第174話 雑談



Side 五十嵐颯太


とりあえず、姿鏡なんて俺も持ってなかったのでDPで交換する。

DP1の消費だが、普通の量販店で売っている姿鏡が現れた。


「これで確認できるだろ?」

「おお! サンキュー、颯太」


そう言って、姿鏡に自分の今の姿を映す陸斗。

そして、プルプルと震え出した……。


「ど、どうしたの?」

「陸斗? 震えているけど、どうした?」

「こ、これが俺か?」

「そ、そうだ。それが、変身ステッキで変身した姿だぞ」

「か、かわいい!」


どうやら、喜んでいるようで一安心だ。

そして、おもむろにズボンを引っ張り下半身を確認した。


「おお! ない! 俺のジュニアが、無くなってる!」

「……陸斗、変身したんだから無いのは当たり前だ」

「どうなっているんだ? 姿を変える魔法の類じゃないのか?」

「変身魔法は、オリジナルの魔法だ。

しかも、その変身ステッキでしか使えない仕様になっている。

で、その変身ステッキは、ここにあるオリジナルのみ」

「すげぇな! でもこれ、売り出したらかなり需要があるんじゃないか?」

「何に使うんだよ。

男が女に、女が男に変身できるだけだぞ?」

「いや、それでも需要はあるだろ。

とくに精神医療方面なんかは、必要としている人は多いんじゃないか?」


……確かに、そういう需要はあるだろうが、世の中に出回ると必ず悪いことに使うやつがいるからな。

魔法で変身までできるとなったら、ますます他人が信用できなくなると思うけど……。


「でもな、その変身ステッキには変身時間があるんだよ」

「え、変身したままじゃないのか?」

「それだと、不便だろ!」

「それで颯太、変身時間はどれくらいなの?」

「一回の変身で、約三十分」

「て、ことはそろそろ……ああ!」


陸斗の女の子の姿が光り出し、光に包まれると形を変えて元に戻った。

もちろん、服もちゃんと着てなかった。

ズボンがズリ落ち、トランクスが見えた。


「!?」

「陸斗、ズボン履けよ……」

「ふ、不可抗力だ!」


凛が両手で顔を覆ってみないようにして、俺が呆れ顔で注意する。

陸斗は、恥ずかしがりながらズボンをあげていた。


「……と、ところで、動画の中じゃあ、声も変えていただろ?

あれって、どうやったんだ?」

「声は、魔法で変えていたんだ。

七色声変わり魔法というやつでな、魔法屋でも売っているぞ」

「売っているのか~。

でも、俺たちは使えないんだよな……」

「ああ、残念ながら」

「なあ、その声が変わる魔法を、このステッキのような魔道具で使えるようにできないか?」

「ん~、それは作れないかな……」

「何でだ?」

「犯罪に使われるから、な?

それに、今、声に対しての著作権とか話題になっているだろ?

だから、一般に広めることはしないよ」

「ん~、儘ならないな」


AIが世間を騒がせている今、魔法で更に騒がせる必要はないだろう。

ただでさえ、ダンジョンパークは話題になっているんだ。

これ以上、魔法をおかしなことに使われたくないからな……。


それに、今回はダンジョンマスターの正体を隠すために使ったんだ。

世間にそんなものが出回れば、まわりまわって危なくなる気がするからな……。


「な、なあ颯太、せめてこの変身ステッキの変身時間を延ばせないか?」

「延ばせるけど、何に使う気だ?」

「それはもちろん、みんなを驚かせたい!」

「……やめた方がいいぞ?

さっき変身して分かったと思うけど、服は変身しない。

だから、もし女の子の姿で女の子に似合う服を着ている時に変身が解けたら……」

「……なし! 時間延長なし!」

「ああ、それがいい」


人を驚かすのはいいけど、自分がとんでもない被害を受けるようなことはやめた方がいい。

下手をすれば、社会的地位まで失うことになりかねないからな……。



「ところで颯太、そろそろ九州ダンジョンパークの開園日でしょ?」

「ああ、明後日だな。

父さんたちが、開園式典の準備で忙しそうだったよ」

「そういえば、総理大臣がゲストで来るとか?」

「その予定らしいな。

父さんと同級生とかで、一度視察してみたいとかで参加するようだぞ。

式典後は、ダンジョンパーク内を案内するんだよ」

「颯太がか?」

「いや、父さんが」

「まあ、エレノアが案内役でつくから大丈夫とは思うけどな、一応警戒はするつもりだ」

「SPもいるんだし、大丈夫じゃないの?」

「と思うんだけど、世の中何が起こるか分からないからな」

「念には念を入れて、てことね」

「心配症だな、颯太は」

「陸斗が、楽観的なだけだろ?」

「そうかもね」


三人で笑い合う、平和な時間。

前のダンジョンパーク開園時には、おかしな連中がいたからな。

今回もいないということは、考えない方がいいだろう。


だけど、そこはダンジョンの中だ。

ダンジョンマスターの俺や、ミアたちから分からないように行動することはできない。

悪事を働こうとすれば、必ず制裁を加える!



「そうだ、確かめておきたいんだが颯太」

「ん? 何を?」

「最初のダンジョンと、九州ダンジョンは繋がっているんだよな?」

「今は繋がっていないけど、開園と同時に繋げる予定だよ。

中央の町から転移街道を通って、九州ダンジョンの始めの町に繋がる」

「中央の町から、どっちへ行けばいいんだ?」

「西だよ。西へ向かっていけば、始めの町にたどり着く」


まあ、時間はかかるけどね。

最初のダンジョンの最初の町から中央の町へ、乗合馬車を使って二、三日かかる。

中央の町から九州ダンジョンの始めの町までは、乗合馬車で三日ほどだ。


ダンジョン内の移動って、結構かかるようになっている。

それは、ダンジョンの広さが関係しているからだ。

それに、車などが使えないという移動手段が限られているというのも原因だろう。


まあ、今は魔導バイクや魔導ゴーレム馬車とかあるからね。

そんなに、不便なことはないと思うけど……。







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