第166話 戦後処理



Side ジャニス


ゴーレム騎士三体と二人の協力者を連れて、川岸を進む。

あの激流に巻き込まれた、王国側の騎士や兵士たちを探しているからだ。

大橋の端まで攻め寄せられ、もうだめだ! 突破されると思った瞬間、あの大橋が崩落した。


エレノア様の話では、ダンジョンマスター様が大橋にヒビや亀裂を入れたおかげで、王国側の援軍が来ただけで、その振動や重さに耐えられず崩壊したそうだ。

……確かに、援軍の存在は見えていたしあの勢いはすごかった。


先頭の方は、馬で駆けつけていたような……。


「ジャニス様! 見つけたようですよ!」

「え? 見つけた?!」

「ええ、ゴーレム騎士の足元に」


そう言われ、止まっているゴーレム騎士の足元を見ると岸に上半身を出した王国の騎士の一人がいた。

兜が脱げ、鎧も所々破損していたが、王国の騎士だということは分かった。


「生きてる?」

「大丈夫です、息をしています」

「なら、気を失っているだけのようね。

引き上げて、馬車の檻に入れておいて」

「了解!」


捜索に協力してくれた男の一人が、ゴーレム騎士にお願いして王国の騎士を運んでいく。

馬車の荷台を檻に改造したもので、王国側の生き残りを捜索する際に連れて行くように言われた馬車だ。


今まで、こちら側の岸を捜索して六人の王国騎士、もしくは兵士を見つけた。

だが、生きていたのはその半分の三人。

いや、今一人、生きていた騎士を見つけたから四人か……。


「ジャニス様、檻に入れておきました」

「よし。それじゃあ、捜索再開だ」

「はい」

「分かりました」


この二人は、ロニーとガルタスという。

たまたま、あの大橋に支援物資を運ぶために来た運搬ギルドのギルド職員だ。

生存者を探すために、協力してくれるとのことで同行してもらっている。


あの檻がついた馬車は、運搬ギルドのものではない。

エレノア様が、用意してくれたものだ。


「そういえばジャニス様、この川の先ってどうなっているんですか?」

「この川の先は、滝になっているのよ。

落差がすごいから、落ちたら助かるものも助からないでしょうね……」

「そんなにすごいのか……」

「それに、もし助かったとしても行きつく先はあの大きな森。

あそこには、ドラゴンが住み着いているらしいわよ?」

「ふへぇ~、怖い森ですね~」

「まあ、私たちが捜索できるのも滝の所までだから、あの森に行くことはないわね」

「そ、そうなんですか~」


そう言えば、あの南側の森は探索の必要性なしと判断されたんだっけ。

冒険者ギルドの発表としては、珍しいからよく覚えているわ。


「ジャニス様! またまたゴーレム騎士が見つけました!」

「生きてるの?!」

「いえ。……これで生きていたら、奇跡ですね……」

「うっ!」

「酷いですね……。完全に頭半分潰れていますよ……」

「こんなところで、アンデットになられても困るから川に流してしまいましょう」

「分かりました」


今までと同じように、見つけたのが死体の場合は激流の川へ流してしまう。

これで、先にある森のどこかへたどり着くはずだ。

後は、森の魔物か動物かの栄養になっているだろう……。


「流したら、捜索を再開するわよ」

「了解」

「ゴーレム騎士にお願いして、激流の中へ投げ込ませました」

「それじゃあ、出発しましょう」


再び、生存者の捜索が始まる。

生きていれば檻の中へ、死んでいれば激流の川の中へ。

私たちは、淡々と探すだけである……。




▽    ▽    ▽




Side ブリーンガル王国国王


私は、戦況報告を聞いて膝から崩れ落ちた。

私の息子、オルブルが激流の川に落ち、他の王国騎士や兵士たちと同じように流された報告を聞いたからだ。


ダンジョンとの戦いは、勝てるはずだった。

だからこそ、パーティーの一件で立場を悪くしたオルブルに英雄として凱旋してほしかったのだ。


だが、蓋を開けてみればダンジョン側の抵抗激しく、ダンジョンにすらたどり着かない。

それどころか、石の大橋が崩落しただと?!


「せ、生存者の捜索はしておるのだろうな!?」

「は、はい、陛下。

下流までの川岸を、残っている兵士たちに捜索させております」

「砦に残っている兵士たちも動員せよ! 一人でも多くの兵士たちを救助するのだ!」

「「「「ハハッ!!」」」」


会議室にいた家臣たちに命令し、生存者の捜索をさせる。

もしかしたら、オルブルも生きて川岸にたどり着いているかもしれないからな……。


その時、会議室に伝令の兵士が入ってきた。


「伝令! オルブル王太子のご遺体が発見されました!

今、こちらに搬送中とのことです!」


絶たれた、今、微かな希望が絶たれてしまった……。

再び私は、膝から崩れ落ちてしまう。


「陛下!」

「陛下!」


家臣か大臣の誰かが、私を支えてくれるが、足に力が入らない。

そこで、椅子に座らせてくれた……。


「……分かった。

宰相、葬儀の準備を。オルブルの棺を用意してやってくれ」

「お任せください、陛下。

それと、今はご自身のお身体を……」

「分かっている。

分かっているさ……」


そう言ったあと私は、気を失ったらしい。

あのような王太子でも、私は次の国王にしたかったのだ……。


ようやくできた、初めての子供だったからな……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


ダンジョン化した範囲の外で、王国側の兵士などの死体が見つかるようになった。

まあ、ダンジョン化していれば吸収してしまって何も残らないからな。


「マスター、あの大橋はいつ戻すのですか?」

「王国側と話し合って一応の解決が見えた後、かな。

今戻すと、再び進攻してきそうじゃない?」

「してくるでしょうね。

王国側は、この戦いで大切な方を亡くされたようですから」


ミアが、王国のどこかをモニターしている。

あれは、虫ゴーレムを使って覗いているのか?


「何か、見えたの?」

「はい、国王が王太子の訃報を聞いて崩れ落ちる様子が見えました」

「そ、それは、ショックだっただろうね……」


そうか、あの王国側の兵士たちの中に王太子がいたのか……。

弔い戦とかに発展しなければいいけど……。






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