第165話 ちゃぶ台返し



Side 五十嵐颯太


『一気に攻め込めー!! 勝利を我らに!!』

『オオォッ!!』


コアルームから戦況を眺めていたが、王太子が動いたため大橋の上がごちゃごちゃになった。

負傷し、後方へ下がってきていた騎士や兵士を巻き込み、王太子は好機だと最前線へとかけていく。

しかも、家臣や護衛の騎士に待機していた騎士や兵士を連れて攻め込んでくるのだから、大橋の上は王国軍でいっぱいになった。


「……王太子は、戦いってものが分かってないようだな」

「いかがなさいますか? マスター」


コアルームの空中に浮かぶ画面に、いろいろな角度の戦場の様子が映し出されているが、その中でも最前線の士気をしている騎士の顔が印象的だ。

後方から来る王太子と連れてくる騎士や兵士に、ウンザリという顔をしている。


このままいけば、橋を突破することはできるはずなのになぜ任せてくれないのか、といったところだろうか。

現に王国軍は、大勢の死者や負傷者を出しつつもダンジョン側の敵を追い詰めていたのだ。


あと少しのはずが、手柄をすべて横取りされる気分なのかもしれないな。


「ミア、ジャニスたちは橋から出たのか?」

「はい、現在大橋の端で防戦しています。

ファイアータートル、コールドタートルを共に失ってからは、防戦一方で後退していましたから……」

「そうか……。

では、一気に戦いをひっくり返すか」

「どうなさるおつもりで?」

「それはもちろん、こう、するんだよ」


ダンジョン操作盤を目の前に出現させ、ちょいちょいと操作する。

すると、すぐに戦況を映していた画面に変化が現れた……。




▽    ▽    ▽




Side 最前線の指揮をしていた騎士


「そのまま攻め込め!」

「騎士長! オルブル王太子率いる王国軍が、援軍に!!」

「何!?」

「あれです!」


報告に来た兵士が、後方を指さした。

指揮官がその指された先を見ると、馬に乗ってかけてくる王太子を先頭に馬に乗った家臣や我らとは違う鎧の騎士たち。

そして、その後ろから待機していたはずの騎士や兵士が必死の表情をして走っていた。


「な、何故ここに来る必要がある!?

ここは、限られた場所での戦いですぞ!!」

「騎士長? せっかく援軍に来てくださったのに、その言い方は……」

「お前も分かっていないのか?!

こんな場所に、この数で、しかも激しく動けば……っ?!」


その時、石の大橋の道に大きな亀裂が走る。

さらに、だんだんと大きな振動が起こり始めた。


「き、騎士長! こ、この振動は……」

「ま、まずい! 向こう側への道は、まだ確保できないのか?!」

「だ、ダメです! 敵の防壁が固く進軍できません!」

「クッ! ならば後退、はダメだ……。

クソ、八方塞がりか……」

「き、騎士長?」

「コールマン、覚悟はいいか?」

「な、何が……」

「橋が崩れるぞ!!」

「ええぇぇっ!!!」


体に感じる振動が、さらに激しくなり、石の大橋に走る亀裂も細かく走り始める。

そして、突然、一気に、石の大橋は、崩壊した!!


大きな音をたてて崩壊していく大橋。

さっきまでいた場所が、崩落して激流に巻き込まれていく。

走っていた馬の足元が崩れ落ち、王太子たちもそれに巻き込まれ激流の中へ落ちていく。


騎士長の足元も崩落し、激流にのまれた!

最前線で戦っていた騎士や兵士も、戦いをやめ後方を確認する。

そして、自分たちの足元も危険なことを知るが、そこを攻撃してくるダンジョン側の敵。

もはや助かる道はなかった……。


大橋は完全に崩落し、橋に乗っていた全員が川の激流にのまれていった。

激流の音に、人々の叫びや嘆きの声ものみこまれ、気づけば辺りは激流の音だけが響いていた……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


我ながら、自分のしてしまったことの大きさに驚いた。


石の大橋に亀裂が入り、あっという間に崩壊してしまう。

そこにいた王国側の騎士や兵士たちは、激流の川の中へと落ちていき戦いは終わった。


「マスター、これは……」

「まあ、言葉がないのは分かるよ。

俺自身、とんでもないことをしてしまったと、今さらながら反省している。

でも、これで王国側に考える時間を与えられるだろう?」

「……」

「そんな、複雑な表情をしないでよ。

俺も、今回ばかりは反省しているからさ」


俺のしたことは、盤上をひっくり返した行為そのものだ。

戦況は一気に覆ったというより、戦いそのものが無くなった感じだ。


「しかし、石の大橋に罅を入れただけで崩壊してしまうとはね……。

一部崩落で、戦いが止まることを想定していたのに……」

「では、完全な崩壊はマスターの意図したことではなかったと?」

「そうだよ。

それに、ダンジョン操作でもあの大橋を壊すことはできないんだよ。

せいぜいが、脆くしたり罅を入れたりするぐらいだ。

まあ、その結果がどうなったかは目の前にあるけど……」


……とりあえず、これで大橋は使えなくなった。

それはつまり、あの川を渡る地上の手段が無くなったわけだ。

あと警戒するのは、あの浮遊帆船による輸送だけだけど……。


「マスター、エレノアからメッセージが来ました」

「エレノアたちは怒っていた?」

「いいえ、逆に感謝していましたよ。

危ないところを助けていただいて、ありがとうございます、と」

「そうか、ならいいか……」

「それと、これよりゴーレム騎士たちを使って川岸の捜索をするそうです。

もしかしたら、流された王国側の兵士たちがたどり着いているかもしれないから、と」

「了解。もし生きてたどり着いたものは、捕虜として扱うように言っておいて」

「分かりました」


せっかく、生きてあの激流を助かったんだ。

殺すことはないよね。

いくら戦争とはいえ、助けられる命は助けないと……。


後は、この報告を聞いた王国側がどう出るか……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る