第160話 肉壁解放
Side ブリーンガル王国兵士
「整列!! 整列!!」
大きな橋の前で、上官の男が馬に乗ったまま大声で命令している。
俺たちの仕事は、その命令を聞いて奴隷たちを整列させることだ。
今も、上官の命令通り、奴隷たちを整列させる。
橋の前に並べさせ、このまま歩かせて肉壁とするのだろう。
奴隷たちの後ろには、遠距離攻撃のできる弓隊や魔術師隊が控えていた。
「おい! 列に戻れ!
そこ! 逃げようとするんじゃねぇ!!」
「う、うう……」
「助けて……助けて……」
「ク、クソ……」
「こ、こんなところで……」
ガタガタ震えている奴隷、悪態をつく奴隷、助けを求める奴隷とそれぞれでこの状況を受け入れたくない表情をしている。
だが、隷属の首輪をしているため俺たちの命令に逆らうことができない。
そして、奴隷たちの後ろから準備完了の声が出る。
「アスティア弓隊、準備完了!」
「オルドス弓隊、準備完了!」
「ホルカーナ魔術師隊、準備完了!」
「隊長! 全部隊、準備完了!」
馬に乗った上官は頷き、大きな石橋の方を向く。
すると、そこには盾を構えた赤い騎士たちが戦闘態勢を取っていた。
そしてその後ろから、女が一人姿を現した。
「私は、ダンジョン側の代表! 諸君らが何をしに来たかは知っている!!
私たちダンジョン側は、話し合いに応じる用意がある!
諸君らの代表者と話がしたい! 返答はいかがか!!」
……驚いた。
ダンジョンに味方をする者たちがいるなんて……。
「ブリーンガル王国の先兵、クレガルナ男爵だ!
我が王国の町、バストルに巣くうダンジョンを討伐するため国王陛下の宣言により進攻させてもらう!
ダンジョンに味方するなら、貴公らも我が王国に敵対する者として対処する!
覚悟されたし!!」
「……いいだろう! 話し合いが不要ならばかかってくるがいい!
我らの強さを思い知らせてやる!!」
「奴隷たちを進めさせろ!
弓隊! 魔術師隊! 構え!!」
上官が進軍を命令した!
俺たちは、奴隷たちを前へ進むよう命令する。
「前へ進め!」
「い、嫌だ!!」
「助けて!」
「し、死にたくない!!」
「あ、ああ……」
奴隷たちの嘆きが聞こえるが、俺たちは耳を塞いで命令する。
どうか、俺たちの肉壁として成仏してくれ……。
▽ ▽ ▽
Side ジャニス
ダンジョン巫女のエレノア様の代わりに、こうして交渉を試みましたが、向こうは聞く耳を持っていないようですね。
戦争をして勝つ気でいますよ……。
進軍を開始した王国側を見ながら、前にいるゴーレム騎士たちに盾を構えさせ、ゆっくり後退します。
これは、エレノア様から言われていたこと。
交渉ができるなら、交渉をする。
でも、進軍をするならゴーレム騎士に盾を構えさせてゆっくり後退しなさい、と。
つまり、敵を引きつけながら後退しろということだ。
エレノア様には、何か考えがあるのだろう。
「! マジックシールド展開!!」
前から奴隷たちが無理やり歩かされながら進んでくるが、攻撃はその奴隷たちの上から来た。
まずは、魔法の攻撃だ。
大きな音を出しながら、マジックシールドの向こうで何度も爆発している。
いろいろな攻撃魔法が飛んでくるみたいで、爆発する閃光がカラフルだ。
「……それにしても、ゴーレム騎士のマジックシールドは強固ね。
衝撃すら、こちらに届いてないみたい……」
魔法が効かないと分かったのだろう、魔法攻撃の中に矢が混ざるようになった。
奴隷たちの後方に、魔術師だけじゃなく弓隊もいるのか。
「ギャッ!!」
「いてぇ!!」
「い、痛い、痛い……」
「死にたくない、死にたくない」
奴隷たちの先方が、ゴーレム騎士の目の前まで迫ってきた。
そのせいで、こちらへの攻撃に巻き込まれる者たちが出ていた。
腕を吹き飛ばされ、痛がりながらそれでも歩き続けるもの。
背中に矢を受けても、歩き続けるものなど、目を背けたくなるような光景だ。
「まだかな……、まだかな……」
奴隷たちが、全員橋の上に乗ればある仕掛けが作動する。
それまでは、我慢我慢……。
その時、激流の流れる川に掛けられた大きな石の橋全体が光った。
すると、奴隷たちの首にかかっている隷属の首輪が、音をたてて外れる。
さらに、手枷などをされた者たちの手枷も、音をたてて外れた。
「きた!
奴隷の皆さん!! みなさんは解放されました!
急いで、こちらに逃げてください!!」
「は、外れた!」
「解放、され、た?」
「お、おい! 急げ!!」
「に、逃げろ!!」
ゴーレム騎士たちが道を開けると、元奴隷の人たちはこちらに向けて走り出した!
今もまだ、攻撃は続いているがゴーレム騎士たちのシールドが守っている。
これで、肉壁となっていた人たちは救助できた。
亡くなってしまった人たちもいるけど、助けることができた人は多い。
でもまだ、傷を負って逃げていない人たちがいる。
私は、後方にいる救助隊を呼んだ……。
▽ ▽ ▽
Side クローヴァー
ガチャガチャと音をたてて、隷属の首輪が外れた。
足元の石の橋が光ったと思ったら、こんな仕掛けがあったのか……。
周りの奴隷たちが騒ぎ出し、喜んでいるがまだ助かったわけじゃない。
ここは最前線だ。
どうしようかと考えていると、前方にいるダンジョン側の女性が大声を上げてこちら側に逃げろと言っている。
気づけば全身鎧の騎士たちが橋の端へ移動して、私たちの通行の邪魔にならないようになっていた。
周りの奴隷たちは、すぐに行動する。
何せ、後方からの攻撃は続いている。
こうしている間にも、巻き込まれて吹き飛ばされているものがいるのだ。
「に、逃げろ!!」
「進め!! 逃げるために進め!!」
「ギャッン!!」
「イダイ!!」
「やめろ! 矢を撃つな!!」
攻撃の続く中、私も前へ前へと走った。
生きるために!
助かるために!
そして、主に再び会うために!!
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