第183話 欲深きもの



Side 渡辺陸斗


長い距離を歩いて神社に到着すると、何やら大声で揉めているらしい。

俺たちは、顔を見合わせすぐに神社の階段を上っていった。


そして、階段を上った先で見たのは大学生らしい男たち三人と狐っ子たちが言い争っているところだった。


「だから、君たちの主人は今日から俺だって言ってんだろうが!」

「わらわたちも言っておるぞ?

試練に合格しろとな。合格せぬ限り、わらわたちと契約なぞ出来ん!」

「契約なんかどうでもいいんだよ!

お前たちを連れて行きゃあ、金になるんだ。

大人しく、俺たちに捕まれ!」

「馬脚を現しおったな!

この下種どもが! お主らの言いなりになるものなどおらん!

とっとと、居ね!」

「ごちゃごちゃと、うるせぇんだよっ!!

ガキのくせに。

てめえらは、俺たちの金蔓でしかねぇんだ。諦めな!」


大学生の男たちは、無理矢理狐っ子たちを捕まえようと網を用意していた。

さらに、その足元には小型犬を入れるようなケースまで用意してある。


「おい、陸斗!」

「ああ、こんな場面を見過ごせるか!」

「行くぞ!」


俺たちは、神社の階段を上り切り姿を現した。

そして、大学生の男たちに対して大声をあげた。


「お前ら! 何している!」

「あぁ? ……何だおめぇらは」

「俺たちは、その子らとの契約を望むものだ!」

「その子たちに近づくな!」

「おお、其方たち、来てくれたのか?」

「た、助けて~」


俺たちは、駆け足で大学生たちの横を通り抜け、狐っ子たちの前に立ち、大学生と対峙した。

狐っ子たちを守るように……。


「んん? 何だよ、高校生のガキか」

「お前ら、そこをどけ!」

「その動物は、すでに俺たちのものだ。

お前らの出番はないんだよ!」

「ふざけるな! 彼女たちをもの扱いするな!」

「物だろ? 動く物。だから動物と言うんだからよ~。

……いいか? そいつらは金になるんだ。だから捕まえに来たんだからよぉ」

「そいつらを欲しがってる人がいるんだよ。

その人の元に送れば、そいつらも幸せになる。

俺たちにはお金が入ってきて幸せになる。

そして、そいつらを手に入れた依頼主も幸せになる。

みんな幸せになるだ。分かったら、さっさとそこをどけ!」

「……どこかで聞いたことのある、悪人のセリフだな」

「まず前提がおかしいんだよ!

彼女たちが幸せになるわけがないだろうが!」


睨み合いを続ける、大学生の男たちと俺たち。

ここで引いてしまうと、狐っ子たちが大変な目にあわされる。

そう考えてしまうと、勝手に体が動いてしまった……。


「お主ら……」


その時、神社の本殿の扉が勢いよく開けられた!

そして、その中からは狐っ子たちを大人にしたような女性が現れた。


「うるさいぞよ!! 一体、何の騒ぎであるかぇ!」


表れたその女性の美しさに、大学生も俺たちも目を奪われた。

息をのむほどの美しさとはこのことか……。


「姉様~」


そう言って泣きついた狐っ子たちは、その美しい女性に宥められるように撫でられている。

そ、それは羨ましい……。


「おうおう、よしよし。

何があったのじゃ? 話してみよ、アニュス、イニス、レニュス」

「はい、姉様~。

実は、そこの男たちがわらわたちを攫いに来たのです。

そして、依頼主という輩にわらわたちを売り払うと……」

「なんということを……。

して、そこの男たちは?」

「彼らは、わらわたちの試練を受けている者たちです」

「うむ、ならばちゃんとした者たちなのじゃな?」

「はい、姉様」

「ならば、悪人はさっさと追い出すに限るのう~」


そう言って立ちあがり、狐っ子たちを後ろに隠しながら境内に降りてきた。

そして、俺たちの前に出て大学生たちに対峙する。

さらに、どこから出したのか扇子を広げ、口元を隠しながら言い放った。


「さ、この神社から出ていきなはれ。

今なら、傷つけずに見逃してやるでぇな~」

「あぁ? 何言ってんだ?

……それにしても、スタイルもいいし、この女攫って回すか?」

「いいねぇ~、俺は賛成だな。

こんな女、滅多にいねぇだろうし……」

「いいのか? この女にかまけて。

金になるガキどもが、すぐ目の前にいるってのに……」

「いいんだよ。先方には、思いのほか時間がかかったって言い訳はたつんだし」

「それに、この女の相手をしなけりゃあ、後悔するぞ?」


大学生の男たちは、嘗め回すように目の前の女性を見ている。

あれは、男の俺達でも退くレベルだ……。

何考えているか、すぐに分かる。


「おい、右からだ」

「なら、俺は左から」

「正面は任せろ」


こいつら、見えているのか?

あの女性の尻尾に……。


「な、なあ陸斗。あの女性って……」

「ああ、狐っ子たちが成人した姿だな。

ほら、後ろにある尻尾が九本ある」

「あれが、聖獣の九尾の狐」


それに、扇子で口元を隠してはいるが、こっちからは見えている。

あの口角の上がった表情が……。


「おら! 大人しくしやがれ!!」

「ほれ! 俺たちが気持ちよくさせてやるからよぉ!」

「!! 捕まえたっ!!」

「ははは! やわらけぇな~」

「やっぱ、女の胸はこう大きくないとな!」

「いい腰つきじゃねぇか!」


戯れる、あちこちを撫でたり揉んだりしながら戯れている。

男たち三人で、お互いの身体を弄りあっている……。

幻術にかかり、お互いがお互いを捕まえた女性に見えているのだろう。

俺たちも、ドン引きするほど乳繰り合っていた。


ついには倒れこみ、男たち三人は服を脱ぎ始め、さらに激しく乳繰り合う。

ハッキリ言って、気持ち悪い……。


「ホホホ、男とはこうも愚かなのかぇ?

……気持ち悪いから、あっちへ行っておくんなまし」


そう言うと、扇子を閉じて横に振った。

すると、乳繰り合う男たちの下に魔法陣が出現する。

そして、その魔法陣が輝き、一瞬目が眩むほどの輝きを放ったかと思うとすぐに収まった。


「……あ、あれ?」

「あの大学生たちが、消えた?」

「あの者たちなら、始めの町に戻したでありんす。

それも、ゲートのすぐ前に……」


そう言ってニヤリと笑う、九尾の女性。

妖艶で美しいその笑みは、背筋がゾクゾクとした……。


もしかして俺たち、大変な聖獣とテイム契約をしようとしている?








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