第162話 王国側の勢い



Side ???


作戦会議は、会議にすらならなかった。

オルブル王太子が提案すると、誰もそれに反対意見を言わないのだ。

そのため、王太子が提案した作戦だけが採用され実行される。


だが、今の状況で作戦も何もないのだがな……。


川沿いを捜索していた斥候の話では、あの石の大橋以外で向こう側へ渡る手段はないそうだ。

川上や、川下へも捜索の手を伸ばしたが見つけることはできなかった。

そのため、本隊との合流を果たした今、力押しで突破するしか手はない。


肉壁となるはずの奴隷たちは、ダンジョン側へ逃げてしまった。

ならば、盾を持ち剣でも戦える騎士の出番というわけだ。


「お、ブロー。

何だか、気合が入っているな!」

「俺たち騎士の出番だからな。

それに、この大橋は馬車が横に四台は通れるほどの大きさだ。

動きが制限されることもないだろう?」

「だな! 俺も実は、今から楽しみでしょうがないぜ」

「お互い、ダンジョンの魔物なんか蹴散らしてやろうぜ!」

「ああ!」


お互いの盾を打ち合うと、それぞれの位置に整列する。

まずは、騎士の一部が前面に出て戦い、その隙をついて兵士や斥候が奥へと進む。

さらに川の岸からは、弓隊と魔術師隊によって遠距離攻撃が行われ騎士たちの援護射撃をすることになっている。


「騎士隊、整列!!

オルブル王太子様よりのお言葉がある!」


そう指揮官が言った後、馬に乗ったままのオルブル王太子が姿を現した。

そして、馬から降りることなく言葉を発する。


「ブリーンガル王国王太子、オルブル・セラード・ブリーンガルだ!

この戦いは、聖戦である!!

必ず、川の向こうのバストルの町に巣くうダンジョンを討伐しなければならない!

皆、気合を入れろ!!

大橋を最初に渡った者に、金貨千枚の褒賞を渡す!

では、皆の奮闘に期待する!」

「「「「オオオォォ!!」」」」


周りの騎士たちの顔つきが変わった。

王太子に声をかけてもらえるなど、そうそうないことだ。

気合も入るだろう。

それに、金貨千枚とはよく言ったものだ。


金貨千枚あれば、一生遊んで暮らせる額だ。

金が欲しい奴は、これで気合が入ったのだろう。


俺は頭部鎧のマスクを降ろし、指揮官の指示を待つ。

王太子からもらった気合は、確実に俺を興奮させている。


「では、騎士隊前へ!

進軍、開始!!」


指揮官の合図とともに、俺たちは進軍を開始した。

ダンジョン側の騎士たちが、横一列で待ち構えているが関係ない。

すべて蹴散らしてやる!!




▽    ▽    ▽




Side ジャニス


王国側から、誰かの演説が聞こえました。

王太子とか何と聞こえたような気がします。

なので、再び進軍してくる気なのでしょう。


「ゴーレム騎士隊、前へ! 横一列で待ち構えて!

第二列は、ゴーレム騎士二つ分開けて整列!

第三列も、第二列と同じように整列して待機!」

『オオオン』


ゴーレム騎士から、了解という合図が聞こえると王国側が進軍を開始しました。

それと同時に、川岸より援護射撃の矢と魔法が飛んできます。


「マジックシールド展開!!

それとこちらも、弓隊! 攻撃を開始!!」


私の後方にいる、ゴーレム弓隊に攻撃命令を与えます。

すると、弓隊は攻撃を開始!

大橋の中央から、川の向こう側にいる王国兵たちにダメージを与えるために。


「王国側の攻め方なんて、手に取るようにわかるわよ。

何せ、力押し以外残していないのだから」


相手側に選択肢を与えなければ、こちらの対処も一つで済む。

さすが、ダンジョン巫女のエレノア様。

頭いいわ~。




しかし、王国側の勢いは衰えることなく第一列のゴーレム騎士を薙ぎ払い、第二列へと迫った。

さらに、ゴーレム騎士と王国側の騎士との戦いの隙をついて王国側の兵士が攻め込んでくる。

私は仕方なしに、第三列のゴーレム騎士を対処にあたらせた。


「王国側の勢いが止まらないわね。

仕方ない、ここは後退してゴーレムたちに任せます」

『オオン』


ゴーレムの返事を聞いた私は、後方へ下がります。

私の後退を援護するように、ゴーレム弓隊が配置を変えて守ってくれました。




▽    ▽    ▽




Side ブロー


もうすぐだ。もうすぐ、ダンジョンの騎士たちを打ち倒せる!

最初に戦ったときは、かなり強いと思ったが、この騎士たちがゴーレムと分かれば対処の仕方もある。


ゴーレム騎士は、ダンジョンの浅い階層から出現することが多い魔物だ。

強さは階層ごとに決まるが、この強さなら六階層辺りといったところか。

そして、ゴーレム騎士の弱点は頭だ。


ゴーレム騎士の核は頭にあり、そこを潰せば動かなくなる。

これは、魔王のダンジョンでも同じだった。

そのため、敵の正体が分かれば後は簡単だ。


「こ・れ・で・六体目!!」

『オオン!』

「ブロー、見ろ!

指揮をしていた女が逃げるぞ!」

「その女を捕まえろ!!

重要な情報源だ! 捕まえた者に、金貨三百枚は出すぞ!!」


指揮官の大声が聞こえた。

あの女の重要性が分かっているようだ。

だが、弓隊が間に入り、俺たちの邪魔をする。


「じゃ、邪魔だ!!」

「に、逃がすな!!」

「ク、クソ! こいつらを何とかしないと!!」


この弓隊もゴーレムのくせに、あの女を守るため必死に戦ってくる。

そのため、弓隊を一掃した頃にはあの女の姿はなく、ゴーレムの残骸が散らばる場所だけが残った……。


「女を逃がしてしまったな……」

「負傷者十五名、死者なし。

まずまずの戦果だ。今は、これで良しとしようぜ」

「……ああ、そうだな」


負傷者を後方に送り、準備を整えて再び進軍する。

戦いは、まだまだ続くからな……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る