第229話 新しい命
コアルームで魔素の影響の映像を見ていると、ふとあることに気づいた。
「ミア、魔素の影響って人体には何も起きていないよな?」
そう、人への影響が確認できなかったのだ。
犬や猫などには、大きさが変わったりしていたのだが、映像の中の人は何も変わらずにいた。これはどういうことなのだろうか?
魔素は、人体に対して無害ということか?
「何も起きていないわけではありませんよ、マスター。
ただ、見た目で変化していないだけです」
「ということは、人体にも影響はあるわけか」
「はい、急激な魔素の吸収により、人体の中に魔法器官が作られることが判明しています。
つまり……」
「魔法が使える人間が出てくるというわけか?
おいおいおい……」
てことはだ、急激に濃い魔素空間に人を入れると、魔法が使えるようになる特別な器官が体内に作られ、魔法が使える地球人ができるということか?
……それって、とんでもないことかもしれないぞ?
「ただ、問題がないわけではありません。
急激な魔素の取り込みは、悪影響も与えます。
それが、魔素欠乏症……」
魔素欠乏症、魔素の無い場所でなることが多い病気だ。
罹ると、体内の魔素吸収器官が暴走をおこし炎症、その後は吸収する魔素が、体内を攻撃してやがて死に至る病だ。
つまり、一度でも高濃度の魔素にさらされると、魔素の無い場所では生活できないどころか生きていけないことになる。
「地球には、魔素の無い場所が多い。
そんな地球で、魔素欠乏症に罹りでもしたら……」
「死は確実かと……」
「急激な魔素にさらされた場所で、人の体内に魔素吸収器官ができるのは何時間後だ?」
「十秒です」
「え?」
「ですからマスター、十秒です」
「嘘だろ……」
「本当です。こちらで、何度か実験しましたので……」
実験って、どこのだれを使ったの?
それに、いつの間に人体実験を……。
俺は、空中に表示されている魔素の広がりの分布図を見ながら、町や集落などの人が暮らしていた場所を確認する。
今もなお、広がり続けている魔素空間。
高濃度の魔素にさらされた人体の変化は凶悪だな。
「でも、ダンジョンパークに来た人々は、魔素の無いダンジョンパークの外に出てもなんともないよな?
何故だ?」
「それは、高濃度の魔素にさらされていないからです。
ダンジョンパーク内で、高濃度の魔素がある場所はトレントの森などの階層に限ります。後は、ダンジョン内に設置したダンジョンの最下層なども魔素が濃い場所ですね」
ん~、そんなところに人が入り込むことはない。
ということは、安全ということだな。
よかった、ダンジョンパークに来て日本に帰ったら、魔素欠乏症などと言う病気にかかって死ぬなんて嫌だぞ?
「もし、魔素吸収器官のできた人を助けるのなら、ダンジョンパークで面倒を見ないといけないことになるな……」
「はい、ダンジョンパーク内で魔素の無い場所はありません。
ダンジョンパーク内から出れなくなるという制限はできますが、それ以外は自由に生きていくことができるでしょう」
しかも、魔法が使えるようになるおまけつき。
「生涯、ダンジョンパーク内での生活をとるか、地球での生活をとるか……。
まあ、ダンジョンパーク内には異世界へ行くことができるという特典もつくか」
「ある特定の日本人なら、迷わず選ぶでしょうね……」
「ああ、ダンジョンパーク内での生活をな」
魔法が使えて異世界にまで行ける。
地球で生きていくことに、辟易している連中は結構いるからな。
この片道切符が、極薬への切符に見えるだろうな……。
そんなことをミアと話していると、ソフィアがコアルームの扉を勢いよく開けて飛び込んできた。
かなり急いでいる感じだな……。
「ミア! 生まれたわよ!」
「……! どっち?!」
「女の子よ! 無事生まれたわ。
母子ともに、健康そのもの」
「そう、よかった……」
ミアとソフィアだけで、会話が成り立っている。
俺には、何が何だか分からないのだが……。
俺が、呆然としているとミアが俺に気づき教えてくれた。
「すみません、マスター。
私たちだけで、盛りあがってしまって……」
「いや、それは良いんだが、詳細を教えてくれるか?」
「はい、マスターは河口卓二さんのことは覚えておいででしょうか?」
河口卓二、確かエルフが暴走した頃にあった覚えがあるな。
確か、ダンジョンパーク内の冒険者システムを利用して生活している人だったはず。
「ああ、エルフ暴走の折に知り合ったな。
今は、どうしているのか分からないが……」
「彼は今も、このダンジョンパーク内にて冒険者として活躍しています。
で、その彼の連れていた三人の奴隷がいましたよね?」
「ああ、いたな」
確か、エルフと魔族と猫獣人の女性を連れていたな。
関係も良好に見えたが……。
「今は、三人とも奴隷から解放され河口卓二さんと結婚されています」
「おお、それはおめでとう」
「そして、この度、その三人のうちのエルフが妊娠をして、無事に出産したのです」
「! さっきの会話は、その生まれてきた子が女の子、というわけか」
「はい、母子ともに健康で、今話題になっているんですよ」
そう言いながら、ソフィアは空中の画面にSNSの画面を映しだして見せた。
そこには、おめでとうなど、いろいろな書き込みがされていた。
河口さんは、ネットで報告していたようだな。
ダンジョンパーク内での生活を。
「それにして、地球人と異世界人との間の子供か……。
もしかすると、河口さんが初めてのケースかもしれないな」
「そういえば、そうかもしれませんね。
他にもいなかったか、調べてみましょう」
「もしいなかったら、何が起こるか経過観察を頼む。
問題があった場合は、すぐに対処するぞ」
「「はい、マスター」」
ミアとソフィアが返事をした。
俺は、空中に浮かぶ画面で、満面の笑みで家族と映っている河口さんを見ていた。
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