「隊長?」

「……ああ、担架が来た。

ゆっくりと乗せて運べ! すぐに医者に見せるんだ!」

「はい!」


女の子を担架で運ばせると、三人はすぐに捜索へと戻った。

今のように、もしかしたら生きている人がいるかもしれないから……。


まるで大地震の後のような街を、生存者を探しながら歩いて捜索していく。

それは、無駄な作業のようにも思えるが……。




▽    ▽    ▽




Side ???


「な、何が、起きているんだ……」

「せ、先生……」


先ほど運ばれてきた女の子を診察していたのだが、何が切っ掛けになったのか女の子の両手がいきなり光ると、全身のケガが治りはじめた。


そう、治りはじめたのだ。

身体や腕に目立つ、擦り傷や切り傷が淡く光り、まるで時間が巻き戻るような感じで治っていく。

さらに、赤黒く腫れていた足も、淡く光るとだんだんと腫れが引いていく。


我々は、何を見せられているんだ?


そして、女の子の身体にキズや腫れがなくなると、静かに眠り始めた。

静かな寝息が聞こえると、処置室の外の声が聞こえはじめる。


「……先生、今のは何でしょうか?」

「分からない。

一体何がどうなっているのか……」


そう言って、医者の男は女の子の身体を調べ始める。

腕、体、足、頭を触り、驚いている。


「治っている。

運ばれてきたときのケガが、すべて治っている……」

「そんな……」


医者の男と看護師の女性が、信じられないという表情をしながら診察台で眠る女の子を見ている。

ここに運び込んだ私も、信じられないという表情をしているだろう。


まさに今、私たちの目の前で奇跡が起きたのだから……。




▽    ▽    ▽




Side ミア


ダンジョンのコアルームで、あちこちに放った虫ゴーレムの映像を精査していると、北の大国の魔物に襲われて壊滅した町で、破壊されたビルの瓦礫の中に浮かんでいる瓦礫を発見したときは、ついに現れたかと気を引き締めた。


高濃度の魔素を浴びて、魔力が体を巡るようになった地球人はいたが、魔法を使えるようになった地球人はいなかった。

だが、今瓦礫を浮かべているこの女の子は、魔力を使っているのだ。


魔力を使って、瓦礫を浮かべて自身を無意識に守っていた。


「ついに、現れましたか。

魔力を使える人が……」


私はこのまま、この女の子がどうなるのか見守ることにした。

すると、救助隊と思われる人たちにすぐに発見され、救助されていく。


担架に乗せられて、声をかけられながら車に乗せられ病院へと運び込まれた。


ストレッチャーに乗せられ、処置室へと運び込まれると、医者の男が女の子の体を触り、ケガや傷の様子を調べ始めたとき、その現象は起きた。


女の子の両手が、淡く光りはじめたのだ。


「これは、治癒魔法!

初めて使う魔法が、治癒魔法とは……」


見る見る治っていく、体の擦り傷や切り傷、足の骨折。

赤黒く腫れていた腫れは、おそらく骨折していたからだろう。

それも治り、腫れもきれいに引いた。


地球人で、初めて魔法が使えるものが誕生した瞬間に私は立ち会った。

これから、この女の子は大変なことになるだろう。

北の大国の研究機関で調べられ、治療させられたりするのだろうか?


核の影響で、広範囲に魔素が広がったとはいえ、魔力が回復するぐらいの魔素はない。

女の子が発見された廃墟であれば、魔素が溢れているから魔力の回復が見込めるのだが……。


「マスターに相談しなければなりませんが、観察は続けましょう。

そして、あまりにも酷い扱いを受けるなら、こちらで救出することも考えておかなければいけませんね……」


診察台で静かに眠る女の子を映している映像を見ながら、私は呟いた……。







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