第158話 集結、その裏で。
Side ロンガート伯爵
私は、頭を抱えていた。
まず、領地内の町に、ダンジョンが出現した。
魔王が復活してから、この大陸の各地でダンジョンが発見されているが、ほとんどは町や村から離れた場所で見つかっている。
無論、町中に出現したものがないわけではないが、出現したその日のうちに、冒険者たちの手によって討伐されていた。
だが、今回は無人の町に出現したということだ。
そのため、すでに町がダンジョンから出てきた者たちによって占拠されているという。
「伯爵さま! ルベルト男爵様の兵士たち約三千が、リンガール砦に到着したとのことです。
それと、王都からの騎士団より、使者が参りました。
明日の午後には、リンガール砦に到着とのことです!」
「分かった。
それと、リンガールの町の住民の避難はどうなっている?」
「すでに、商売などのために残った者以外は領都コルーガに向かっているとのことです」
「うむ。では、こちらからも兵たちを向かわせろ。
リンガールでの後方支援だ」
「はい、畏まりました」
知らせに着た執事が、私の執務室から出ていく。
五日前、王都にてダンジョン討伐の本隊の出陣式が行われ、騎士や魔術師をはじめとした総勢約五千の兵たちが出発した。
リンガールの町の近くにある砦に集結して、ダンジョンへ侵攻するためだ。
他にも、バストルの町の向こう側にあるクレンベルスの町からは、冒険者たちが後方支援に向かっているとか。
王国内からダンジョンを討伐するために、様々な戦力が集結しつつある。
だが……。
「……ダンジョン側に、動きがないのが気になる。
今回のダンジョンは、自身の手の者を町に住まわせていると報告が来ている。
となれば、守るための行動があるはずなのだが……」
そんなダンジョン側のことを考えていると、再び執事が入ってくる。
「伯爵さま、隣国のフレルベル王国より討伐協力のための兵、約三千が国境を越えました。
リンガールの砦を目指しているようです。
それと、オルブル王太子が砦に常駐するとの連絡が入りました」
「王太子が?
……おそらく、先月のパーティーでの一件が影響しているのだろう。
あのような場所で、婚約破棄など宣言するから戦場に送られるのだ……」
「伯爵さま、王太子派は大丈夫でございましょうか?」
「……分からんな。
あの一件で、陛下の不興をかったからな。
陛下自身が、公爵と交渉して将来の王妃となるよう迎えたのだ。
それが、学園に通ううちに平民の女にうつつをぬかすようになり、今や骨抜きだ。
平民の女が、王妃になどなれるはずがないだろうに……」
「そういえば、第三王子のフィレット様が王太子になるのではと噂されていますが……」
「婚約破棄された公爵家の娘が、フィレット様の婚約者にと言われているからな。
陛下が求めているのは、公爵の娘の能力なのだ」
「能力、ですか……」
公爵の娘は、かなりの聡明な女性とのことだ。
幼いころ、王太子の婚約者となったころから王妃教育をこなしていったらしい。
しかも、その過程で王家の決算仕事もこなしてしまったとか。
それからは、外交にも顔を出しいろいろな条約を各国と結んでいったとか……。
本当か嘘かは分からないが、事実として隣国との外交はこれまでと違って親密になっている。
「すごいお方ですな……。
しかし、何故オルブル王太子様は、そのような聡明な方との婚約を破棄などと……」
「おそらく、聡明すぎたのが原因かもしれんな……」
「聡明すぎた……」
「オルブル王太子からしたら、自身がお飾りに感じてしまったのだろう。
自分が王位を継いでも、実権は王妃にある、とな」
「なるほど……」
「だが、婚約破棄するにしてもやり方というものがある。
今回のオルブル王太子の婚約破棄のやり方は、悪手以外のなにものでもない。
あれでは、公爵家を敵に回すだけだ……」
「……それで、王太子が前線の砦に来られたのですな」
公爵家を納得させるには、こうするしかなかったのだろうな……。
この戦いで、王太子が戦死すれば、と。
それに、生き残ったとしても……。
「第二王子のリオンさまは、隣国の姫様との結婚が控えていますし、第三王子のフィレット様は十四歳と成人前。
婚約破棄の行動の責任をとらせる形で、前線に送りあわよくば……。
もしくは、手柄を立てて箔を付けろということですか」
「ダンジョン相手に、拍がつくかどうか……」
ダンジョン討伐は、そんなに簡単なことではない。
それは、歴史の書物が悠然と語っている……。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
「さて、こんなものかな。
地上のダンジョンだから防衛のために頑張ってみたけど、鳥型ゴーレムのからの報告では王国側の兵士は一万以上いるらしい。
その数を押し戻すのは、骨が折れそうだ……」
コアルームで、新しくダンジョン化した町の周りの地上を弄っていたが、目がしばしばし出したので休憩をとることにしたのだ。
一応、浮遊帆船対策も考えていたのだが、王国側の戦力を見て必要なさそうと判断。
どうやら王国側は、浮遊帆船を戦場に投入する気はないようだ。
「まあ、浮遊帆船の必要素材を知ったら慎重にもなるよな。
俺達でも造れないか調べていたが、魔王のダンジョンにいる魔物の魔石を使っているとはね……」
石の彫刻の魔物、ガーディアンの魔石がかなりの数必要とか……。
本当に、浮遊帆船は国家で建造しなければならないほど高額な代物だったのだ。
……だが、浮遊魔石か。
こうして、知識を得たからにはDP交換リストに載るはず……。
「早速探してみるか……。
浮遊魔石、浮遊魔石……。
ん? 飛行石? あれ? どこかで聞いたことある言葉だな……。
いや、今は、浮遊魔石、浮遊魔石……。
あった! 交換レートは……、七千万DP?! 何でこんなに高額なんだ?」
……あ、そうか。
俺が、浮遊魔石のことを詳しく知らないからだ。
俺のDPリストに載っているものは、名前と効力だけ知っているもの、形から何から詳しく知っているものとで交換レートが変わってくる。
安いレートで交換したければ、より詳しく知識として勉強しなければならなかったんだった。
……面倒だけど、この戦いが終わったら勉強するか。
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