第207話 チャンス
Side 五十嵐颯太
「マスター、隔離区画で最後のチャンスがおこなわれました。
ご覧になりますか?」
「見ないよ、ミア。
たぶん、俺ももらい泣きしてしまうかもしれないし……」
「そうですか?
まあ結果だけお知らせしますと、再テイム、もしくは再テイム契約を結べたのは二人だけでした」
「はあ?! たった二人?」
「はい。再会を望んだテイマーは、五十人。
ですが、魔物、聖獣で再会を望んだものは十体です。
そして、最後のチャンスでテイム、テイム契約できたのが二体のみでした」
「……」
お、おかしいぞ? どうなってんだ?
陸斗の話では、かなりのお涙ちょうだい案件になると思っていたのに、現実を突きつけられた気分だ。
諦めた? もしくは次に気持ちを切り替えた?
でも、再会を望んだのは五十人もいる。
ならば、気持ちを切り替えたとは言えないだろう。
再会を望んだ魔物や、聖獣が少なすぎるのもおかしいところ。
ちゃんとかわいがっていたなら、それなりに懐くはずなんだが……。
「最後のチャンス後、元テイマーたちが騒ぎ出したため、すぐに転移処置をしてダンジョンパーク入り口ゲート前に追い出しました。
また、再会後テイム、テイム契約しなかった魔物や聖獣たちは元の場所に戻しておきました。
ただ、かなりショックを受けている聖獣が一体いたので、その聖獣の象徴には心のケアをするように命じてあります」
「……分かった」
心のケアって何だよ!
聖獣と再会できて、嬉しかったんじゃないのかよ!
本来、聖獣ってそんなに心が弱くないぞ?
その聖獣が、心のケアを必要とするなんて……。
「ハア~。とりあえず、今回の最後のチャンスで再会できた二人には、仮ギルドカードを渡しておいて。
隔離区画のみでの再会が許されました、と」
「分かりました」
「それにしても、どうかわいがったんだろうな……。
テイム、もしくはテイム契約してから」
「そうですね~、おそらくですが、飼い主本位のかわいがり方だったのでは?」
「つまり、飼い主だけが満足していた、と?」
「はい。
本当は、魔物や聖獣が満足するようなかわいがり方をしないといけないのでしょうが、テイマーが満足すれば、魔物や聖獣も満足していると勘違いされたのだと思います」
「このことは、今のテイマーたちに警告として知らせておくか。
自分本位のかわいがり方をするな、と」
「そうですね。
最悪、魔物の場合は主人攻撃がありえますからね……」
「魔物にも、聖獣たちにも心がある。
それを理解して、テイムしている者たちが少なすぎるのかもしれないな」
「ここが、リアルなファンタジー空間だとする認識が甘いのかもしれませんね」
自分の肌で感じ、自分の目で見て、リアルだと分かっているはずなのにゲームと同じように思えてしまうのだろうか?
しかし、今回の件は、かなりの衝撃を俺にもたらしてくれた。
「こうなってくると、公式武闘大会はもう一度考えたほうがいいかもな。
武闘大会とするより、運動会の方がまだいいかもしれない」
「テイム魔物や聖獣と一緒に、運動会ですか?
それはそれで楽しそうですけど、一部のテイマーにとっては物足りないのではないですか?」
「すべてのテイマーを満足させることはできないだろうけど、一度運動会を提案してみよう。
もしかしたら、テイマーとテイム魔物や聖獣たちとの仲がより深まるかもしれない」
「分かりました。
こちらで、草案を作っておきますね」
「よろしくね」
テイマーと魔物、いや、従魔か。
その関係が、より深まってくれれば、今回のような再会契約成功者二人という少なさはなくなるだろうな。
そして、より従魔をパートナーとして扱ってくれると思う。
一緒に戦い、遊べる友達として……。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐太郎
ここは、ダンジョンパークにある最初の町の五十嵐家のちょっと大きい家だ。
ダンジョン企画創立のメンバーには、こういう家が用意されている。
が、使われることはあまりない。
何せ、ここは人が多いからな。
特に観光客が。
だから、日本にある自分の家の方が落ち着くのだ。
まあ、今回は特別に使うことにしたのだ。
「さ、お座りください」
「ああ、ありがとう」
そう言うと、アメリカ大使の男性と秘書という女性が、俺の前にあるソファに腰かける。
俺も対面のソファに腰かけると、自己紹介が始まった。
「急な面会に関わらず、申し訳ない。
私は、アメリカ大使のデービットと言います。
こちらは、秘書のナタリアです」
「こちらこそ、ダンジョンパーク内での面会を了承していただきありがとうございます。
私は英語が苦手でして、ここならば通訳の必要もないのでお願いした次第で。
改めて、ダンジョン企画の社長をしております五十嵐太郎です」
「いや、部下たちの報告で分かってはいましたが、本当にこの場所では言葉が通じるのですな。
これは、便利だ」
「ですから、ここでは日本人以外の方も、気兼ねなく体験できるのでしょう。
日本観光の一環で、来園される方がかなりいるらしいですな」
確かに、日本観光の一つに、ここダンジョンパークが挙がっていた。
しかも、人気上位ときている。
魔法を扱った映画の影響だろうか?
タクトの魔道具を使っての、魔法行為が人気らしい。
そして、タクトの魔道具を使う時、映画で出てきた呪文を唱える人が多いのだとか。
「ええ、これは大統領の日本訪問の折には、このダンジョンパークにも来てもらうよう要請しておきますよ」
「ははは、それは光栄ですな。
……それで、今回の会談の目的は何でしょうか?」
「……少し早い気がしますが、ここは本音でいきましょう。
実は、このダンジョンパークを、アメリカでも開園できないかというお願いなのです」
「アメリカで、ですか?」
アメリカにダンジョンパークを、か?
どう答えたらいいものだろうかな……。
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