第180話 条件と会談準備



Side 五十嵐颯太


――――トゥルルル、トゥルルル。


コアルームにいる俺の携帯が鳴った。

一応コアルームも、携帯が使えるようにしているがほとんど、着信用になっている。

俺はポケットから携帯を取り出し、画面を見ると陸斗からだ。


「誰から?」

「陸斗からだ。もう狐っ子を、テイムできたのかな?」


画面をタップし、電話を繋げる。


「もしもし? どうしたの、陸斗」

『お、颯太か? 頼む、教えてくれ!』

「いや、教えても何も、何を知りたんだ?」

『ああ、そうか。

実はな、例の神社に行ってきたんだが彼女たちから試練を与えられたんだ。

彼女たちにぴったりな甘味を用意しろって』

「それで、どんな甘味にするか考えたの?」

『いや、どんな甘味がいいか分からなくてな。

それで、陸斗に直接聞こうということになってな……。

頼む、俺たちのために教えてくれないか?』

「いや、教えてくれないかと言われてもな……」

『友達だろ?

俺たちの幸せのために、たのむ!』


何とも都合のいい友達だが、まあ隠すようなことでもないし教えてもいいけどね。

ただ、狐っ子の出した試練の意味が分かってないような気がするな。


「陸斗、分かったよ。教えてあげるよ」

『おお、心の友よ~!

それで、答えは何なんだ?

どんな甘味が、彼女たちにぴったりのものは何なんだ?』

「答えは、何でもいいんだよ」

『何でもいい? 何を言っているんだよ颯太。

俺たちは、彼女たちにぴったりの甘味を探さないといけなんだぞ?

この世界に、どれだけの甘味があるか分かっているのか?

とにかく、答えが無理ならヒントだけでもくれ!』

「ヒント?」

『そうだ、洋菓子か和菓子かとかでいいから。

頼む、教えてくれ!!』


切羽詰まっているな、陸斗のやつ。

これは、ちゃんと説明する必要があるな……。


「あのな、陸斗。よく聞けよ?

まず、狐っ子たちにとって甘味とは、蜂蜜の甘味しか知らない。

だが、知識として地球の、それも日本にあふれる甘味のことは教えてあるんだ。

だから狐っ子たちは、自分たちに合う甘味を持ってこいと言っているんだよ」

『そうなのか? 知識だけなのか?』

「そう、知識だけだ。

だから俺は、何でもいいと答えたんだ。

陸斗たちが、狐っ子たちのことを考えて選ぶ甘味こそが、狐っ子たちが求める甘味なんだよ。

それと、テイム契約後はその選んだ甘味が、狐っ子たちの好物になるから気をつけろよ?

あんまり高級なものを選ぶと、破産するぞ?」

『は、破産?!

わ、分かった。よく考えて選ぶことにする』

「ああ、それと……」

『な、何だ?』

「あげる甘味の歴史なんかを、うんちくみたいな感じで喋ると好感度が上がることもあるから」

『了解! ありがとう、心の友よ!!』


そう言って、通話は切れた。

それにしても、甘味を要求するとはね……。

おそらく、ソフィアの影響を受けたんだろうな。

聖獣の九尾に対する交渉は、ソフィアに任せていたし。


その時に、日本の甘味事情を話して条件としたんだろう。

狐っ子は、食いしん坊が多いと聞くし……。


「何か、条件がどうとか聞こえたんだけど?」

「ああ、聖獣である九尾の狐とテイム契約を結ぶときに、条件を出されたらしい。

それが、甘味を用意しろって」

「甘味? お菓子でも用意してほしいってことかしら?」

「何でも、狐っ子たちにぴったりな甘味が欲しいって条件らしい」

「へぇ~」

「まあ、それで答えを俺に聞いてきたわけだけど……」

「それで、何でもいいって言っていたのね」

「狐っ子たちは、まだ日本の甘味を知識でしか知らないんだよ。

だから、何でも狐っ子たちは喜んでくれるし、契約も結んでくれるはずなんだけどね……」


さて、陸斗たちはどんな甘味を用意するのかね~。




▽    ▽    ▽




Side アミー


「アミー様、もう一つのダンジョンからの返事が届きました。

会談に応じるとのことです」

「そうですか、では準備に取りかかってください」

「ハハッ!」


魔界へ降臨すると、一瞬のうちに魔界を統一されてしまわれた今代の魔王ディスティミーア様。

魔界の三十二の君主の頂点に君臨し、魔界の絶対者。

そんな魔王様が、興味を持ったのが同じダンジョンマスターの人族だった。


こちらで調べた報告書に載るダンジョンマスターに興味を示し、会ってみたいと仰っている。

私たちは、魔王様がそう仰るのならそれを叶えるのが仕事。

魔王様からの親書を届け、返事を待った。


だが、私から言わせてもらえれば、魔王様からの親書が届いた時点で歓喜し、ダンジョンをあげて歓待の準備をするべきだろう。

そして、いざ魔王様をお迎えしたら、その場にひれ伏し涙を流してどんな要求も叶えるように努力をして、差し出すようでなければならないと考える。


さらに、向こうから会いに来るのが本来の姿のはずが、魔王様自ら会いに行かれるなんて……。

羨ましい……。


とにかく、今は、返事が来たことを魔王様にご報告しなければ……。



通信の間に移動して、魔法陣の上にある水晶に手をかざす。

すると、私の魔力を吸って魔法陣が起動し水晶が輝き始めた。


「魔王様、アミーでございます」

『アミーか。どうじゃ? 向こうのダンジョンから返事は来たか?』

「はい、先ほど返事が届けられました。

向こうのダンジョンマスターは、魔王様との会談に応じるとのことです」

『おお、そうか!

異世界人のダンジョンマスター、楽しみじゃのう』

「あの、それで魔王様はどのようなことを話し合われるのですか?」

『ん? アミーは知りたいのか?』

「はい、魔王様のことは何でも知りたいと思います」

『フム、ならばよかろう。

話し合う内容は、ダンジョン利用についてだ』

「ダンジョン利用? それは一体……」

『フフフ、そこから先は内緒だ。

話し合い次第では、意味のないものになるからのう……』


クッ、魔王様のお声が素晴らしい!

この空間に映し出される魔王様のお姿が素晴らしい!!

仕草、口調、すべてにおいて頂点のお方なのだ!


そんな魔王様の興味を一身に受けている相手のダンジョンマスター、羨ましいぞ!!







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