第227話 影響は広がる
実験観察を続けることで決まった時、コアルームにソフィアが慌てながら入ってくる。
ソフィアが慌てるなんて、珍しいな。
「ソフィア、どうしたの?
あなたが慌てるなんて……」
「ごめん、ミア。
今は、急ぎマスターに報告を」
何やら、本当に急いでいるようだ。
これを掛けてきたミアに謝ると、すぐに俺の元に来た。
「マスター、ブリーンガル王国国王フィレットが、滞在先の町で病により亡くなりました。
これにより、ブリーンガル王国の王族の血が途絶えることになりました」
「え? ブリーンガル王国が滅亡したってこと?」
ブリーンガル王国の第二王子は、暗殺されて亡くなったはずだ。
そのために、第二王子派があんなに追い詰められたりしたわけだし……。
今のフィレットは第三王子だったわけだが、まだ幼く伴侶も子供もいないはず。
第一王子は、俺たちのダンジョンとの戦いで死んでいるから、これは終わりってことじゃないのか?
「いえ、滅亡ではありません。
ブリーンガル王国の公爵位についている貴族が、王族の代わりになるはずです。
ですが、現宰相のおかげで公爵は追放処分とされ、このダンジョンに避難してきています」
「……もしかして?」
「はい、ブリーンガル王国で、現宰相が再びこのダンジョンへの侵攻を画策しはじめました。
今度は、王族の血を絶やすな、と」
戦争って、今のブリーンガル王国にできるわけがないはずだ。
浮遊島衝突の影響は、かなりの被害を出していて王都は壊滅。地方もかなりの影響があったようだが……。
「今の状況で、戦えるのか?」
「無理でしょうね。
今の兵の大半は、辺境の防衛にあてられていて動かすことができません。
もし動かせば最後、隣国からの侵攻や魔物などにより王国は息の根を止められます。
また、王都にいた兵士たちも大半が死亡しました。
もはや、戦争に避ける兵はありません」
それで、王族の血を引く公爵たちを現宰相たち第三王子派の貴族たちの手で追放しておきながら、必要になったから帰ってこいというわけか。
終わったんじゃないか? ブリーンガル王国は。
「で、公爵たちが戻らない場合は戦争と言っているが、戦争は無理と分かった。
この後はどう動くと思う?」
「おそらく、公爵家に養子に入ったと書類を捏造などして、無理矢理王族を作るつもりなのでは?」
「それを、現貴族たちが認めて王国を維持すると?」
「はい」
それは、杜撰すぎるような気がするが追いつめられたものは何をするか分からないか。
それに、現宰相は権力だけはある。
すべて無理矢理推し進める気だろう……。
「第二王子派の人たちは、今どうしているんだ?」
「皆様、穏やかに過ごされています。
権力闘争がなくなり、穏やかに余生を過ごされているようです」
「そうか……」
穏やかに、平和に過ごしているなら安心だ。
権力闘争に疲れた人たちだからな、もう何事もなく過ごしてもらいたい……。
「そういえば、エレノアの捜索の件はどうだ?」
「エレノアの方は、難航しているようです。
例の浮遊島が操られていたことが判明し、裏にいる怪しい奴との接触があったらしいのですが、その後、何の成果も得られず焦っているようです」
裏に何があるかなんて、調べるのは難しいことだし、さらに捜索となれば雲をつかむようなものだろう。
だからこそ、焦ってとんでもないことにならなければいいが……。
「とりあえず、エレノアには焦らずゆっくりやれと伝えてくれ。
こういうのは、焦ってもしょうがないからな」
「分かりました。
マスターからの忠告として、伝えておきます」
それにしても、浮遊島墜落には衝撃を受けたな。
あんなやり方で、ブリーンガル王国王都を壊滅させるなんて、よほどの恨みを持っていたのだろう。
さもなければ、戦略の一つと考えるかもしれないが、犠牲を出し過ぎているからそれはないだろう。
気になるな、誰が裏にいるのか……。
▽ ▽ ▽
Side ???
「大統領、少しよろしいでしょうか?」
「ん、何だ?」
「我が国の東の端で、妙な事件が起きているようなのです」
「妙な事件? そんなものは警察に任せておけばいいだろう」
「私もそう思ったのですが……」
そう言うと、部下の男は、まとめられた書類を私の机の上に置く。
ちょうど、外交案件の書類を片付けていたところだったのだが、その上に置いたのだ。
これは、かなり重要な書類という意味か?
仕方ないと、その書類を手に取り目を通していくと、おかしな内容に辟易した。
「何だ、これは。
巨大な犬? 人の背丈もある鶏? 挙句に二足歩行の豚とは何の冗談だ?」
「それらはすべて、映像とともにこちらに回ってきました。
ご覧になられますか?」
「……いいだろう、見せてみろ」
この部屋にある備え付けのモニターに、男は映像を映しだした。
だが、見るに堪えないものだな。
巨大な犬は、車と同じ大きさの犬が車にじゃれついている映像だ。
次の人の背丈もある鶏は、数が多い。
そして、二足歩行の豚だが、棒のような物を持って、五体ほどで歩いている姿だった。
「……よくできたCGだな、本物かと思ったぞ?」
「大統領、これは実際の映像です。
CGなどではありません。私も確認しました」
「……で、私にどうしろというのだ?」
私は、イライラしていた。
この男は何を私にさせたいのか、分からなかったからだが……。
「申し訳ございません。
この怪物たちが現れた場所が、あの国との国境付近なのです。
すでに、国境付近の町で犠牲者も出ております。
事と次第によっては、抗議をお願いすることになるかもしれませんので……」
なるほど、国際問題になりかねない案件ということか。
しかし、あの国か。
期待だけさせる国だが、日本よりはましだ。
「もしもの時のことは、考えておくように。
ただし、軍の派遣はできないからな」
「承知いたしました……」
まったく、領土ばかり大きくてもままならんな……。
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