第179話 魔王からの手紙



Side 五十嵐颯太


ミアに案内されて、コアルームにやってきた。


「それで、何があったんだ? ミア」

「はい、まずはこちらをお読みください、マスター」


マスター呼びに変わったミアから、一通の手紙を受け取る。

そして、封を開け中を見る。


「………、これマジか?」

「はい、本当の事のようです。

それで、どうすればいいのか私には判断ができませんでしたので……」

「え? 何?」

「凛も読んでみるか?」


困惑する凛に、手紙を渡し読むように促す。

凛も手紙を受け取り、中の手紙を読んだ。


「……ごめん、何が書いてあるか分からないわ。

こんな文字、よく読めるわね……」

「ん? 異世界言語理解のスキルが効いているはずだから、読めないことはないと思うけど?」

「いいえ、読めないわよ」

「……もしかして、特別な文字で書かれているのか?」

「この手紙に使われている文字は、ダンジョン文字です。

ダンジョンマスターたちの間でだけで、使用されていた文字です。

そのため、読めるのはダンジョンマスターのみです」

「それじゃあ、ミアも読めなかったの?」

「はい、私も読めませんでした。

ただ、ダンジョン文字のことは知っていましたから、マスターを呼んだのです」

「なるほど……」


さっきのミアの言葉は、ダンジョン文字での手紙が来た。

でも、読めないからどうすればいいのか分からないから俺を呼んだ。

という意味で言ったのか。

手紙の内容で、俺に判断を仰いだわけじゃなかったのか……。



「それで颯太、その手紙には何が書かれてあったの?」

「ああ、一週間後に魔王がここに来るそうだ」

「へ?」

「ま、魔王、ですか?」

「ああ、魔王は復活後、帝国の皇都にダンジョンを出現させて帝国の人々に混乱をもたらした。

また、ダンジョンに侵入してきた者たちも退けてダンジョンの糧としているらしい。

帝国が滅んだあとも、魔王のダンジョンとして在り続けているそうだ。

そこで、俺たちのダンジョンと交易をしないか? と書いてあるんだ」

「交易ですか? 魔王が?」

「どうも最近は、魔王のダンジョンとして有名になりすぎたらしくてな、ダンジョン攻略者が激減しているそうだ。

で、攻略者が減ればDPが稼げなくなる。

そこで、他のダンジョンと交易をして何とかしようということらしい」

「ねぇ颯太、もしかして、他にもダンジョンが存在するの?」

「今いる大陸には、魔王のダンジョンと俺たちのダンジョンのみだぞ。

発見されているダンジョンは。

だが、他の大陸にはダンジョンで成り立っている町や都市があるらしいからな」

「へぇ~」


教会が推し進めていた、ダンジョン討伐はこの大陸だけの出来事だ。

帝国の上層部と教会が組んでやらかしたことだったらしい。

今となっては、ダンジョンの有用性が叫ばれているらしい。


まあ、あの攻めてきた王国のように、いまだ教会の影響下にある国はこの大陸に少なくない。

悪しき教会のダンジョンに対する認識が変わらない限り、魔王のダンジョンは大丈夫だと思うがな……。


「それで、お会いになられるのですか?」

「魔王には興味があったし、同じダンジョンマスターだ。

何か、面白い会談ができるかもしれないし、会ってみるよ」

「分かりました。

ではそのように、段取りはお任せください」

「よろしくね、ミア」


どんな魔王なのか知らないが、話し合いをしたいなら応じるだけだ。

でも、交易って何を取引するつもりなんだろう……。




▽    ▽    ▽




Side 渡辺陸斗


さて、困った。

俺たちは今、始めの町へ戻る乗合馬車に乗っているわけだが、試練の答えが見つからない。

あの狐っ子たちにぴったりの甘味といっても、多種多様、日本にある数を考えれば頭が痛くなる。


これは、宝くじに当選するより難しいかもしれない。

そこで、颯太に聞くという手段に出るわけだが、どう聞き出すかが問題だ。


「なあ陸斗、どうする?」

「日本の甘味は、膨大な数あるぞ?

しかもその中から、あの子たちにぴったりの甘味なんて一体いくらかかるのか……」

「そうなんだよな~。

俺たちには、予算が少ないというネックがあるんだよな~」


すべての甘味を味見して、決めることはできない。

さらに、もし見つかったとしても高価すぎれば手を出すこともできない。

何とか、今ある予算で彼女たちにぴったりの甘味を見つけ出さないと……。


「そういえば悟、今いくら持ってる?」

「俺、一万円。恭太郎は?」

「俺は三千円。陸斗は?」

「千円……」

「「……」」


バイトを考えないといけないか……。


「とにかく、今は颯太だ。

あいつに聞けば、彼女たちの甘味も分かるはず……」

「颯太は、本当に知っているのか?」

「ああ、あいつはテイムプロジェクトに関わっていたらしいからな。

狐っ子の設定とか神社とかも、あいつが関わったらしいぞ」

「でも、聞いたら素直に教えてくれるか?」

「友達ということを前面に出して、お願いするしかないな」

「……最悪、三人で土下座だな」

「「……」」


颯太に土下座か……。


でも、どんな甘味がアニュスにぴったりかな~。

ケーキとかアイスクリームとかチョコレートもいいし、大福やどら焼きの和菓子もいいしな~。


「しかし、携帯が使えないのは不便だよな……」

「早く颯太に聞きたいのに、始めの町まで戻らないと携帯が使えないとはな」


確かに、携帯が使える範囲って限られているよな。

これって、何か意味があるのか?


馬車に揺られながら、これからのことを考える俺たち。

試練の答えを、何とか見つけ出したうえでそれぞれの予算内で甘味を購入する。

そして、試練を合格して狐っ子とテイム契約を結んでやる!







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