国外の明と暗の章

第213話 転校生



Side 五十嵐颯太


新学期が始まり、ようやく夏休みボケが取れた頃、世間はあるニュースのことで騒がしかった。

それは、連続殺人事件にある国の外交職員が大勢関わっていたことだ。


しかも、後々にはダンジョン企画の幹部も狙っていたとか。

その事で、ある国に国際連盟を通して日本が抗議するも、ある国は関与を否定した。

所謂、トカゲのしっぽきりだ。


俺のクラスでも、そのことが話題になることが多く、俺が一番心配されていた。


「ねぇ、颯太。

本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって、事件は解決しているし犯人は捕まっているし」

「でもあの国だよ? あの国」

「大丈夫だって。

それより、陸斗はどうしたんだ? 今日は遅刻?」

「そういえば、今日はまだ見てないね」


凛と朝の教室で話していると、陸斗が走って教室に入ってきた。

そして、俺たちを見つけると、急いで近づいて来てあることを知らせる。


「颯太、知ってるか?」

「……いきなりなんだよ、知ってるかって?」

「さっき職員室で、担任と話しているのを見たんだよ」

「話しているって、誰を?」

「転校生だよ、凛。

うちのクラスに、転校生が来るみたいなんだよ!」

「何?!」

「それ、本当?!」

「どっち? 男? 女?」

「どんな転校生だった?」

「ま、待て待て、落ち着け!

転校生は、女だ。金髪だったから、外国人だ!」

「「「「おお~」」」」

「日本語は? 日本語話せるの?」

「話せる。担任と、日本語で話していた」


転校生か……。

アメリカ人なら、ダンジョン関連で日本に来たってことだろうな。

もうすぐ発表されるみたいだし……。


結局、アメリカにダンジョンパークが開園するというのは本決まりになった。

日本の首相と、ダンジョン企画社長の父さんとアメリカの大統領が手を組んでいるニュースが流れていたからな。


その事で、結構話題となっていたんだが、例の連続殺人事件にあの国が関与していたというニュースに話題を持っていかれていた。


父さんは少し悔しがっていたが、事件解決したことを喜んでいた母さんに宥められていたな……。


陸斗は、俺と凛に転校生のことを教えると、すぐにクラスメートに囲まれいろいろ聞かれている。

朝のそんな光景は、久しぶりだな……。


「ね、颯太。

転校生って、やっぱりダンジョン関連かな?」

「アメリカでの、開園が決まったからね。

たぶんそうなんじゃないのかな?」

「ということは、颯太と仲良くなりたがるんじゃないの?」

「ん? 何で俺?」

「颯太は、ダンジョン企画に一番近い存在じゃない」

「近いというか、父親が社長だからな。

そういう凛の両親だって、ダンジョン企画の幹部でしょ」

「そういえば、そうね。

うちの両親、家で仕事の話ししないから忘れてたわ」


そんな風に凛と雑談していると、教室に担任の先生が入ってきた。


「は~い、席に就け~。

ホームルームはじめるぞ~」


ガタガタと、クラスメイトが自分の席へと急いで座る。

そして、みんなの視線は教壇の先生と入り口の二カ所を行ったり来たりする。

みんな、気になっているのだろう。


「……みんな気になっているようだから、紹介しておく。

入ってきてくれ」

『は、はい』


そう返事が聞こえて、一人の女子高生が教室に入ってきた。

金髪で青い目をした、スタイルの良い女性だ。


「今学期から一緒に勉強する、アリアナ・ビレッジだ。

アリアナ、挨拶をしてくれ」

「は、はい。

アリアナ・ビレッジです。

アメリカのロスから、日本の高校にきました。

これから、よろしくお願いします」

「「「「おお~」」」」

「な、何ですか?」

「あ~、アリアナ、こいつらは、アリアナの日本語に驚いているんだ」

「ああ、日本語は、ロスで勉強しました。

日本の漫画やアニメが好きなので、一生懸命勉強しました」


なるほど、日本の漫画やアニメは海外でも人気があるからな。

日本語を勉強して、日本で漫画やアニメが見たかったってところかな?


「え~、アリアナに聞きたいこととかあるなら、ホームルームが終わった後にしてくれ~。

それじゃあ、アリアナの席は、あそこな。

大内の後ろが開いているから、そこに座ってくれ」

「はい、わかりました」


そう返事をすると、凛の後ろの席に向かった後、周りの生徒に軽く挨拶をしていた。


「よろしくお願いします」

「よろしく、アリアナさん」

「私のことは、アリアナと呼んでください」

「わ、分かったわ、アリアナ」


隣の席の星野唯花に、顔を近づけて訂正していた。

それで、少し引いてしまったようだな……。


しかし、転校生か……。




▽    ▽    ▽




Side ???


ある国のビルの一室にある執務室で、権力のある男が机を指で叩いている。

トントンと叩くたびに、静まり返っていた執務室に響く。


「どういうことだ?」


そう一言、目の前で立っている男二人を睨みつけながら言った。

男二人は、睨まれていることが分かっているので何も言えない。


「どういうことかと、聞いているのだ」

「……申し訳ございません」

「謝罪を求めているわけではないのだよ。

私は、どういうことか聞いているのだ」

「……実は、幹部の一人がこの件に関与していることが分かりました。

その幹部の命令で、殺人がおこなわれたことも分かっています」

「……その幹部のせいで、私は国際社会から非難を浴びたのか?」

「そういうことになります……」


難しい表情をして考え込むと、男は椅子ごと振り返り足を組んだ。

そして、表情を見せずに男二人に命令する。


「消せ」

「……は?」

「聞こえなかったのか?

消せと言ったんだ。

私を辱めたものなど、幹部に置いておくなどできん。

すぐに、消せ!」

「は、はい!」

「分かりました!」


そう返事をし、一礼して部屋を慌てて出ていった。

苦虫を噛み潰したかのような表情で、男は怒っている。


「使えん者たちばかりだ……」


一言呟くと、懐の携帯電話を取り出して、どこかに連絡をとるのだった……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る