第164話 力押し



Side オルブル王太子


何たること、何たることだ!

何のために、この俺がこんな戦場に来たと思っているのだ!!


敵の強さを見誤り撤退しただと?!

騎士や兵士に死傷者多数? 無駄死をしやがって!!

死ぬのなら。敵を道連れにしろ!


「オルブル様、いかがいたしますか?」

「たかが、一回負けただけだろう。

これだけの数がそろっているのだ、ここはどんどん戦線に投入して数で押すしかないだろう!

あの大橋しか、向こうへ渡る手段はないのだぞ?」

「ですが連続投入は、戦術としては下策でございます」

「浮遊帆船は使えない、あの大橋しか道はない、では他にどんな策があるというんだ?」

「それは……」

「ならばここは、下策だろうが何だろうがやるしかないだろうが!!」

「「「ハハッ!」」」


まったく、一緒に戦場に送られてきた家臣たちが無能で困る!

返事をした後、家臣たちは兵をまとめるためにテントを出ていった。


「ハァ~、公爵の娘と婚約破棄してから全くついてない。

あんな女よりも、シャーリーの方が愛らしいではないか。

父上も母上も、何故分かってもらえないのか……」


パーティーでの婚約破棄宣言など、あの公爵の娘にわからせるためにしたことだ。

私は後悔などしていない!

それなのに父上は、何故あれほど怒られたのか、私には理解できないぞ……。


「ハァ~、早く帰りたいものだな……」




▽    ▽    ▽




Side ジャニス


「いい? ジャニス。

敵が総攻撃を仕掛けてきたら、引きつけながら後退するのよ。

橋を渡り切ってもいいわ。

とにかく、引きつけるだけ引きつけること」

「分かりました!

でも、橋を渡りきるほど後退して、その後はどうするのですか?」

「マスターに考えがあるそうよ。

だから、ジャニス。頼むわね?」

「分かりました!

このジャニスにお任せください!」


エレノア様から、今回の戦いの作戦を聞いて戦場に向かう。

でも、変な作戦だな。

敵を引きつけて、後退しろなんて……。


あの石でできた大橋に、敵を引きつけてどうするんだろう。

あの激流の中に、新たな魔物とかを隠してあるとか?

それとも、激流そのものを利用するとか……。


う~ん、分からないな~。

考えても分からないときは、作戦通りに行動するのみ!

そうすれば、答えが分かるというものだ。


「今回も、第一列はゴーレム騎士!

第二列に、ファイアータートルとコールドタートルを配置する!

第三列は、弓ゴーレムとガトリングゴーレムの混成部隊よ!」


あと今回は、敵を引きつけての後退がメインだからゴーレム騎士の盾部隊を用意する。

これで、完璧ね!


「それじゃあ、進軍開始!!」




▽    ▽    ▽




Side オルブル王太子


「では、進軍開始!!」


私の合図で、再びの進軍が開始された。

今度のは、全軍投入だ。

とにかく、この大橋は渡らなければならない。


それに、本当の戦場はこの先のバストルの町にあるダンジョンだ。

こんなところで、グズグズしている場合じゃない!


私は一番後方にある、この指揮テントの中であの大橋を渡り切ったという知らせを受けるだけでいいのだ……。



進軍開始からしばらくして、伝令が私の居るこの指揮テントの中に飛び込んできた。


「伝令! 敵騎士隊と交戦を開始!

タートル系魔物の吐く、炎と吹雪に悩ませられるものの前進を続けております!」

「待て! 負傷者はどれほど出ている?」

「負傷者多数なれど、死者はおりません!」

「分かった、伝令ご苦労!」

「ハッ!」


伝えることを伝えると、伝令兵はテントから出ていった。


「どうやら、敵は後退しているようですな」

「後退?」

「はい、殿下。

大橋の、この位置で敵と接触したものと思われます。

そこで戦いを繰り広げて、こちらが前進しているとありましたから……」

「なるほど、こちら側が攻勢に出て敵が後退か。

所詮は、魔物だったということか?」

「ですな!」


そんな説明を受けていると、再び伝令が飛び込んできた。


「伝令! 敵の攻勢が始まりました!

死傷者多数! 最前線の兵士の死者が増えています!

援護攻撃で持ち直しましたが、後退を進言されました!」

「後退はない!

負傷者は下がらせて、新たな兵士や騎士を投入しろ!

今回は、数で押すしかない!!」

「分かりました!」


伝令兵と家臣の一人がテントを出ていく。

投入する、兵士や騎士を見繕うためだろう。


それにしても、後方での待機は戦況が分からないからじれったいな……。



テントを出ていった家臣が戻ってきたころ、再び伝令兵が飛び込んできた。


「伝令! 前線にてファイアータートルの討伐に成功!

続いてコールドタートルに挑んでおります!

また、ファイアータートルの討伐と同時に、敵が後退を始めました!」

「よし! 好機だ!!

私も出るぞ! お前たちも続け!!」

「「「ハハッ!!」」」


私はすぐに、鎧を身につけるとテントを出て馬に乗り、最前線へ向けて走り出した!

私に続く家臣たちや護衛の騎士たち。

負傷した兵士や騎士たちが驚く中、私たちを乗せた馬は走り抜けていく。




大橋に到着した私が、最初に思った感想がのんびりしているなというものだ。

何故なら、大橋の側にいた兵士たちは座って話をしていたのだから……。


最前線は、激しい攻防が繰り広げられているのだろうが後方はすることがない。

大橋という戦う場所が限られた戦場では、こういうものなのだろう。


「お前たち、暇ならついて来い!

一気に攻勢に出るぞ!!

敵が後退しているなら、こちらから一気に押し返せば、この大橋を渡りきることができるだろう!」


そう言って、私は馬を走らせ最前線に突入していく。

その後を追う家臣や護衛の騎士たち、そして、暇を持て余していた兵士が加わり限られた戦場の大橋の上が人で溢れかえる……。







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