第159話 進軍開始
Side ???
リンガールの砦に、浮遊帆船が二隻到着した。
「積み荷を降ろせぇ!!
砦の前に整列させろ!!」
浮遊帆船の前方部分の底が開き、地面に接触する。
そして、そこから積み荷の奴隷たちが歩いて出てきた。
どの奴隷も、表情はない。
平民が着るような服に、靴を履き歩いている。
武器や防具の類は一切ない。
首に嵌められた、太い首輪が奴隷の証だ。
特に、この奴隷たちには、自分が何者であるかを分からせるためにこんな隷属の首輪をしているのだとか……。
「おい見ろよ。あの腕に大きな枷を嵌められた奴。
あれ、エルフだぜ……」
「エルフ? 珍しい種族じゃないか?
それがなぜ、奴隷としてこんな戦場に……」
兵士の知り合いと、浮遊帆船から降ろされる奴隷たちを見物していると、珍しい種族の奴隷を発見した。
エルフの奴隷と言えば、見目麗しい奴隷で高額ということしか知らないが、こんな戦場に送られてくるとは珍しい。
さらに、奴隷たちが出てくる。
その中に、他の奴隷とは違う女の奴隷を発見した。
「な、なあ、あの奴隷、結構いい女じゃないか?」
「ん? ど、どれだ……」
「ほら、禿げた男の横を歩いてくる女だよ」
「……ああ、あれはダメだ」
「え? イイ女だろ?」
「おいおい、あれは魔物だぞ?
あの見た目はヴァンパイアだな、少し薄いが肌の色、それに目を見ろ。
あれはヴァンパイアの特徴だ。
……そうか、あんな魔物まで投入するのか……」
「好みだったんだがな……」
残念に思いつつ、魔物を投入するこの戦争に少し気が緩んだ。
ここまで戦力がそろうのだ、ダンジョンなど敵ではないなと……。
▽ ▽ ▽
Side クローヴァー
魔王のダンジョンで主に出会い、ヴァンパイアとなったがダンジョンを出たところで捕まってしまった。
主は何とか逃がしたものの、私は拷問を受け教会によってこの場所に送られてしまった。
だが、何故か私は教会を出てからずっと主の存在を側に感じている。
まるで、今も見守られているような……。
「ターナ兵士長! 奴隷たちを出発させろ!
兵士隊も出発だ! バストルの町のダンジョンへ侵攻を開始する!!」
「「「おおっ!!」」」
騎士の合図とともに、私たちは出発する。
武装した兵士たちに両側から挟まれ、前に歩くしかない。
普段着のような姿で、敵の攻撃を防ぐ肉壁としての役割だそうだ。
浮遊帆船の中で、散々監視の兵士たちに言われ続けたこと。
主と、この空の下を旅したかった……。
それも、もう叶わぬ夢となるのだろうか……。
▽ ▽ ▽
Side ???
クローヴァーを含む、奴隷たちの出発を見届けた私は、街道から離れた森の中を走っていた。
先回りするためだ。
先回りして待ち伏せ、クローヴァーを救出する。
そしてそのまま、森の中を逃げるつもりだ。
作戦としては、稚拙なものだがこれしかないと思っている。
そして、森を走り抜け、大きな川に到着した。
激流と言えるような水流で流れている川だ。しかも川幅がかなり大きい。
「向こう側が、見えないな……」
川に沿って歩いていると、大きな橋を見つけた。
どうやら、この橋だけが向こう側に渡ることのできる手段のようだ。
ならば襲撃する場所は、この橋を渡った先ならば逃げることもたやすいはず。
そう考え橋を渡ろうとした時、後ろから声を掛けられた。
「待ちなさい」
「!!」
すぐに後ろを振り向き、鎌を構える。
そして、相手を見ると金髪で女の私が見ても美しいと分かる女がいた。
いったい、いつの間に後ろに回られたんだ?
「……あなたは、王国側の先兵ではないわね?
何をしにここへ来たのかしら?」
「あ、あなたこそ何者だ?
ヴァンパイアである私の後ろを取るなんて、ただものではないだろう?!」
「そう、あなたはヴァンパイアなのね」
「!?」
「警戒することはないわ。
私は、エレノア。ダンジョンの巫女をしている、ホムンクルスよ。
この場所は、すでにダンジョンマスターの領域。
つまり、ダンジョンの中なのよ?」
ここが、ダンジョン?
私は、周りを確認するため見渡すが、激流の川が大きな音を出して流れているだけでダンジョンとは思えなかった。
「ウソ! ここは地上よ!
ダンジョンの中のはずがない!」
「地上ダンジョンというのを知らないのね。
それにしても何故、あなたはここに来たの? ここは戦場になるのに……」
「……私は、助けたい人がいるの。
私を逃がすために捕まり、奴隷になった人が……」
私は、このダンジョンの巫女というエレノアにすべてを話した。
魔王のダンジョンから、ここまで来た経緯を。
そして、助けたいクローヴァーのことを……。
「そう、あなた名前は?」
「エリシア、エリシア・ローヴァル……」
「エリシア、私たちに協力しなさい。
あなたの大切なお友達を救出する手助けができるわよ。
それと、この戦いの後の生活の保障とか、ね」
「……なぜ、そんなことを?
何か、目的でもあるの?」
「ダンジョンマスターが、興味を示しただけよ。
直接私に言ってきたの、助けてあげようってね」
エレノアの提案は、私たちに都合がよすぎる提案だったが、今は頼らざるをえないと考えて私は了承した。
そして救出のため、橋を渡り向こう側でクローヴァーを待つことに。
必ず助けるわ、クローヴァー!
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
ついに王国側が動き出したと思ったら、川の側でヴァンパイアに協力をしてもらえることになった。
エレノアが、気になったとかで声を掛けたのだが大切な人が奴隷にされて肉壁ねぇ。
戦争ではよくある話だそうだが、どうするかな……。
それと例の大きな川は、ダンジョン化してすぐに激流へと変えた。
そうすることで、防壁の一つとなるからな。
あえて残した石の橋には、ゴーレム騎士を配置する。
まあ、最初に渡るのは奴隷たちらしいから、隷属解除の仕掛けを施しておこう。
上手くすれば、橋を渡った奴隷たちはこちらの味方となってくれるはずだ。
偵察の話では、明日には開戦となるだろう……。
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