第206話 同情



Side 五十嵐颯太


「颯太! 頼む!」

「……いきなり、どうしたの?」


朝早く、俺の家の玄関で陸斗が土下座をしている。

何かお願いがあるんだろうが、何でここで土下座をするのかな……。


とりあえず、話を聞くために家に入れる。

これから朝食という時に来たので、母さんが一緒にどう? と誘い、ゴチになります! と、即答。

こいつ、人の家の朝食が目当てか?!


「こんなものしか出せないけど、しっかり食べてね?」

「ああ、いえ、お構いなく」

「といいつつ、食べているじゃねぇか。

身体は正直だな、渡辺君」

「すみません、勢いだけで来てしまったもので……」


そう言いながら、家族+1の朝食が始まった。

陸斗は、終始、母さんの料理をほめていたけど、ほとんどが近くのスーパーで売っているものだ。

でもまあ、褒められて怒る人もいないだろうし、いいか。




「で、何しに来たんだ? 陸斗」


朝食を終えて、俺の部屋に陸斗と移動し話を聞く。

わざわざ、こんな朝早くから来たのだ。

よほどの事情があるだろうと思って聞いた。


「ああ、そうだ! 頼む陸斗! 身勝手なお願いだってのは、重々承知だ!

それを承知であえてお願いする!

非公式武闘大会で、テイムした魔物や聖獣と別れた者たちに救済措置をお願いする!」

「救済措置?」

「そうだ、別れてしまった魔物や聖獣を、戻してやってほしいんだ!」


戻してほしいって、あれは罰として発動させたんだ。

散々非公式の武闘大会には参加しないようにと警告したのに、聞き入れてもらえなかったから……。

だから実力行使に出たのに、今さら戻してほしいって言われてもな……。


「そう言われてもな……」

「難しいことは分かっている。

だから、元通りとはお願いしない!

出来れば、チャンスを与えてやってほしいんだ!」

「チャンス?」

「そうだ。

……これを見てくれ」


そう言って陸斗は、自分の携帯からあるネットのブログを見せてくれた。

そこには、魔物をテイムするまでの行程が記録されており、さらに、テイムした後の行動までもが綴られていた。


さらに、一緒に寝たり食事をしたりとかわいがっていたことが分かるものだった。

だが、例の武闘大会以降は、怒りに任せての書き込みが続くが、ある時を境に後悔のブログになっていった。


なぜ、警告を無視してあんな武闘大会に参加したのか。

なぜ、あの日、武闘大会に見学に行ってしまったのか、と。

できることなら、あの日に戻りたいとまで書かれている……。


「な? これを書いた奴だけじゃない、いろんな人たちが反省していた。

だから、こいつらにチャンスを与えられないかなって思ったんだ……」

「同情か? 陸斗」

「ああ、同情だ。

それと、他人事でないと感じたんだ。

俺にも、テイム契約しているアニュスがいるからな……」

「なるほど、突然離れ離れになる悲しみが分かるってことか……」

「ああ、だからチャンスを上げてほしいんだ。

こんなにかわいがっていた魔物や聖獣なら、向こうも主人のこと忘れられないんじゃないかと思ってな……」


ん~、だからと言って、この人たちだけを特別扱いはできない。

ギルドカードは失効しているのだから、テイムフィールドには入れない。

九州ダンジョンパーク自体に入れないのだから、テイムが復活して何になるのかという思いもある。


「でもな~、こいつらの罰を許すと他の連中も五月蠅いぞ?」

「分かっている。

そこで考えてきた!

こいつらには、仮カードを渡して一定のダンジョンパークの場所のみの入場を許可する。

そして、テイム魔物や聖獣にもう一度こいつらと一緒にいたいか選ばせる。

で、いたくないとなったらそのまま仮カードは失効。

九州ダンジョンパークから、失効が解かれるまで追放。

魔物や聖獣が、一緒にいたいとなったら一定のテイムフィールドのみで会えるということにする。

どうだ?」

「どうだ、と言われてもな。

……つまり陸斗は、テイム魔物や聖獣が戻りたいと選んだら、ある場所でのみの出会いを了承しろということか?」

「そんな感じだ!」


……まあできなくはない話だな。

テイムフィールドの一角に、城壁で囲んだ区画を作り、そこでのみテイム魔物や聖獣との戯れを許可する。

そうなると、特殊なギルドカードを作り、入り口ゲートで承認後、すぐにその区画に転移するようにしないといけないな……。


ただ、その人たちがテイムしていた魔物や聖獣に選ばれればの話なんだが……。


「まあ、できると言えばできるけど……」

「頼む颯太! 同じテイマーとしてお願いします!!」


そう言って、その場で土下座する陸斗。

そして、何度も何度も頭を床に押し付ける。


「……分かった、分かったから。

ただし、この特別措置には時間がかかる。

三日待ってくれ。その間に準備を進めておくから」

「ありがとう、颯太!!

三日だな! 俺はその間に、このブログの人に連絡をとってみる」

「……ああ、あまり大事にするなよ?」

「分かってる!」


そう言って、笑顔で帰っていった。

同じテイマーとしての同情で動いているけど、それがどんな結果を生み出すのか理解しているのかな?


テイマーだけ特別にして、黙っている人は少なくないだろうに……。

それだけ、ダンジョンパークは人気があるんだ。

出入り禁止を突きつけられた、テイマー以外の人たちがどう出るか……。


今も、訴訟問題でダンジョン企画とやりあっている最中だしな。

悪い方向へ行かないことを祈るよ……。







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