第161話 本隊、到着



Side ???


「伝令!! 奴隷たちを拘束していた隷属の首輪が外れました!

また、開放された奴隷たちはダンジョン側へ逃走!!」

「何だと!!」

「男爵様、まずいですよ!

本隊はもうすぐ到着です! このような失態が分かったら……」

「ええい! 今はそんなことを気にしている場合ではない!

弓隊と魔術師隊を下がらせろ!! ここで消耗させるわけにはいかん!!」

「ハッ!!」


テントの中に、伝令が飛び込んできたかと思えば奴隷が解放されたとか。

どんな手を使ったのか、想像がつかなかった。

だが、事実奴隷は解放され逃げられてしまう。


ここを指揮する男爵は、後から来る本隊との合流のために弓隊と魔術師隊の消耗を避けるために、一時後退を指揮する。


「兵士たちを前に出して、後退を援護させましょう」

「よし、すぐに兵士たちを前面に展開!

弓隊と魔術師隊の後退を援護せよ!!」

「ハハッ!」


男爵からの指示を受け、兵士が一人テントを出ていった。


「伝令兵、ダンジョン側は攻めてきているのか?」

「いえ、ダンジョン側は守りに徹しています。

また、奴隷たちを受け入れた後は、橋の中央付近で布陣したままです!」

「攻めてこない……」

「伝令兵! 指揮官に連絡!

斥候を出して、川沿いを捜索! 向こう岸に渡れる場所を探せ!」

「すぐに伝えます!」


そう言うと、伝令の兵士が一人、テントを出ていった。

すぐにクレガルナ男爵が、伝令の意図を命令した部下に聞く。


「コルマン、今のはどういうことだ?」

「川は激流となり、あの橋を渡らなければ向こう側へ行けません。

そのため、あの橋以外で渡れる場所がないか捜索するのです。

そして、もし渡れる場所があれば別部隊をそこへ向かわせ、敵を後方から攻めて蹴散らそうかと……」

「なるほど、挟み撃ちにするわけか……。

だが、渡れる場所があるかな……」

「無ければ無いで、本隊を待って力押ししかありませんが……」

「できることは、すべてやっておこうというわけだな?」

「はい」


その時、テントに伝令が駆け込んできた。


「本隊が到着されました!

オルブル王太子様が、指揮テントはどこに建てるかと質問されています!」

「分かった。

デルトン、王太子らの相手を頼む。

到着早々、戦闘に参加はできまい。

明日、作戦会議の後、進軍を再び開始する!」

「「「ハハ!」」」


戦いはこれからが本番だ。

待っていろダンジョンの者ども、我ら王国の力を思い知らせてやる!




▽    ▽    ▽




Side クローヴァー


私は走った。

長い長い石でできた大きな橋を、体力の続く限り走った。

周りには、私と同じように奴隷だった人たちも走っている。


中には、もう走れないと座り込む人もいる、歩く人もいる。

だが、みんな助かったという安堵した表情をしている。


そんな中で、私はうれしい声を聞いた。


「クローヴァー!」


私は顔を上げ、前方を見ると、そこには私が無事だったことを喜んでいる主様がいた。

笑顔で、私の方へ走ってくる。

そして、私を強く抱きしめて再会を果たした……。


「クローヴァー、良かった!

生きていてくれて、本当に良かった……」

「私も、主が無事で、本当に良かった……」


二人抱き合って、再会を喜んでいると一人の女性から声を掛けられた。


「再会を喜ぶのはいいけど、向こうのテントの中でしなさい。

ここは戦場になるのよ?」

「ああ、ごめんなさい、エレノア様」

「エレノア……様?」

「紹介するわね、クローヴァー。

こちらはエレノア様。ダンジョンの巫女様よ。

あなたの救出に、手を貸してくれたの」

「初めまして、ダンジョンの巫女をしているエレノアよ。

エリシアが、無茶な救出をしようとしていたから協力させてもらったわ」

「私の救出のためにご尽力くださり、ありがとうございます」

「良いのよ。それより、向こうのテントで休みなさい。

向こうが攻め込んでくるのは、明日になりそうだしね」

「分かるのですか?」

「まあね。

とにかく、今は休息が大事よ?

エリシア、クローヴァーを連れて休みなさい」

「分かりました」


私は、主に連れられてたくさんあるテントの中の一つに入って休むことにした。

ここに来るまで、かなり痛めつけられていたことを忘れるほど走っていたことに気づき、テントの中で横になるとそのまま眠ってしまったようだ……。


主が、側にいて手を握っていてくれたような気がする……。




▽    ▽    ▽




Side ジャニス


奴隷たちを解放し後方へ逃がすと、すぐに攻撃が止んだ。

それが分かったので、私たちの部隊は橋の中央にまで移動して待機する。


すると、後方から声を掛けられる。


「ジャニス、お疲れさま」

「エレノア様。

無事、奴隷たちを解放し後方へ送ることができました!」

「確認したわ。

それと、向こうの本隊が合流したわよ」

「では、攻めてきますか?」

「いえ、攻めてくるのは明日になるでしょうね。

到着したばかりだし、疲れをとるためにもね」

「では、このまま待機ですね」


どうやら、最初の作戦は成功したようだ。

肉壁として使われる奴隷たちを、解放して味方につける。

まず、最初に行われた作戦だ。


「そういえば、向こうの兵士たちが何人か川沿いを移動していきましたけど、大丈夫なのでしょうか?」

「それは心配ないわ。

この石の大橋以外で、川を渡る場所がないか探そうとしているのよ。

残念ながら、この橋以外でこの川を渡る術はないわよ」


さすが、ダンジョンの巫女のエレノア様。

相手の二手、三手先を読んでこの戦いをしているみたい。


「ジャニス、ゴーレム騎士たちにここを任せて、あなたは後方へ下がりなさい。

休める時に休んでいないと、いざというとき動けないわよ?」

「分かりました。

騎士リーダー、ここの守備を任せます」

『了解』


ゴーレム騎士の返事を確認して、私とエレノア様は後方へ下がった。

戦いはこれからだ。







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