第184話 契約完了



Side 渡辺陸斗


「改めて、名のっておくでありんす。

わらわの名は玉藻、聖獣九尾の狐の象徴でありんす」

「……あ、お、俺は、渡辺陸斗と言います」

「俺は、大塚悟と言います」

「俺は、一ノ瀬恭太郎です」

「この子らの試練を受けているとか?

今日は、その事で来たんでありんしょ?」

「は、はい、目的の物を持ってきたので……」


そう言うと、アニュスたち狐っ子の目が輝いて、俺たちの側に寄ってきた。

しかもそれぞれの元へ、寄ってきたのだ。

俺の所に来たのは、アニュスという狐っ子だ。

三人の中では、リーダー的存在らしい。


悟の元には、イニスという狐っ子が寄っていく。

三人の中で、一番身長が高い子だ。

その分成長もしているのだが、はっきりと分かるような違いではないため似たり寄ったりといったところか。


恭太郎の元には、レニュスという狐っ子がいた。

三人の中では、一番胸があるらしい。

その事を他の二人に自慢しているようだが、傍目にはあるかないか分からない。

また、見た目は三人とも幼女の姿なので、あまり特徴があるわけではない。


しいて言えば、髪形と顔が違うぐらいか。

それでも、大きな違いはない。

みんな美幼女だし、将来が楽しみである。


「早く、早く渡してたも!」

「まあまあ、落ち着いてアニュス。

順番に渡していくからさ」

「なら、わらわからじゃ!」

「それじゃあ、アニュスにぴったりな甘味は、イチゴ大福だ」

「イチゴ大福とな?」


俺は、悟が持っていたクーラーボックスから、イチゴ大福を取り出す。

そして、アニュスの前に持ってきてみせる。


「ほう、これがイチゴ大福なるものか!」

「大福という和菓子の中に、果物のイチゴを入れた新感覚の甘味だ。

美味しいよ」

「食べてよいのか? よいのか?」

「ああ、これはアニュスに渡す物だからね」

「うむ、ではいただくのじゃ!」


そう言うと、アニュスは手を伸ばしてイチゴ大福を手に取る。


「む、冷たいのじゃ!」

「大福が蕩けないように、少し冷たい場所に入れておいたんだ」

「ほうほう、では、いただくのじゃ!」

「あ、その前に包装を取らないと……」

「……この、透明な物かや?」

「取ってたもれ、陸斗」

「はいはい」


俺はそう言われて、イチゴ大福の包装を取って、再びアニュスに渡した。


「では、いただくのじゃ!」


そう言うと、イチゴ大福にパクついた。

そして、イチゴ大福を口から離すと、大福の餅の部分が少し伸びる。

それに少し驚くも、もぐもぐと口を動かしイチゴ大福を味わっている。


「美味いのじゃ!

餅とあんことイチゴの一体感が、何とも言えないのじゃ~」

「美味しいだろ?」

「合格じゃ、陸斗!!」


アニュスがそう叫ぶと、俺とアニュスが光に包まれ、アニュスの右手の薬指に赤い糸が結ばれ、それが伸びて俺の左手の薬指に結ばれた。

こうして、俺とアニュスは赤い糸で結ばれることになった。

これで、テイム契約が完了したらしい。


「アニュス、これからよろしくな」

「うむ、よろしく頼むぞ陸斗!」


アニュスはそういうと、再びイチゴ大福にかぶりついた。

そして、ご機嫌で食べている。



「つ、次は俺も!」

「俺も、レニュスに甘味をあげてみる」


悟も恭太郎も、それぞれの狐っ子に、クーラーボックスから自分が選んできた甘味を狐っ子に与える。

どちらも、アニュスとは違う甘味だったが、どちらも喜んで食べている。


「うん、美味しいよ! 悟、合格!!」

「美味しい! 合格!!」


合格をもらった悟は、イニスと赤い糸で結ばれ、恭太郎は、レニュスと赤い糸で結ばれた。

本殿の縁側に座った俺たちの膝の上には、それぞれの狐っ子たちが座って甘味を堪能している。


ふいに、アニュスが俺を見上げて笑顔で質問する。


「イニスとレニュスが食べているもの、わららも欲しいのじゃが?」

「こんなこともあろうかと、人数分買って来てあるから出してあげるよ」

「「「やったー!」」」


膝の上のアニュスを持ち上げ、縁側から降りてアニュスだけを縁側に座らせる。

すると、大喜びの三人の狐っ子は両手を前に差し出した。

ここに載せてほしいようだ。


それを見た俺たちは、顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

とにかく、クーラーボックスを開けて予備のイチゴ大福、プリン、シュークリームを取り出すと食べてない物を、それぞれの手の上に載せてあげる。


そんな光景を、玉藻は本殿の中から笑顔で見ていた。

まるで、自身の子供たちを見ているように……。




▽    ▽    ▽




Side ???


始まりの町の前にあるゲートに並んでいると、急に光ったと思ったら三人の上半身裸の男たちが、列の横に現れた。

最初は、現れたことに驚いたがよく見ればげんなりする光景がそこにあった。


それは、上半身裸の男三人が変なことを言いながら乳繰り合っているのだ。


「なんだ、この液体は。感じてんのか?」

「どうよ、俺のこのテクニックは」

「声を我慢することねぇんだぞ?

感じてんなら、声を出した方が気持ちよくなれるぜ?」


並んでいる男たちからは、白い目で見られているし気持ち悪くなっている者もいる。

さらに、女性たちもおおむね同じだが、中にはキラキラした目で見ている者もいた。

おそらくあの女性は、腐の人なのだろう……。


しかしこいつら、どこから現れたんだ?

そのうち、警察が到着しズボンを降ろそうとしたところで逮捕となった。


「はっ?! ど、どこだ、ここは!」

「な! 俺は何してたんだ?!」

「あ、あの女はどこに行った?!」

「はいはい、君たちには聞きたいことがあるからこっち来て……」

「は? 誰だおっさん!」

「警察だよ、警察。見て分からない?」

「はあ?!」

「はい、こっち来てね~」

「ど、どこに連れて行くんだよ!」


そんな風に揉めながら、連行されていく三人の男たち。

一体、何が起こっているんだ?








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