第208話 心のケア
Side ソフィア
九州ダンジョンパークにあるテイムフィールドの一角に森があり、その中心に美しい湖が存在します。
そこには神殿が存在し、ある聖獣とのテイム契約ができるのです。
森を抜け、湖の側に建つ神殿に近づきます。
すると、神殿の中から二頭のユニコーンが近づいてきました。
「あ、ソフィア様だ~」
「ソフィア様~」
「こんにちは、彼女は中にいる?」
「うん、あの子の側についていてあげてるよ~」
「かわいそうにね~」
例の再テイム契約の際に、心に傷を負った聖獣とはユニコーンのことなのよね。
この神殿で、ユニコーンの象徴としている美の女神ビーナスが心のケアをするため、傷を負ったユニコーンの側についていてくれている。
私は、二頭のユニコーンに案内されながら神殿の中へ足を踏み入れた。
神殿の中は、広い吹き抜けの場所になっていて、屋根とたくさんの柱があるだけ。
そんな場所の中央に、噴水があり、その側にビーナスが座り、そのすぐ側に一頭のユニコーンが寄り添っていた。
「あら、ソフィア。久しぶりね?」
「今、大丈夫?」
「この子なら大丈夫よ。
さっき寝たばかりだから……」
「そう」
そう答えながら、ビーナスは手の平で優しくユニコーンの首を撫でている。
撫でられていたユニコーンは、気持ちがいいのか更に頭をビーナスに寄せてきた。
「フフフ、こんなにかわいいのに、ね……」
「この子のこと、聞いてる?」
「ええ、ミア様から聞いているわ。
心を傷付けられた、かわいそうな子……。
こんなになるまで、どんな心無い言葉をぶつけられたのか……」
「私も、許せないと思ったけど、すでに相手には罰が下っているのよね」
「そういえば、その相手って女性なの?」
「ええ、女性よ。
ユニコーンの伝説を信じていた女性。
でも実際は、あの変わりようだものね……」
「人って、怖いものなのね」
「ん~、あの女が特別怖かったんじゃないかしら?」
「かもしれない。
でも、この子にとっては恐怖そのものがあの女だったんでしょうね」
例の最後のチャンスの時の映像を、ミアに頼んで見せてもらったけど、このユニコーンがどんな風にあの女から扱われていたがすぐに分かった。
このユニコーンは、言葉による洗脳を受けていた。
そのため、あの女に会わせただけで、震えが止まらず、女が抱き着けば気絶してしまったのだ。
この非常事態に、すぐに女をユニコーンから引き剥がしミアがテイム拒否とした。
その後、ビーナスの元に戻されたユニコーンが、その側を離れなくなったのは心に傷を負っているからと判断した。
ビーナスも、側に寄ってくるこのユニコーンをずっと癒し続けている。
「それで、あの女はどうなったの?」
「テイム契約不成立で、ギルドカード剥奪。
一年間の入場拒否となるそうよ。
後、ミアから呪いを掛けられていたわね」
「呪い?」
「ええ、心の感情が表情に出る呪いを、ね」
「……それは、大変ね~」
「このユニコーンの慰めにはならないでしょうけど、もう近づくことはないと思うわよ」
「そうだといいわね……」
ビーナスの表情は、困った笑顔をしていた。
何やら、思うところがあるのだろうか?
おそらくこのユニコーンは、二度と人とテイム契約は結ばないだろう。
ビーナスに、心のケアをされたとしても……。
人というものが、信じられなくなったのだから。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐太郎
「どうですかな? アメリカダンジョンパーク。
こちらで、場所をご用意できますが、ご希望があるなら伺いますよ?」
そう言うと、秘書のナタリアさんが、タブレットを取り出しアメリカ側が用意した場所を映しだす。
ロサンゼルス、ワシントン、ニューヨークまで用意されている。
有名どころはもちろんだが、ある地点が映し出されると、私はデービット大使の顔を見た。
「大使、ここは……」
「ご存じでしたか?
ええ、エリア51と言われているあの地です。
大統領は、この地での開園を望むなら許可をしてもいいと言われています」
「マジですか……」
ダンジョンパークは、宇宙人のテーマパークではないのだが……。
だが異世界の力なのだから、あながち間違いではないのかもしれない、のか?
「ダンジョン企画からなら、例の女の子に連絡が取れるのではないですかな?」
「例の女の子?」
「ほら、九州ダンジョンパークの設置の時に登場した、あの魔法使いの女の子ですよ」
「……あの動画は、隠し撮りだったはずです。
それに、あの女の子とダンジョン企画は関係ないと公式発表したはずですが……」
「またまた、そんな話は誰も信じていませんよ。
アメリカが裏で、宇宙人と繋がっているという話と同じようにね……」
わ、笑うところなのだろうか?
アメリカの有名な噂話ではあるが、こうして大使が出してくるとはな……。
「う、宇宙人の話は置いておいて、アメリカでのダンジョンパーク開園は、すぐのすぐこちらで返事をするわけにはいかないと思いますが……」
「そうですか?
しかし、仮の約束だけでもどうですかな?
ダンジョン企画さんが、ダンジョンパークの運営を任されているのなら次の開園場所を決めてもよろしいのではないですか?」
「……これは、少し考えさせてください。
日本から出て開園するなら、最初の地はアメリカと考えてはいましたから……」
デービット大使は、満面の笑みで立ち上がると、右手を差し出した。
私も遅れて立ち上がり、デービットの手を取る。
「ありがとうございます、ミスター五十嵐。
アメリカの地に、ダンジョンパークが開園する日を楽しみにしていますよ!」
「いや、あくまでも考えていると言っただけで……」
「何を言うのです!
私の手を取ったのです。これはもう、決まったも同然でしょう!」
「ああ……」
「ミスター五十嵐、アメリカのどこに開園するかはお任せしますが、必ずこちらにご相談ください。
大統領を、説得しないといけませんので」
「……はあ、分かりました」
満面の笑顔のデービット大使と、疲れた表情の私。
どちらが交渉に勝利したかは、一目瞭然だな……。
はあ、颯太にどう言い訳しようか……。
いや、妻に言い訳する方が先か……。
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