第172話 変身ステッキ



Side 五十嵐颯太


「颯太、これはどういうことだ?」


宮崎にダンジョンパークのトンネル型出入口を設置し終わってから三日後、俺は家族会議で議題になっていた。

深夜遅くに、宮崎に転移して設置したところを撮られていた動画が、ネットのサイトに出回り、その後テレビのニュースに使われたことで、一気に世界中に広まったとか。


そのことで、ダンジョン企画への取材が殺到しているとか。


「どうって、そのままだけど」

「ダンジョン設置は、お前じゃなければできないんじゃなかったのか?

何故、この女の子がダンジョンを設置しているんだ?

説明してくれ」

「説明もなにも、その動画の通りだよ。

俺が姿を変えて、ダンジョンを魔法で設置しているように見せた。

それだけだよ」

「……はあ?!」

「お兄ちゃん、変身できるの?!」

「できるぞ」

「まぁ!」

「すごい! ねぇねぇ、どうやるの?! どうやるの?!」

「実はな、変身ステッキという魔道具があるんだ。

その魔道具を使えば、誰でも変身することができる。

しかも、魔力を持たないものでも変身できるのだから、かなりの優れ物だ!」

「「おお~」」

「……」


妹の麗奈と母さんは、感心しているようだが、父さんは呆れているようだ。

だが、前に父さんから俺が狙われるということを聞いて考えていた、これは対抗策の一つなのだ。

そして、今回の設置場所に不審者がいるのは分かっていたから、それならばと女の子に変身してダンジョン設置を大げさにやったのだ。


本来、大げさに身振り手振りを交えてあんな呪文を言ったり、ローブだのを着て雰囲気を出したりする必要はない。

壁に触って、設置すると念じればできるのだ。


最初のダンジョンの設置も、こんな感じでしたものだ。


「と、とにかく、これに映っている女の子は颯太の変身した姿なんだな?」

「ああ、父さんが狙われるって忠告してくれただろ?

だから、対抗策の一つだよ。

これで、ダンジョン設置は、この女の子がしていると勘違いしてくれるだろ?」

「……確かに、勘違いするかもな」

「それに、あんなに大げさに呪文を言うのも本来は必要ない」

「そうなのか?」

「ああ、本来は、壁に触って念じれば設置できるんだよ。

あんな大げさな呪文なんか必要ないよ?」

「ええ~、そうなんだ……。カッコよかったのに……」

「ごめんな麗奈。

こうでもしないと、狙っている人たちをだませないと思ってな」

「ううん、お兄ちゃんが狙われないようになるなら仕方ないね」


これを見て、俺を狙っている人たちがどう出るか……。


「それにしても、こんな動画が出ると、取材の内容はある程度予想ができるな」

「そうですねぇ。

取材陣の聞きたいことは、私たちダンジョン企画とこの少女との関係でしょうか?」

「関係もなにも、ダンジョン企画はダンジョンパークの運営を任されているだけだろ」

「おそらくですが、ダンジョン企画の中に、この少女が所属していると勘違いしているのだと思います」

「なるほど、そこを説明すればいいわけか」

「取材陣が納得するかどうかは別として、勘違いを正して答えれば大丈夫でしょう」

「ならば、その辺りの対策をもう少し考えないとな……」


父さんと母さんは、ダンジョン企画で会見を開く予定のようだ。

今回の動画で、いろいろと迷惑かけるが狙われないための対策の一つとして考えてほしい。




▽    ▽    ▽




Side ???


「この動画、間違いないのか?」

「はい、間違いないようです。

作られたものではないことは、すでに証明されていますので」

「ならば、この映っている女を探しだせ」

「はい、分かりました」


この女を探し出し、我が国のためにダンジョンパークを造ってもらおう。

強力的ならば、あらゆるものを与えてもいい。

地位、名誉、金、男。

人は欲深いものだ、特に女ならばな……。


いや、男も同じか。フフフ……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


陸斗と凛に、ダンジョン内にある最初の町の喫茶店に呼び出されていた。

陸斗は、宣言通りテイムするための予行練習のために来ていて、凛はここなら話しやすいと思ってきたようだ。


二人とも、すでに入り口登録は終わっているから入り口ゲートは、簡単に通れる。

それに、この町の喫茶店は外の喫茶店より安いのだ。


「でだ、この動画はどういうことなんだ?」

「そうそう、私も不思議に思ったんだけど……」


今朝の家族会議で話したことを、陸斗たちにも話すと納得していた。


「そうか、狙われにくくするためとは考えたな颯太」

「確かに、変身すれば誰か分からなくなるわね……」

「それで、その変身ステッキなる魔道具は、今あるのか?」

「あるよ」

「貸してくれ颯太!」


滅茶苦茶食い気味に、陸斗が迫ってくる。


「何に使う気だ?」

「もちろん、魔法少女に変身してみたい!」

「魔法少女って……」

「陸斗、魔法の使えない魔法少女って、どうなんだ?」

「ああ! 確かに……」


それに、こんなところで変身ステッキを使って変身なんかしたら、例の動画が変身した姿かもしれないとバレてしまうだろ。

ここは、携帯を持ち込んでいる人が多いんだからな!


それに、ここに来た人って必ずといっていいほど、帰って動画や写真をネットにあげているんだよな。

まあ今は、その人数も増えて飽和状態らしいが、他と違う動画や写真をあげていたら目立つだろう。


「でも、陸斗がどんな少女に変身するかは見てみたいな」

「あ、それ私も興味ある」

「よし、じゃあ場所を変えて見せてやるよ」


ということで、俺たちは場所を変えることにした……。







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