第240話 報道される
Side 五十嵐颯太
核の影響について、連日テレビで報道され日本への放射能の影響などが心配される中、国連では、北の大国とあの国との対立が表面化しだしていた。
核を撃ち込まれた被害者のあの国、あの国の遺跡から出た化け物たちのせいで、自国の国民を一万人以上失うことになった北の大国。
どちらも被害者という立場で、それぞれの国へ賠償させようと論争を繰り返していた。
連日報道されていたが、特に昨日の北の大国の国連大使が、あの国を非難する演説をしていた所へあの国の職員の一人が水をかける場面などは、世界中で問題視されていた。
「近頃は、国連のことばかりが報道されるな……」
朝食後に新聞を読みながら、父さんが少しうんざりしている。
まあでも、こればかりは仕方ないだろう。
あれから十日が経過しているものの、いまだ核が撃ち込まれたあの国の遺跡跡は立ち入り禁止になっているし、北の大国では犠牲者たちの追悼式典が行われていた。
「あの国と北の大国だろ?
でもその二カ国はまだいいわよ、あの独裁国家よりは……」
「そうだよね~、どうなるんだろ」
人道支援のために、独裁国家へ入ったアメリカと南の国はその凄惨な状況に目をそらしたそうだ。
各地で戦いが起きたらしく、無事な町や村がなかったらしい。
そして、国民はほとんどが衰弱していたとか。
あちこちに死体が放置されていて、さらに喰われたものもあったとか……。
「新聞だと、南の国と合併させて南北統一させるとかあるが、反対する国があるだろうな……」
「あの国ですか?
でもあの国はあの国で、被爆国を全面に出して国連で訴えているとか。
掘り出した遺跡に関しても、なかったことにし始めましたね」
「遺跡か……」
あの国何千年の歴史的大発見とか、銘打って宣伝していたのに、こんなことになってなかったことにするとは……。
自国の都合の悪いことは、相変わらず隠す国だよな……。
隠しきれてないって~の!
そこへ、テレビの取材報道の声が聞こえてきた。
『こちら、核が撃ち込まれたあの国の遺跡があった場所の手前にある村にやってきました。
実は近頃、この村でおかしな生物の捕獲に成功したとのことで村の人に取材しています。
リューさん、そのおかしな生物とは何ですか?』
『それなら、これだよ』
そう言って、スマホで撮った映像を見せる。
その映像には、パンダが映っていた。
白黒の、みんなが知っているパンダの映像だ。
『リューさん、パンダですか?』
『パンダには違いないんだが、よく見てくれ。
檻の側にいる職員たちを……』
『なっ?! これは!!』
パンダの入れられた檻の棒の太さで、誤魔化されていたが、檻の側に立った職員と一緒に映った映像で驚愕した。
職員の五倍以上もあるパンダが、そこに映っていたのだ。
檻の鉄の棒を太くしていたのは、パンダの大きさと力を考えてのことだったのか!
なぜか大人しくしているパンダだが、これが暴れ出したら……。
『リューさん、これって放射能の影響ですか?』
『そんなわけねぇだろう!
ゴ〇ラじゃあるまいし!
だが、例の遺跡の影響かもしれねぇな……』
『このことは、あの国の政府は知っているのですか?』
『ああ、知ってる。
この間も、何人か役人が訪ねてきたんだ。
だが、みんな、パンダ見て怯えたかと思ったら逃げ出してしまった……。
もう、どうしたらいいか分からない……』
『地元の住民たちは、捕獲したパンダの対処に頭を抱えているようです。
以上、現場から大石がお伝えしました!』
テレビの前で、家族全員が固まっていた。
俺も、あんなパンダ、初めて見た。
「……なあ颯太、あのパンダ、手が四本なかったか?」
「え? 大きさに驚いて、詳しく見てなかった……」
「お兄ちゃん、あのパンダ、全然かわいくなかった~」
「そうね、かわいいというより逞しいわよね~」
あんな大きさのパンダが存在するのか?
いや、その前に手が四本?
俺はある可能性が、脳裏をよぎり自分の部屋に駆け込むと、ダンジョンのコアルームへの扉を召喚して飛び込んだ。
コアルームには、ちょうどミアとソフィアがいたので今朝の情報番組で取り上げられたパンダの話をした。
「……気になりますね、そのパンダ。
もし四本腕だとしたら、魔物の可能性があります」
「魔物? だが、あの国のダンジョンは消滅した。
その影響で、魔物も消えたはずだ。
だとすれば、魔物がいるわけがないだろう?」
俺は、魔物の可能性を否定したが、ミアはある可能性を話しだす。
「いえ、ダンジョン産の魔物ではなく、魔素の影響で生まれた魔物です。
現に、地球でもおなじみのパンダが魔物化しているのではないかと……」
「パンダの魔物化?
じゃあ、四本腕というのも……」
「はい、魔素の影響が現れたのだと思います。
異世界には、四本腕の熊の魔物が存在します。
パンダも熊の仲間とのことですから、四本腕に魔物化したのだと思います」
もしパンダが魔物化したのだとしたら、他の動物たちも影響を受けていてもおかしくはないはず。
あの国周辺で、魔素の影響で魔物化した動物を探してみる。
あの国のテレビやネット、他にも北の大国のテレビやネットを調べてみると、次々におかしな動物が発見されたという情報があった。
前々から報告のあった猫や犬の大型化はすぐに見つかったが、その先がネットに載っていた。
「おいおいおい、何だ、この二足歩行の猫は?!
猫獣人というより、キャットシーだろこれ!」
「マスター、こっちはケルベロスですよ!
魔物化する過程で、三匹が合体したんですかね?」
「……確かに、三つの顔が違う犬種だな。
こっちのオルトロスは、チワワとブルドックみたいだ……」
「……ブフッ!」
「おい、ソフィア……」
「す、すみません。
でも、このオルトロスは絶対笑わせにきていますよ……」
「まあ、これはないわな……」
最初のうちは、この魔物化現象に恐怖を覚えたが、何だがこのオルトロスを見て力が抜けた。
これは、すべて魔素の影響なんだろうが、どうするべきかな……。
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