第212話 怒りに流されて



Side 五十嵐颯太


新学期が始まって五日目の夜、ミアに緊急招集されダンジョンのコアルームに集まった。

俺が椅子に座ると、ミアが話始める。


「マスター、犯人を確保しました。

この催眠ガスを出す魔道具により、部屋にいた者たちを眠らせて無力化させ、一応打尽で捕らえました。

全員をいったんダンジョンパークに運び込み、呪いを施した後、女性二人の殺人に関する事件のことをすべて自白するように洗脳を施し、警視庁前へ運んで出頭させました」

「それで、逮捕されたのか?」

「はい、逮捕されました。

現在、裏取りがおこなわれています。

それと、殺人に直接関与した者たちも逮捕され事件は解決に向かうでしょう」

「そうか、解決するならよかったということか?」

「いえ、重要なのはここからです。

今回あの国が動き、ダンジョンを造れるマスターが狙われました。

そのために、関係のない者たちの犠牲も出たので、報復を考えております」

「目には目を、歯には歯を、か。

で、具体的にはどんな報復を考えているんだ?」

「あの国はダンジョンを欲して、今回の事件になりました。

ですから、あの国にダンジョンを設置してやろうと考えました」

「へ?」


ダンジョンが原因で、こんな事件を起こすあの国にダンジョンを設置するというのは、どういうことなんだ?

ミアの意図が少し読めないが……。


「えっと、どういうことだ?」

「ですから、あの国にダンジョンを設置してやるのです。

極悪非道な魔物が溢れ、よく物語に出てくるダンジョンを、ね」


それって、魔物と戦い続けるダンジョンをということか?

ダンジョンを設置して、あの国を大混乱にすることはできそうだが……。


「となると、ダンジョンコアを入手しないといけないが……」

「すでにエレノアに入手するように、手配しました。

近頃は、階層の低いダンジョンがあちこちに生まれているようなので、簡単に入手できるでしょう。

マスターは、そのダンジョンコアを使ってあの国に凶悪なダンジョンを設置、構築してほしいのです」

「……ミア、怒っているのか?」

「当然です!

ダンジョンを私利私欲のために狙い、無関係な女性二人の命を弄んだのです。

罰を与えるなら、我がものにしようとしたダンジョンで酷い目にあってもらわないと!」

「と、とりあえず、深呼吸だ、深呼吸をして落ち着け?」

「落ち着いています!

マスター、あの国へのダンジョン設置、よろしいですね?」

「あ、ああ、分かった。

だが、そんな凶悪なダンジョンを設置するとなったら魔素の流出が問題になるが……」

「何か不都合でも?」

「いや、問題ないな! ハハハ……」


ダメだ、ミアの目が座っている。

今回のあの国の所業は、普段理性的なミアをここまで怒らせることになるとはな……。


しかし、普通のダンジョンか。

魔素は垂れ流しだから、あの国のダンジョン周辺からおかしな現象が起こり始まるだろうな……。

そして、最終的にあの国は、ダンジョンから出てきた魔物が溢れる、異世界と化すだろう。


はあ、そうなると地球でも難民が海を渡って日本にと、なりそうだな……。




▽    ▽    ▽




Side エレノア


「はあ、ミアが怖かったわ……」


あんなに、怒ったミアを見るのは初めてかもしれないわね。


マスターが、向こうの世界でダンジョンを造り出してから私たちが生まれ、それからずっと一緒にいるけど、あんなミアは見たことないわ。

普段も、あまり起こることなのないミアが怒ったんだ。


本当に、怖かった……。


今私は、目を付けていたダンジョンの入り口前に来ている。

ミアに頼まれた、ダンジョンコアの採取に来たんだけど、静かね……。


「この感じは、生まれて間もないダンジョンみたいね……。

さて、サクッとダンジョンコアを回収しましょう」


私が呪文を唱えると、私の周りに魔法陣がいくつも出現し騎士ゴーレムが姿を現す。

生まれた騎士ゴーレムに、私が魔石を埋め込んでいくと目が青く光った。

従属の光りだ。


「このダンジョンの最奥から、ダンジョンコアを持ってきなさい」

「「「「「ゴア!」」」」」


ゴーレム騎士たちが返事をすると、一斉に動き出しダンジョンへ潜っていった。

これで、後は待つだけでダンジョンコアが入手できる。

また、これでダンジョンコアが入手できなくても、ダンジョンが手ごわいと分かり、冒険者などを派遣することに繋がる。


無駄はないのよ。




ゴーレム騎士二体に、周りを警戒させながら、椅子に座って読書をしていると、ダンジョンからゴーレム騎士たちが帰ってきた。

どうやら、ダンジョンコアの入手に成功したようだ。


「よくやったわ、みんな。

ダンジョンコアを入手してくるなんて、さすがね」

「「「「「ゴア!」」」」」


横に整列して、敬礼する。

私は、ゴーレム騎士から虹色に輝くダンジョンコアを受け取ると、すぐにアイテムボックスの中へ収納する。

そして、一体一体労いの言葉を掛けながら、埋め込んでいた魔石を回収していく。


魔石を回収されたゴーレム騎士は、すぐに崩れ土の塊と化した。

さらに、ダンジョンコアの無くなったダンジョンは、入り口が崩れ出し塞がっていく。

ダンジョンの最後だ……。


「さて、もう一つダンジョンコアを入手しないと。

目を付けていたダンジョンへ、移動しましょう……」


ここから歩いて半日の距離の場所にもうひとつ目を付けていた、生まれて間もないダンジョンが存在する。

上手くすれば、今日中にもう一つダンジョンコアを入手できるはずだ。


どちらのダンジョンコアも、日本の外へもたらされるものとなる。

一つは、アメリカへ。

もう一つは、あの国へ。


ダンジョンパークとして、アメリカの人に味わったことのない体験をもたらし、アメリカの国に恩恵を与える。

あの国へは、ミアの怒りとしてダンジョンの恐怖がもたらされる。


まさに、ダンジョンの光と闇。


……まあ、私の考えることじゃないわね。

大変なのは、マスターなんだし……。







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