第178話 試練



Side 新庄議員


私に一礼して、大国が警察官、いや背広姿だから刑事かもしれんが、そいつらと一緒にこの部屋から出ていった。

クッ、これではあの女との楽しみがなくなるではないか!


すぐに、第二秘書を呼ぼうとすると小娘に声を掛けられる。


「新庄さん、いい加減ご自分の立場を理解した方がいいですよ?」

「山波総理、私に対してその態度は何かね?

私の後ろ盾がなければ、総理にもなれなかったはずだが?」

「ええ、その辺は感謝しています。

でも、史上初の女性総理を誕生させて支持率をあげたかっただけでしょう?

女の敵である新庄さんには、次の当選はありませんよ」

「な、何だと!!」

「や、山波君、少し落ち着きたまえ。

それに、新庄先生に対して、少し言いすぎだよ?」

「あら、いいじゃありませんか。

それに、我が与党の三分の一は女性議員ですよ?

女の敵の新庄さんが、生き残れるかどうかなんて分かりきっているでしょう」

「く……」

「あなたの裏の顔、女性議員は全員知っているんですからね」

「……」


クソッ、こんな女を総理になぞ据えるんじゃなかった!

これでは、私の方が追い込まれているではないか!


……こうなれば、外に味方を作るしかないな。

見ていろ小娘、きさまの粗を探し出して追及させてやる。

そして、ククク……。




▽    ▽    ▽




Side 渡辺陸斗


「ここだ、この神社で間違いない」

「や、やっと着いた……」

「ここまで、かなりの距離だったな……」


俺たちの前には、赤い鳥居が立っている。

その向こうにある石階段を上がれば、狐を祀った神社の本殿があるはずだ。

大きな神社は造れなかったし、テイム目的を考えればこうなるって颯太が残念そうに言ってたな……。


「とにかく、行くぞ」

「「おう」」


鳥居をくぐり、階段を一段一段上がって行くと、あるモノが目に入り、俺は二人に隠れるように言った。


「待て、隠れろ」

「な、何だよ陸斗」

「隠れろって、何かあるのか?」

「いいか? そ~っと覗くんだ。そ~っとだぞ?」

「何が見え……」

「え……」

「見えたか? 見えただろ?」

「ああ、見えた……」

「ああ、尊い……」


俺たちが見たもの。それは、本殿の縁側で狐耳にふさふさの尻尾を揺らして遊ぶ、女の子たちだった。

しかも服装は巫女服という、抑えるところを抑えていた、まさに俺たちの理想の狐っ子がそこにいるのだ。


もはやテイムとかどうでもよくなり、しばらくその光景を眺めていた。


「ハッ! いかんいかん」

「なんだよ陸斗、いきなり……」

「そうだよ、あの娘たちが逃げてしまうだろ?」

「何言ってんだよ、俺たちの目的を忘れたのか?」

「目的? 何だっけ?」

「確か、アニュス様に貢物を渡すことだったような……」

「しっかりしろ、二人とも!

アニュス様って誰だよ!」


俺は、悟と恭太郎の頬をビンタして、正気に戻した。

どうやら、これは何かの術にかかっていたのかもしれない……。


「痛っ! ハッ!!」

「いてッ! ああっ!」

「……戻ったか?」

「ああ、サンキュー、陸斗」

「俺、どうしてたんだ?」

「どうやら、あいつらに術みたいなものを掛けられていたらしい」

「術? もしかして妖術か?」

「たぶんな。そして、あいつらの手足となって貢がされるみたいだったな……」

「おっかねー」

「だが、これで遠慮はいらないな……」

「ああ、俺たちを怒らせたことを分からせてやる」


俺たちは、気合を入れて階段を上り、本殿にいる狐っ子たちに近づいた。

狐っ子たちは、ニヤニヤと笑い俺たちを見ている。

どうやら、逃げるに値しないと思われているようだ……。


「ほう、わらわの術にかかって正気に戻れるとは、なかなかやるのう」

「アニュスの術が、未熟だったからじゃないの?」

「何を言うイニス、わらわの術は完璧じゃ」

「無い胸を張らないでほしいなぁ~」

「レニュスの胸も、無いではないか!」

「はんっ! 僕は少しだけどあるもんね!」

「少しなら、無いも同じじゃ!」

「ムゥ~」

「ハァ~、尊い……」


三匹の狐っ子は、最初は俺たちに対して会話をしていたが、いつの間にか三人で言い争いになっていた。

さらに、アニュスという狐っ子が俺の横で、イニスという狐っ子が悟の後ろから、そしてレニュスという狐っ子が恭太郎の後ろに移動して争っている。


もしかしてこれは、争いを止めろということなのか?


「ま、まあまあ、三人とも落ち着いて」

「ん? 何じゃお主ら、まだ居ったのか」

「それはいるよ。

俺たちは、君たちをテイムしに来たんだから」

「ほほう、わらわたちをテイムとな?」

「お兄さんも?」

「ああ、そのつもりだ」

「お兄ちゃんも?」

「そ、その通りです!」


俺たちは、利き腕の手首に嵌めたテイムの腕輪を見せる。

テイムの腕輪は、テイムした魔物などを召喚したり、送還したり、テイム契約を結んだりするものだ。

さらに、テイム契約違反があった場合、強制的にテイム解除もされる機能もある。


「………フム、良かろう。

お主たちに、試練を与えよう。

それに合格すれば、わらわたちとの契約を認めてやっても良いぞ?」

「「「おお!」」」

「では、お主たちへの試練じゃが……」

「「「ゴクリ」」」

「わらわたちに、甘味をもたらせ」

「「「へ?」」」

「聞こえなんだか? 甘味じゃ、甘味をわらわたちによこせと言うとるのじゃ」

「あ、甘味、ですか?」

「そうじゃ。

聞いておるぞ? お主たちの世界には、たくさんの甘味があるそうじゃな?

その中で、わらわたちにぴったりの甘味をもたらすこと。

これが、お主たちへの試練じゃ!」


狐っ子三人に合う、甘味を持ってこなければいけなくなった。

それが試練として、テイム契約の条件になるとは……。

だが、こんなところで挫折してたまるか!


「悟、恭太郎、探すぞ!

彼女たちにぴったりの甘味を!!」

「「おお!!」」


俺たちは一旦引き返し、狐っ子たちへの甘味を捜索することになった。

アニュス、イニス、レニュスのそれぞれの味覚に合う甘味とは何か……。


……ここは、卑怯と言われようが友達の力を借りよう。

このダンジョンの主の颯太の力を!!







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