第226話 実験報告
Side 五十嵐颯太
あの国で、遺跡が発見されて一週間がたった。
本当は、遺跡に見せかけたダンジョンなのだが、正体についてはバレていない。
あの国の上層部も、古代の遺跡としか認識していないらしい。
俺は今、ミアに呼び出されてコアルームに来ている。
「それで、何かあったの?」
俺が、椅子に座りながら近くに立っていたミアに聞くと報告を始めた。
「あの国に仕掛けたダンジョンですが、各階層に置いたトレントたちが異常繁殖しています。
これは、ダンジョン外部へ魔素を制限なく排出している影響で、ダンジョン内部の魔素を維持するために異常な繁殖をしているものと思われます」
「どれくらい増えているんだ?」
「一分間で、約十体です。
多い時で、最大百体の繁殖を確認しました」
一分間で、百体も増えたのは異常だな。
しかし、それだけ外部に魔素が流出しているということか。
「ダンジョン周辺の様子はどうだ?」
「確認できたのは、猫や犬が魔素の影響で進化しているようです。
家庭で飼われていた動物ですが、報告によると個体差はあるものの大きさが三倍から五倍に成長しているみたいです」
「……それは、恐ろしいな」
想定されていた以上の、魔素の流出速度だ。
それに、周辺での動物の異常形態も想定外のことだ。
こんなにすぐに、影響があるなんてな……。
「ダンジョンから出てきた魔物はどうだ?」
「現在、オークとあの国の陸軍との戦闘は確認しました。
銃による戦いでしたが、オーク一体に対してかなりの弾薬を使用するようです。
出現したオーク三十七体に対して、辛勝といったところでした」
「銃火器は、効果が薄いということか?」
「いえ、オークの脂肪が厚く硬いのです。
それで、銃火器が効きにくいかと思われます」
地球の兵器が効きにくいとなると、ファンタジー攻撃が求められるようになるか?
もしくは、物理攻撃に切り替えてくるか?
いや、威力のある物を用意して対処するだけか……。
「魔素流出における、植物の影響はどうかな?」
「ダンジョン周辺の植物が、すでに影響を受けています。
小さいですが、トレントが生息しているエリアを発見しました」
「おいおい、それじゃあダンジョン外で魔素が作られ始めるんじゃないか?」
「いえ、そのトレントを一体採取して調べましたところ、魔素を作り出す器官はありませんでした。
それよりも、意思を宿した地球の植物といったほうが近いかもしれません」
意思を持った植物となると、後々にしゃべり出したりしそうだな。
「マスター、それよりもこちらをご覧ください」
ミアは、空中に映像を流し始める。
それは、遺跡のダンジョンから少し離れた森の奥。そこに、地球ではありえないものが渦巻いていた。
「……これって、もしかして?」
「はい、魔素溜りです」
「……」
魔素溜りとは、魔素の量が一定以上一カ所に集まると塊となってその場で渦を巻くことだ。
漫画で例えれば、黒い螺〇丸がその場に止まっているといったところか。
もちろんこれは、よくない傾向だ。
何故なら、この場にダンジョンが発生するかもしれないということだからな。
誰の意思も働いていない、所謂野良ダンジョンというものが生まれるかもしれないのだ。
「この大きさだと、まだ心配いらないだろうがこのまま成長すれば……」
「いずれはダンジョン化するでしょう。
ああ、ご安心ください。この魔力溜りは、すでに散らしてあります。
そして、地形も少し手を加えておきました」
現在の映像に切り替わり、魔力溜りがないことを確認した。
しかし、問題は地球でも魔素があればダンジョンが発生してしまうことだ。
これは、ファンタジーの世界と言えない状況になる。
「このまま、観察を続けるか?」
「はい、この設置した辺りには、日本を敵視している国しか周辺にはありません。
あの国しかり、北の半島しかり、北の大国しかりです」
「ある意味、いい場所を見つけたものだな。
……分かった、このまま観察は継続。何かあればこちらで対処すること」
「了解しました」
報復のついでに、地球での実験をしているなんて誰が信じるだろうか?
だが、ある意味でいい迷惑なのかもしれないな。
ターゲットになった、あの三国にとっては……。
▽ ▽ ▽
Side ???
増援の軍の派遣を決めて、海外の新聞で遺跡の危険性を指摘されてから二日、事態は急変する。
いつものように、机に向かい書類を整理していると、男が勢いよく走って来た。
「大変です! 大変です! 大変です!」
「君の大変は聞き飽きたぞ!
遺跡で問題が起きたのだろう? どんな問題が起きたか、深呼吸してから話せ」
「す~、は~。
主席、例の遺跡から出てきた猪八戒の化け物が、鉄と思われる金属の鎧を装着して出現しました。
それも複数です。
軍が対応していますが、火力が足りません!
戦車の使用を、許可していただきたいのです!」
「戦車だと?!
山間部の遺跡に戦車? どうやって運ぶ気だ!
対戦車ヘリを使え! 使用許可は出してやる。
それと、対戦車ライフルなどの威力あるモノも許可する。
すぐに何とかするんだ!」
「わ、分かりました!」
男は、慌てたように出ていったが、私の気分は晴れない。
遺跡が発見されたころは、あんなにワクワクしていたのだが、今や胃が痛い案件になってしまった。
あの遺跡がある場所が問題なのだ。
このままでは、隣国に説明しなければならん。
「……そういえば、あの辺りには村があったな。
おい! 誰かいないか!」
私は、部屋の外に声を掛けながら部屋を出ていった……。
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