第205話 五月蠅い人たち



Side ???


「あなたたちのカードは、失効されました。

それと、再登録ですが、今は受け付けておりません。

いつ再登録できるかは、動画配信でお知らせします。ご了承ください」


そう言って、一礼するのは、口ひげを生やした年輩の偉い人っぽい。

だが、それで納得できる人たちではないだろう。

俺もその立場だったら、納得できない。


非公式のテイマーによる武闘大会に参加、もしくは見物に行っただけで、ダンジョンパークの入場に必要なギルドカードを失効されるなんて、納得できるはずがない。

ここにいる人たちも、同じように苦情の嵐だ。


「ふざけないで! そんな非公式の大会をどうして今取り締まるのよ!」

「俺は参加していたわけじゃねぇ! 見ていただけだ!

見ていただけで失効なんて、おかしいじゃねぇか!!」

「そ、そうだ! 見ていただけで参加していた連中と同じように失効なんて納得いかないよ!」

「取り消せ! 見学しただけで失効なんて、取り消せ!!」

「取~り~消せっ! 取~り~消せっ! 取~り~消せっ!」

「「「「取~り~消せっ! 取~り~消せっ! 取~り~消せっ!」」」」


取り消せの大合唱が始まった。

こうなると、警察などの強権を発動して取り締まるのだが、ここはダンジョンパークだ。

独自の法律が存在しているらしいし、どうするんだろう……。


俺が入り口ゲートの向こうから。衛兵なりが来るかと思ったが誰も来る気配はない。

どうするんだろうと、大合唱する人たちに目をやった瞬間、消えた。


「え?」

「は?」

「あれ?」


入り口ゲートに並んで、動向を見守っていた人たちは、人々がいきなり消えて唖然としてしまった。

さらに、受付の人たちは、これが当たり前のように普通に接客している。


「お客様、こちらへどうぞ?」

「は? え? いや、さっきの……」

「大丈夫ですよ。

五月蠅い人たちは、強制転移されました。

今頃は、反省しているかもしれませんね~」

「……」

「ご記入いただいた、登録用紙をこちらへ」

「は、はい」


唖然としていると、後ろに並んでいる人から小突かれる。

どうやら、ゲート通過の番が回ってきたようだ。

すぐにギルドカードをかざして、ピッと確認されダンジョンパークへ入っていく。


だが、俺の頭の中は混乱していた。




▽    ▽    ▽




Side ミア


「ハァ、五月蠅い人たちはどこでも五月蠅いわね。

公式動画などであれだけ、注意喚起したのに参加しているなんて……」

「エレノア、ありがとう」

「マスターに、これ作ってもらっておいて助かったわ。

タブレット型転移魔道具。

転移させる標的を指定できるから便利なんだけど、数が多いと大変なのよね」


入り口に転移させられて、すぐに登録情報からギルドカードを失効させると、持っているギルドカードは消滅する。

ただし、アイテムボックスや無限鞄などに入っていると影響はない。


でも、今この場所にいる人たちがアイテムボックスか無限鞄を持っているとは思えない。

だからこそ、全員のギルドカードが消滅したのでしょう。


「それで、どこへ転移させたの?」

「九州ダンジョンパークのトンネルの前よ。

入り口前から、さらに離してあげたわ。

今頃、少しは冷静になっているんじゃないかしら?」


九州ダンジョンパークのトンネル入り口前、ね。

今頃大騒ぎでしょうね……。


「そんなことより、武闘大会を開催していた会社の方は何もしないでいいの?」

「そちらは、ダンジョン企画に任せてあるから大丈夫よ。

今頃は、検察を動かしていると思うから」

「検察? 何か犯罪でもやってたの?」

「武闘大会をした会社じゃなくて、その上がね」

「上?」

「武闘大会をした会社、グローバルテイマー企画っていう名前なんだけど、今回の武闘大会をするためだけに興した会社だったのよ。

で、その興した連中がもともといた会社が反社だったの」

「はぁ~、悪いことって分かってて始めたのね……」

「で、その反社の会社に検察が入ったってこと」


マスターのお父様たちも、しっかりとやることはやっている。

検察まで動かすなんて、権力は使うためにあるのでしょうね……。


「日本の総理と友人っていうのは、結構すごいのね……」

「たぶん、検察も調べていたところだったと思うわ。

そうじゃないと、こんなに早く動けなかったでしょう」

「……確かにそうよね。

総理の友人からの頼みで、検察が動くわけないし……。

ということは、渡りに船ってことで動いたのかも」


これで元は潰した。

あと問題になるのは、今回騒いでいた人たちの今後の動きでしょうか。


訴訟問題になるのは、避けられないと思いますから頑張ってもらいましょう。

ダンジョン企画のお父様たちに……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


非公式の武闘大会がなくなり、テイマーたちのダンジョン企画への要望がかなり増えたらしい。

良くも悪くも、武闘大会は刺激になってしまったそうだ。


「颯太、武闘大会は何とかならんか?」

「そうなるだろうと思って、今システムの構築中だよ。

安全性が確保出来たら、ダンジョン企画にもっていくから」

「よし、それなら十月までに頼む。

会社の方でも、企画課が五月蠅くてな。

宥めるのに苦労しているんだ……」

「分かったよ。こっちも十月までに何とかしてみるよ」

「頼むぞ~」

「でも父さん、訴訟の方はいいの?」

「ああ、弁護士の先生方がついているからな。

訴訟に関しては大丈夫だ。

先生方も、勝利間違いなしと太鼓判を押してくれた」


例のギルドカード失効から一週間で、ダンジョン企画に訴訟問題が起きた。

失効者たちが、被害者の会を結成して訴えを起こしたのだ。


まあ、本来はダンジョンマスターの俺を訴えるべきなんだろうが、俺の存在は秘密にされているし、世間的には女性と認識されているようだしな。

で、矛先はダンジョンマスターではなくダンジョン企画へというわけだ。


こんな時のためのダンジョン企画だし、父さんたちに任せておこう。

今俺は、残りの夏休みを使って十月開催予定の公式武闘大会のための会場やシステムを構築しないといけない。


テイム魔物たちが死ぬことのない、安全な武闘大会ができるように……。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る