第171話 見られた!
Side 五十嵐颯太
朝、家のリビングに着替えてから行くと父さんが、テーブルに突っ伏して沈んでいた。
そして、何やら負のオーラみたいなものを出していたので、キッチンにいた母さんに理由を聞いてみる。
「おはよう、母さん」
「おはよう、颯太」
「ね、父さんどうしたの?
何だか、すごい不機嫌そうなんだけど?」
「ダンジョンパークに関する動画が拡散されてね、ダンジョン企画に問い合わせが殺到しているのよ」
「ダンジョンパークの動画?
あのエルフや獣人がいるとか、一緒に遊んだとか、魔法の映像とか、パーク内の風景なんかを映したやつ?
開園当時から、かなり出回っていたみたいだけど……」
「それじゃないわ。
難病が治ったとか、交通事故で無くした腕が生えたとかいう治療動画よ。
そのおかげで、世界中から問い合わせが来ていてね……」
「それはそれは……」
それで、父さんがあんなに負のオーラを出しているのか。
まあ、電話対応やネット対応は社員がしているけど、偉い人の対応は社長である父さんが自ら対応しなければならないから大変なんだろうな。
「颯太、他人事みたいに言ってるけど、ダンジョン誘致の問い合わせも殺到しているのよ?
父さんは、その対応も合わせてしているんだから気遣ってあげてね?」
「は~い、分かっているよ」
日本に来て、ダンジョンパークで治療をと考えるより自分たちの所にダンジョンパークを誘致した方が早いってことか。
それに、ダンジョンパークが誘致できれば食糧問題などの解決できることが多くある、と。
国民のことを考えての問い合わせか、それとも……。
まあなんにせよ、新たにダンジョンコアを入手しない限り次はないんだよな。
……考えておくか。
「おはよ~って、父さん、どうしたの?!」
「麗奈、こっち」
「あ、母さん、おはよ~」
「おはよう、麗奈。
父さん、ちょっと疲れているから気遣ってあげてね?」
「は~い。
あ、お兄ちゃん、おはよう~」
「おはよう、麗奈」
俺たちは、父さんを気遣いながら朝食を済ませて学校へ行った。
今日は、終業式。
明日から、夏休みだ。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
学校に到着して、教室に行くと凛が最初に挨拶してくれる。
「おはよう、颯太」
「おはよう、凛」
「ねぇ、明日から夏休みだけど、どこか出かけるの?」
「ああ、ダンジョンの設置に宮崎に行くよ。
それと、九州ダンジョンの開園式に参加しないといけないし、今度のテイム関連で今年の夏休みはダンジョンに付きっきりになりそうだよ……」
「そう、大変ね颯太」
「凛も、開園式に参加するだろ?」
「私も参加していいの?」
「というか、陸斗も凛もダンジョンパークの発案者なんだから参加してもらわないと」
「……そっか、そうだよね」
「? どうしたの?」
「ううん、何でもない」
「そう? ところで、陸斗は遅刻か?」
「さあ、まだ見てないけど……」
陸斗が遅刻とは珍しい。
凛と話した後、他の友達と挨拶を交わした後、ようやく陸斗が教室に入ってきた。
「ハァ~、セーフセーフ」
「陸斗、遅刻だぞ?」
「いや、最近なかなか眠れなくてな~」
「何かあったのか?」
「いや、もうすぐ第二ダンジョンパークが開園だろ?
開園したら、真っ先に行って狐っ子と契約しようと思ってな?」
「あ、陸斗もか!」
「なんだよ、お前たちも狙っていたのか。
みんな、考えることは一緒だな!」
「「「ハハハ」」」
陸斗、悟、恭太郎の三人が、煩悩そのままの会話をしている。
狐っ子って、九尾の狐のことか。
あれは、警戒心がとんでもないから契約できるかどうか分からないぞ?
まあ、それをここで言っても信じないだろうから、開園した後、体験してくれ。
でも、陸斗たちなら妥協案を示しそうだよな……。
それと、周りのクラスの女子の視線に気づけ三人とも。
めちゃめちゃ白い目で見られているぞ……。
▽ ▽ ▽
Side ???
宮崎にあるダンジョン設置予定地。
その近くで、うごめく影が二つ。
「なあ、ここで間違いないのか?」
「ああ、知り合いの市役所の職員から聞き出したんだから間違いないって」
「でも、ダンジョンパークの建設なんかしてないじゃねぇか?」
「だけど、開園はもうすぐのはずだろ?
だから、何かあると思ってこうして張り込んでいるんだよ」
「そ、そうか……」
「それよりも、カメラとか構えなくていいのか?」
「携帯があるだろ?
最近の携帯は、鮮明に動画とか撮れるからな」
「ならば、用意しておけよ」
「分かった」
ポケットからスマホを取り出し、動画モードで待機する。
暗闇の中、虫の声だけが聞こえる。
何だか、幽霊が出そうな雰囲気だなと考えた時、設置場所近くの地面が光る。
「お、おい!」
「しーっ! 静かに。動画の用意だ」
「お、おう、そうか……」
光った地面の辺りを動画撮影し始めると、人影がいきなり現れる。
「「!?」」
俺たちは声を押し殺して、動画撮影を続ける。
すると、人影が移動をしてダンジョンパークの出入り口になる予定の崖面の前で立ち止まった。
そして、どこからか杖を取り出し何か唱え始めた。
「……」
「……」
聞こえてくる声は、女性の声だ。
さらに地面が光りはじめると、風が起こったのか人影が着ているローブがはためき、顔があらわになった。
「!」
「!?」
長い黒髪に、左の耳に大きな宝石のついたイヤリングが見える。
さらに、表情も見えたので美人だと分かった。
だが、年齢は高校生ぐらいと思える。
『ダンジョンブロード!!』
ハッキリと、声が聞こえた。
女性で間違いない。そう確信したときだ、それは起こった。
俺たちの目の前で、崖面が黒く変わりトンネルのように奥ができた。
俺たちは呆然と、動画だけを撮っていた……。
そして、ローブを着た女性は、やり切ったと笑うとそのまま消えていった。
「……おい」
「……ああ」
「撮ったな?」
「ああ、しっかりと撮れてる……」
ダンジョンパークが、どうやってできるのか分からなかったが、この動画の流出をきっかけに世間を騒がすことになった……。
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