第167話 一時休戦と準備
Side ロンガート伯爵
「父上! ダンジョンとの戦いが一時休戦というのは本当ですか?!」
王太子の葬儀から帰ってきてすぐに、息子のトールが私の部屋に入ってきた。
どうやら、陛下の決定をどこかで聞いて不服を言いに来たな……。
「何だ、帰って来て早々……。
そうだ、ダンジョン討伐は一時休戦となった」
「なぜです?! 納得がいきません!」
「国王陛下が言われたのだ、ダンジョンとの戦いは一時休戦とする、とな。
となれば、国王の臣下である我々は、その命に従うだけだろうが……」
「ですが! ダンジョンが巣くっているのは、我が伯爵家の領土のなんですよ?
このまま、何もしないというわけには……」
「ならば、お前が先頭にたってダンジョンと戦うか?」
「い、いえ、そういうわけには……」
「なら、今は何も言うな。
オルブル王太子が亡くなり、他にもたくさんの騎士や兵士が亡くなったのだ。
今ここで、追撃などできるはずもないだろう」
「……」
それに肝心の陛下が、かなりの落ち込み様なのだ。
陛下にとって、オルブル王太子は結婚して十年目にようやくできた子供だったからな。
周りからの期待で、男子を求められたのだ。
特に先王陛下の期待は大きかった……。
孫の顔が早く見たいと、かなり五月蠅かったと聞いている。
さらに、結婚して一年が過ぎると側室候補が、先王陛下から提案されたとか……。
子供がなかなかできない王妃への風当たりも、強かったと聞く。
そんな仲でできた、初めての男の子供がオルブル王太子だったのだ。
それは、甘やかされて育つというものだ。
だからこその、あのパーティーでの婚約破棄騒動だったのだろう。
その後、王太子のことを一番に心配した陛下は、今回のダンジョン討伐で挽回してほしかったのだろう。
ところが、ダンジョン討伐は最悪の形で終わってしまった。
オルブル王太子をはじめとする犠牲者を多く出しての敗戦。
世間には、一時休戦と発表しているが事実上の大敗北だ。
失った戦力を、どう立て直すかは頭の痛いところだが、陛下にとっては王太子が亡くなったことが一番のショックだったのだろうな……。
「と、弔い戦は……」
「ハァ、今は無理だろうな。
陛下の落ち込み様は、かなりのものだった。
それに、次の王太子もまだ決まっていない」
「第二王子のリオンさまか第三王子のフィレット様では?」
「う~ん、家臣の間でもリオン様を押す派とフィレット様を押す派で分かれているからな。
すぐのすぐには決まらんだろう……」
「ではこのまま、ダンジョンは野放しということですか?」
「分からん。
だが、あの大橋が無くなったのだ。
攻めるにしても、当分は無理だろうな……」
「東のクレンベルスから攻め込むということは……」
「クレンベルスまで、兵を浮遊帆船で運ぶのか?
そんなことをすれば、空賊の心配をしなければならなくなるだろう。
それに、浮遊帆船一隻がどれだけするか分かってて言っているのか?」
「………」
とにかく今は、何も考えず陛下のお気持ちに寄り添うだけよ……。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
「マスター、休戦が決定いたしました。
当面は、ダンジョンに攻め込まれることはありません」
「ならば、今のうちにいろいろとやってしまおうか」
まずは外泊の町に人を住まわせて、外との貿易を始めよう。
バストルの町には人が住み始めている。
東のクレンベルスへの街道を新たに造って、レストールの町跡を通らないようにする。
後は、浮遊帆船を俺達でも造れるようにしたいな……。
「マスター、その前に九州に造ることになるファンタジーダンジョンパークのことをお忘れですか?」
「ああ、そうだった。そっちもあったんだった……。
戦争で、すっかり忘れていた……」
「しっかりしてください、マスター。
もうすぐ、開園の時期が近づいているのですから」
「そうだな。
それで、テイムギルドの責任者になるギルドマスターは決まったの?」
「はい、ソフィアの推薦で決定しました。
すでに、他のギルドへの挨拶は終わっています。
後は、マスターに面会すれば、正式に発表されます」
「了解、時間を決めておいてくれ」
「分かりました。
後、ダンジョンパークの開園場所が決定しました。
ダンジョン企画より、こちらを預かっています」
ミアは、空中に手を突っ込み、アイテムボックス内に入れていた書類を取り出して俺に渡してくれる。
書類に書かれていた場所は、宮崎県にある山の中腹だそうだ。
「宮崎にしたのか……」
「何か問題がありましたか?」
「いや、あそこは交通の便はどうだったかな? と思ってな」
「それは心配いらないでしょう。
何かあれば、国が動いてくれます」
「……そういえば、今の総理は父さんの同級生だったな。
それに、この間は俺にも会いに来ていたし……。大丈夫か」
「はい、心配いりませんよ」
後、九州のダンジョンパークが開園すれば、食糧貿易は東日本と西日本で分けることになるな。
そうなれば、加工工場も増えるな。
後、ダンジョンを利用したゴミ問題の解決も話し合ってみるのもいいか。
ダンジョンの吸収は、何でも飲み込むからな。
これを利用して、ごみを吸収して俺のDPに変えて、さらにDPでいろいろな物に交換する。
それをまた、日本の企業に売ればいい感じの連鎖ができる気がするな……。
リサイクルも目じゃない、いい感じの連鎖が……。
これ、父さんに話してみるか。
ダンジョンの利用方法は、いろいろとありそうだからな。
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