第173話 変身した友達
Side 五十嵐颯太
陸斗が、変身ステッキを使ってみたいというわけで、俺たちは最初の町の中にある冒険者ギルドへやってきた。
「なあ颯太、ここって冒険者ギルドだろ?
しかも、観光客だの冒険者だのがいっぱいいるが、大丈夫か?」
「ここでは、会議室が借りられるんだよ。
そこは完全な個室だからな。
変身したいなら、そういうところじゃないとまずいだろ」
「なるほど、そこまで気を使うものなのか……」
ここは、どこにSNSの目があるか分からないからな。
話題性のあるものは、すぐに載せられて拡散されて大変なことになるし……。
冒険者ギルドに入ると、結構な人がいた。
しかも、ほとんどが観光客だ。
そのため、この最初の町の冒険者ギルドを利用する冒険者は少ない。
また、観光客と冒険者の揉め事も多くギルドとしては、対処が大変らしい。
そう言う報告をミアがしていたな……。
「……結構人がいるんだな」
「ほとんどが、観光客だよ」
「確かに、服装で分かるわね。
後、携帯で写真を撮っている人が多いわ……」
「とりあえず、受付に行こう。
会議室を借りるには、受付で許可をもらわないとな」
「ええ」
「そうだな」
依頼書の貼られた掲示板を横目で見ながら、受付へ向かう。
だが、受付にはたくさんの人が並んでいた。
「結構混んでいるな……」
「でも並んでいる人は、ほとんどが観光客みたい……」
「受付嬢目当てかな?
ギルドの受付嬢は、美人が多いから人気があるらしいよ」
「ほう、美人なのか」
「……とりあえず、並ぶか」
そして、並ぶこと三十分ほどで俺たちの番になった。
「冒険者ギルドへようこそ。
ご依頼ですか? ご利用ですか? 写真撮影は手早くお願いします」
「えっと、会議室を使いたいのですが……」
「ご利用ですね?
では、こちらにお名前をご記入してください。
会議室は、一時間銀貨二枚となります。
また、十分延長ごとに銅貨十枚かかりますので、ご注意ください」
「分かりました。
……これでいいですか?」
「はい。え~と、はい、大丈夫です。
では、こちらが鍵となります。
七番の会議室をご利用ください。ありがとうございました」
「どうも~」
「受付嬢さんも大変みたいですけど、頑張ってください」
「ありがとうございます」
凛は一礼して、俺たちは受付を離れた。
ギルドの会議室は、掲示板の横にある階段を上がった二階にある。
また、会議室は七室あり、その七番目を利用する。
「会議室の七番ってことは、利用している人もいるってことなのか?」
「たぶん、冒険者とかじゃないか?
一階があんな感じだったから……」
「確かに、あの中で仲間と話し合いなんてできないよな~」
「それで、何度か揉めたらしいから、こういう処置がとられたんだろう。
まあそれでも、揉め事はあるらしいぞ」
「でも、どんな揉め事があるのかな?」
「そうだな~、まずは口出しが考えられるな」
「口出し?」
話しながら行動していたため、二階へ上がり七番会議室へ到着する。
そして、鍵を開けて中へ入る時も入ってからも話を続けていた。
「ああ。例えば、仲間との行動の話し合いに後ろから口出しするとか。
冒険者に良かれと思ってアドバイスするとか、女性冒険者をナンパするとか?」
「……それは、揉めるわね」
「特に今の人たちは、小説や漫画やアニメの影響で冒険者が仲間を追放するところとかを見たい人もいるからな……」
「それで、見学者が多いの?
でも、確か最初の町は観光用の町のはずでしょ?
そういう場面が多いのは、その先にある中央の町のギルドとかじゃないのかな?」
「俺もそう思うけど、中央の町に行くだけで数日かかるからね。
行きたがる人は、中々いないらしいよ」
「なるどどねぇ~」
ちょうど会話も切れたので、俺はアイテムボックスから変身ステッキを取り出した。
長さは五十センチほどで、先端に星形の魔石が取り付けてある。
傍から見れば、どこの魔法少女の変身ステッキだと突っ込まれること請け合いだ。
「こ、これが変身ステッキか……」
「そのステッキを持って、握ったところにあるスイッチを押す。
後は、胸元にステッキを付ければ変身できる。
変身呪文なんてないし、男が女に、女が男に変身するだけだけど結構使い道がある」
「これって、本人がそのまま女になるってことなの?」
「違うよ、凛。
それじゃあ変身って言わないよ。
女装したのと同じじゃ、変身ステッキの意味がないだろ?
ちゃんと、姿形が変わるんだ。理想の姿、とはいかないけどそれに近い姿にね」
「よし、とにかく変身してみるぜ!」
陸斗は、変身ステッキを持つと、会議室の広い場所に移動する。
そして、どこのどんなものを見たのか、呪文を唱えながら踊ってポーズを決めている。
「てぃんくりん、てぃんくりん、しゅるりらら~~。
魔法ステッキで、女の子になあれ~~」
「ブフッ」
「クッ」
俺と凛は噴き出したが、変身ステッキはしっかりと起動し陸斗の姿は光とともに形を変えていった。
そして、光が収まった時、そこにはかわいらしい女の子が現れた。
見た目は、十歳前後の女の子。
服装は、今まで陸斗が着ていたもので、少し大きいようでだぼだぼだ。
髪型は短くカットされた感じで、金髪だ。
また、顔は少しハーフのような感じになっていた。
「……す、すごい、本当に女の子になってる……」
「……何で、若返ったんだ?」
「ど、どうだ? 俺の変身した姿は……」
「……喋ると、陸斗だと分かってしまうんだよな~」
「そこが、残念なところね……」
「颯太、鏡はないのか?!
俺も、自分の姿を確認したい!!」
ああ~、陸斗騒ぐな。
騒ぐたびに、今着ている服がずるずると下がっているぞ!
ああっ!!
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