第175話 九州ダンジョンパーク開園
Side 五十嵐颯太
七月二十五日、俺が体験する二度目の開園式典が始まった。
場所は、九州ダンジョンの中の始めの町の前。
登録所と通行ゲートがある場所の、さらに前で行われる。
最初はやはり、ダンジョン企画の社長である父さんの話から始まり、内閣総理大臣山波芹那さんの話が始まる。
このダンジョンパークに、日本の現政権がどれだけ期待しているかがうかがえる。
また、この式典の後には、このダンジョンで作られた農作物や肉などの出荷が始まる。
これで、西日本の食糧事情が改善され、東を最初のダンジョンパークが、西を九州ダンジョンパークが支えることになる。
ダンジョンの農作物は、天候などに左右されることもなく安定的に出荷できるため期待されているのらしい。
そんなことを、話していたが俺には少し退屈で半分聞き流していた。
「ちょっと、颯太。
ちゃんと話を聞きなさいよ」
「ん~? 大丈夫、大体聞いているから~」
「もう」
隣にいる凛に小突かれながらも、長い話を聞いていた……。
その後、いろいろな人が話をしたが、俺はほとんどを聞き流していた。
「では続いて、ダンジョン巫女のソフィア様から説明がございます。
皆様お待ちかねのテイムについてですので、お聞き逃しのないように」
「初めまして、ダンジョン巫女のソフィアと申します。
この度、新たにご用意いたしましたテイム能力ですが……」
と、ソフィアからテイムについての説明を、真剣に聞いている人々。
その人たちに交じって、ソフィアを嫌らしい目で見る政治家がいた。
前回は、イキッた連中だったが、今回は政治家かよ!
何やら秘書らしき男に、内緒話をしはじめた。
「あのソフィアという女を、どうにかものにできないか?」
「先生、ここはご自重ください。
総理もいるのです。目を付けられますと……」
「構わん、あんな小娘。
それより、あの女をじっくり味わいたいのだ。
何とかならんか?」
「……先生の政党が後ろ盾になっていることを利用しましょう。
それで、飲みの席に誘えるはずです。
その後は、先生の魅力次第かと……」
「うむ、数々の女をものにしてきたのだ。任せておけ……」
という会話をしていた。
ここはダンジョンの中だ。
ダンジョンマスターの俺が、内緒話一つ聞けないわけないのだ。
それにしても、この政治家はダメだな。
山波さんに会ったことのある俺としては、ピンキリという言葉が頭に浮かぶ。
政治家の前に男ということか……。
「どうしたの?
さっきから、怖い顔しているわよ?」
「そう? 大丈夫、大丈夫。
ちょっとバカを見つけたんでね、制裁を加えようと思ってね」
「……もしかして、最初のダンジョンパークでもあったあんなことが起きるの?」
「そういえば、凛は当事者の一人だったな。
大丈夫だよ、あんなことは二度と起こさせないから」
そう言いながら、俺は凛を抱き寄せた。
その行為で、凛は安心したのかお礼を言ってくれた。
「……ありがとう」
「それでは、テープカットをして開園といたしましょう。
関係者の方々、壇上へとお上がりください。
そして、テープの前へお並びください」
父さんやソフィアに総理の山波さんを始め、関係者が壇上に上がりテープカットの位置に着いた。
例のスケベ政治家は、ソフィアの隣を狙っていたが父さんに邪魔されて不機嫌そうな顔を一瞬見せたが、すぐに笑顔になる。
さすが、ベテラン政治家といわれるだけはあるな。
「それでは、テープカット、お願いします!」
そう司会の女性に言われ、渡されたハサミでテープをカットし無事開園の式典が終わった。
その後は、登録所に人々が列なして並び、また、最初のダンジョンパークで登録済みの人たちは、通行ゲートに並び、センサーに認識させて次々と通っていく。
「颯太、式典終わったけどどうする?」
「そうだな……、って陸斗は?」
「陸斗なら、友達連れて通行ゲートに行ったわよ。
ほら、あそこに並んでいるわ」
凛の教えてくれた先に、陸斗や悟たちが並んでいた。
初志貫徹、すごいなあいつら……。
「まあ、俺はソフィアと合流して中に入るよ。
凛も一緒に行くか?」
「そうね、何かしたいわけでもないからついて行くわ」
「それじゃあ、ソフィアの所に行くか」
凛と一緒に、ソフィアの居る場所まで行くと人だかりができていた。
どうやら、ソフィアに声をかけている連中が集まったらしい。
ソフィアの側の警備員が、離れるように制止しているが声を掛けようと夢中になっているみたいで、沿い合い圧し合いになっている。
「お~い、ソフィア~」
「あ、颯太さん」
俺が人だかりの外から声を掛けると、ソフィアが返事をして手を振る。
俺も、手を振り返すとソフィアに声をかけていた連中が俺を睨みつける。
「お、おい、誰だよあいつ」
「何で、あいつ名前を呼んでもらえたんだ?」
「あんな奴より、俺の方がカッコいいはずだ……」
などなど、いろんな声が聞こえてくる。
中には、罵詈雑言も聞こえてくるがそんなのは無視だ。
「これから中に入るんだけど、一緒に行かないか?」
「あ、行きます。
今、そちらに行きますね」
そう言うと、周りにいた人を警備員と一緒にかき分け俺の元に来てくれた。
そして、俺の腕に抱き着き笑顔になった。
「ありがとうございます、マスター。
それと、凛さんもありがとう、助けてくれて」
「いえ、どういたしまして」
二人が小声で話した後、俺たちは通行ゲートへ向けて歩いていく。
それを悔しそうに見ている人たち。
中には、ついてくる者たちもいたが、警備員に止められていた。
「颯太、お疲れさん」
「父さんこそ、お疲れ様。
式典のあいさつは短い方がいいよ?」
「あれでも、かなり短くしたんだよ」
そんな会話をしていると、そこに例の政治家の秘書が声をかけてきた。
「失礼します。
私、新庄代議士の秘書をしております、大国と申します。
実は、そちらのお綺麗なソフィア様に先生から少しお話がしたいと言われまして……」
「私に、ですか?」
「ええ、それでお時間を作っていただけないかと……」
「申し訳ございませんが、これから颯太さんと過ごす予定です。
その新庄代議士という方をお会いすることはできません」
「……よろしいのですか?
新城先生は、こちらのダンジョンパークに便宜を図っている政党の重鎮ですよ?
その先生の期限を損なうようなことにでもなれば……」
「構わん」
「は? 失礼ですが、あなたは?」
「ダンジョン企画の社長だ。
新藤なんて政治家など初めて聞いた。
重鎮といっても、その辺の木っ端政治家と似たり寄ったりだろう」
「……新藤ではなく新庄です。
ダンジョン企画の社長であれば、先生のことは無視できないはずですが……」
「芹那から聞いてるぞ?
新庄なる政治家は、女癖が悪くて有権者からも見放されつつあるとな。
彼女を誘う前に、女癖をどうにかしろと伝えておけ!」
「……失礼します」
ムッとした表情の男は、何も言わず離れていった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます