第241話 暗躍しているつもり



Side ???


ある国の首都にあるビルの一室で、二人の男が向かい合って話をしている。

テーブルの上には、タブレットが置かれ、そこにはある映像が流されていた。


「……間違いないんだな?」

「ああ、日本に潜入させている奴からの情報だ。

しかも、下調べは確りとするという評判の奴だから、間違いない」

「……」


男は目を瞑り、椅子の背もたれに背中を預けると黙ってしまう。

そして、しばらく動かなかったが目を開けると、前のめりに相手の男を見る。


「もう一度確認する。

……日本政府は関係ないんだな?」

「ああ、それは間違いない。

政治家の中には、こちらに友好な連中も多いからな」

「ならば、潜り込ませることは可能か?」

「ああ、連中は神ではない。

必ず、隙はある」

「……いいだろう、潜り込ませて混乱させてやれ。

そして、あわよくば……」


男は、ニヤリと笑う。


「ああ、乗っ取ることも可能だろう」

「ククク……」

「フフフ……」


テーブルの上のタブレットに映し出された、ダンジョンのオークの動く映像とある国で暴れていた猪八戒の映像が繰り返し流れている。


そして、部屋の隅に一匹の蠅が止まっていた……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


コアルームで、神妙な面持ちで考えこむ俺。

昨日、ある国に潜り込ませていた偵察虫ゴーレムからの映像が問題になった。


「これ、絶対ダンジョンの黒幕がバレたってことだよね?」


側にいるミアに確認すると、顔を横に振る。


「いえ、ダンジョンのことがバレたわけではないようです。

ここに注目してください」

「……タブレット?」

「はい、ここに映し出されている映像は、ダンジョンパーク第六階層にあるダンジョンのオークとある国で暴れたオークを比べた映像です。

向こうでは、猪八戒の化け物と呼ばれていましたが、同じ個体であることが分かりますね?」

「ああ、同じも何もどっちもオークという魔物なんだから比べるまでもないね」


俺の意見を聞き、頷くミア。


「そこで、彼らは想像を飛躍させます。

土砂崩れをした山の中から出てきた遺跡から、オークたちは出てきたということで、日本にあるダンジョンパークは自分たちの国と同じように出土した、遺跡を利用したものではないかと……」

「は?」

「そして、制御の仕方を偶然知り、ダンジョン企画なる会社を作りダンジョンパークという金の卵を産む鶏としたのではないかと……」


俺は今、開いた口が塞がらないほど呆れていた。

なんだその、ご都合理論は!

あの国の上層部は、大丈夫なのか?


「連中の頭は大丈夫なのか?」

「連中は至極真面目にそう思っているようです。

そして、ダンジョンパークが自分の国の遺跡と同じならば、返還してもらわなければならない……」

「返還って……」

「ええ、ですから乗っ取りを話し合っているのです。

日本政府は関係ないから、ダンジョン企画を乗っ取りダンジョンパークを我が国のものに……」

「なるほど、それで潜り込ませて混乱させるっていうことか?

ダンジョン企画の混乱で、上層部を一掃して自分たちが乗っ取ると……」

「そのようですね」


それって、前提が間違っているよな。

ダンジョン企画は、ダンジョンパークの運営をこちらから任せているのであってダンジョンパークそのものにたいして権限を持っているわけではない。


つまり、ダンジョンパークを好きにすることなんてできないのだ。


「でも、あの国はまだダンジョンパークのことをあきらめてないのか」

「あきらめないでしょうね。

ダンジョンパーク二つで、日本がこれだけ変わったのです。

それなら我が国もと考えるのが、あの国ですから……」

「それで、ダンジョン企画にあの国から潜り込んだ人がいるの?」

「こちらの二人が、アルバイトとして潜り込んでいます。

サイとソウ、この二人です」


あの国からの交換留学生として日本に来て、ダンジョン企画にアルバイトとして働いているらしい。

主にオフィスで雑務をしているせいか、いろいろな部署に出入りできているらしい。


かなり優秀らしく、各部署で意見を求められているとか。


「一応、父さんには知らせておくよ。

すぐにクビとはならないだろうけど、何らかの処置は必要だろうね」

「私たちからも、監視を付けておきます」

「よろしく」


さて、今月は修学旅行やアメリカダンジョンパークの設置と予定が入っているからな、俺たちも高三だ。

卒業したら、本格的にダンジョンマスターとして仕事をするか、それとも大学へ進学するか考えておかないとな……。




▽    ▽    ▽




Side ???


日本のある場所の廊下で、二人の男が並んで立っている。


「先生、これ、例の代金です」


そう言って、封筒に入った札束を手渡す。

それを受け取った隣の男は、封筒の中身を確認した。


「……確かに、三百万円確認した。

これが、領収書だ」


そう言うと、一枚の髪を隣の男に手渡す。

それを見て、確認すると男は懐へとしまう。


「確かに、良い買い物ができましたよ」

「荷物はすでに、指定の住所へ送ってある。

気に入ってもらえると嬉しいのだが……」

「気に入りますよ。

ダンジョンパークのお土産なんですから」

「フッ、それならいいんだ」

「では、俺はこれで」

「ああ、またな」


二人の男は、それぞれ反対へと足を向けて歩き出す。

ある国の潜入調査員は、こうして怪しまれずに情報を本国に送っていた。


傍から見れば、怪しい以外のなにものでもないのだが、潜入調査員の間では、これで怪しまれたり捕まったりしたことはないのだから、日本という国はそれだけ平和なのだろう。






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