第182話 魔王について
Side 五十嵐颯太
中央の町にある冒険者ギルド内の会議室。
ここに今、一人の女性がノックをした後、ドアを開けて入ってきた。
「失礼します~」
「悪いね、ラフィリス。
わざわざ呼び出したりしてすまない。
どうしても、伝えておかないといけないことがあってね……」
「い~え、構いませんよ~。
ダンジョンマスター様の呼び出しなら、何においても優先されますわ~」
そう言いながら、椅子を引き、そこへ座った。
この会議室には今、俺とラフィリス、そしてミアの三人がいる。
「前の世界と繋がったことは、すでに聞いていると思う」
「はい~、私たちが知る時代から、だいぶ経過した世界との報告も受けておりますよ~。
でも大丈夫です~。
魔族の種族寿命は約千年、まだ生きている者もいると思いますわ~」
「それじゃあ、このダンジョンを出ていく者たちもいるということだね?」
「それは仕方ないことかと~。
向こうの世界にいる知り合いを探しに行く者たちを、止めることはできませんから~」
「分かった、それに関してはダンジョンとしてもバックアップはできる限りしておこう」
「ありがとうございます~」
「でだ、実はラフィリスたち魔族にとって重要な知らせがある」
「フフフ、それは魔王様が復活されたことですか~?」
「知っていたのか?」
「知っているもなにも、分かりますわ~。
足元から力強い、それも懐かしい波動のようなものを感じましたし~」
「いつです?
ラフィリス、いつ、そのような波動を感じたのです?」
「そうですね~、今から半年ほど前ですか~。
急に、足元から魔王様の波動のようなものを感じました~。
あの時の感じは、魔族であれば全員感じたと思います~」
「……マスター、半年ほど前と言えば……」
「ああ、分かっている」
半年前と言えば、異世界と繋がり、勇者オオノとの交渉の際に反乱が起きて一旦繋がりを切ったころだ。
そして、再び異世界と繋げてあの町跡を調べている頃か。
その時、向こうの世界では魔王が復活した後で帝国が大変なことになっていたんだよな……。
なるほど、魔王の波動を感じるわけだ。
魔王が復活した後の異世界に、繋がったんだからな……。
「あの、魔王様復活のことを知らせるために~?」
「いや、実はな、今度その魔王と会談を行うことになったんだ」
「魔王様と会われるのですか~?」
「ああ、向こうが興味を持ったらしくてな……」
「それで、魔王について何か知らないかと、あなたを呼び出したというわけです。
ラフィリス、何か情報はありませんか?」
「ん~、たぶん、何も教えられる情報はありませんわ~」
「そうなの? 何かあるでしょう?」
「ん~、まず大前提として、魔王様は封印と復活を繰り返してる存在です~。
誕生以来、死を経験したことのない存在なのです~。
というか、魔王様を倒すことはできても殺すことはできなのです~。
魔王様の死は、世界の死ですから~」
「それはどういうことですか?」
「魔王様は、魔素の支配者なのです~。
ですから、魔王様の死はそのまま、魔素の死滅というわけです~」
魔素の死滅。
それは、向こうの世界の人にとっては空気が無くなるに等しいことだ。
生まれたときから、魔素がある生活が当たり前。
さらに、魔素が生命維持に使われているのだから、それが無くなるということは……。
でも、それならなぜ魔王を倒そうとするのか……。
いや、封印しようとしているのか。
魔王の存在は絶対必要だが、魔王の行動は必要ないということか。
人々の生活を脅かす魔王は特に……。
「……なるほど、魔王を倒せる勇者はストッパー役というわけか……」
「あの、マスター、それはどういう……」
「今の魔王の行動を知る限り、人々に要求とかしていないだろう?」
「ええ、昔の文献では魔王が人々を虐殺していた記録などはありましたが……」
「それ、虐殺ではなく復讐ですよ~」
「復讐?」
「はい~。
ミア様の見た文献の記録は、おそらく前の魔王様のものだと思います~。
あの頃は、私たち魔族は人々、特に人族から虐げられていました~。
そして、奴隷として扱われることも多かったんです~。
魔族は、魔力が多いものが大半ですから、人体実験の材料などにも使われていたんです~」
「そ、それは……」
「ええ、今では考えられないことですが、昔はそうだったんですよ~。
そんな扱いを受ける魔族の中から、魔王様は誕生しました。
そして、今までの魔族に対する復讐がそこから始まったのです~」
魔王は、魔族に対してもっとも虐げていた人族に対し、虐殺を繰り返し続けた。
その中で、奴隷として捕まっていた魔族を救出していく。
また、さらに魔族を救い出すために全世界に対して戦いを始めたらしい。
だが、そこへ勇者が登場。
よくある物語のごとく、魔王対勇者の戦いが行われ、勇者が勝利した。
その後、魔王は勇者の手によって封印されたというわけだ。
「なるほど、文献に書かれていない事実が数多く出てきましたね……」
「今の魔王様が、前の魔王様と同じ行動をしていないということは~、今の魔王様と前の魔王様は別の魔王様と言うことだと思います~」
「ん? 同じ魔王じゃないのか?」
「封印されただけなら、魔王は魔王でしょう?」
「魔王様は、封印と解放を繰り返すたびに、容姿を変えているんです~。
そのため、性格も性別も変わるそうですよ~」
「性格が変わる?」
「性別が変わるのですか?」
「……前の魔王はどっちだった?」
「前の魔王様は、男性の姿ですごいイケメンでしたね~。
普段笑わない方でしたから、笑顔を見せられたらどんな方でもコロッといったらしいですよ~」
ラフィリスが、ほほに手を置き恥ずかしがっている。
これは、かなりのイケメンだったらしいな……。
「ラフィリスは、前の魔王に会ったことがあるのか?」
「会ったというより、見えた、でしょうか~。
魔族が解放され、凱旋されたパレードで見ましたから~」
「ラフィリス、魔王の容姿で何か特徴はありませんか?」
「そうですね~。
あ、確か歴代魔王様は全員銀髪で容姿端麗だったとありましたわ~」
「なるほど……」
ということは、今度会談する今の魔王は、ものすごい美人ということになるのか。
美人はミアたちで慣れているとはいえ、大丈夫かな……。
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