第157話 排除
Side ???
冒険者ギルドを出て、町の南側を目指し歩いていく。
途中、いろいろな種族の人たちとすれ違うが、みんな笑顔だ。
……それが、私にとっては不気味に見えていた。
町にいる人たちと言えば、いろいろな表情があるはず。
その中には、笑顔の者もいるだろう。
その日を生きるのに必死な者もいる。
つまり、全員が全員笑顔で過ごせるわけがない……。
「……これもダンジョンの影響、なのか?」
そんな疑問も、ダンジョンが見えてくればどこかに吹き飛んでしまう。
大きな、大きな洞窟が見えてきた……。
ダンジョンの入り口を近くで見ると、両端には大きな柱があることが分かった。
おそらく石でできていることは分かったが、どんな石を使っているのかは分からない。
何故なら、あんな真っ白な石を見たことがないからだ。
もう少し近くで見てみれば、艶があることも分かる。
地面には、入り口との段差がなく馬車も大きく揺れることなく、中と外を通過している。
そして、入り口の上を見れば芸術的な彫刻が存在していた。
「……すごいな、こんな彫刻は初めてだ……」
今まで、こんな彫刻を王国などで見たことはない。
もちろん、王国以外にも行ったことはあるが、どこの国にも存在はしていないだろう。
それほど、完璧に近い完成度だ。
そんなダンジョンの入り口を、何人もの門兵が警戒している。
その一人から、私は声を掛けられた。
「お~い、そこの人」
「……私、ですか?」
「そうそう、歩いてここまで来られたようだけど、中に入るの?」
「はい、そうです」
「それじゃあ、中に入るには通行許可証が必要なことは知っているよね?」
「はい、冒険者ギルドで発行してもらいました」
私は懐から、冒険者ギルドのギルドカードと通行許可証を取り出し、門兵の男に渡した。
門兵は、二枚のカードを受け取りジロジロと確認をする。
そして最後に、腰に下げてあった魔道具に差し込む。
すると、ピピッとその魔道具から音がした。
そして、私に二枚のカードを返してくれた。
「確認した。問題はないようだ。
通行許可証も、本物だしな。
よし、通っていいぞ」
「は、はあ……」
「ん? どうかしたのか?」
「いえ、その魔道具? で何が分かったのかな? と」
「ああ、これか。
これは、偽物の通行許可証かどうかを調べるものだ。
前、偽物の通行許可証で入った者がいてな、上司から怒られたことがあったんだよ。
幸い、ダンジョン側で対処したらしく、入ってすぐの町ではなく森や街道などの場所に転移させられていたらしい」
「へ、へぇ~」
ダンジョン側で対処?
やはり、このダンジョンは制御されたダンジョンだということか。
ならば、討伐より乗っ取る形が王国のためになるのでは……。
そんなことを考えていると、門兵が声をかけてくる。
「どうした? もう通ってもいいんだぞ?」
「あ、ああ、すいません。
考え事をしてしまって……。では、失礼します」
「おう」
そう言って、門兵は私の前から移動していった。
私は、それを少し見送りダンジョンに入るため移動する。
本の中でしか知ることのなかったダンジョンに、今、私は中に入るため足を進めている。
確かダンジョンに入ってすぐ、町があるらしい。
宿にいた人の話では、外泊の町といったか。
どんな町か楽しみだ……。
そして、ダンジョンに入るとそこは……、街道だった。
「……は?」
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
ダンジョンに入ると、あの川の向こう側に出るように空間を繋げた。
ミアとエレノアが、ダンジョンを地上にも広げてくれたおかげだ。
「ふう、ミアから連絡あった男を川の向こう側に転移させた。
ダンジョンの中に入られる前に、ミアたちが間に合ってよかった……」
例の、追加範囲コアの設置が間に合ったのだ。
ミアたちが、例の男を見てから急いで設置をしていった。
王国側からのスパイのことは、一応警戒はしていたがミアからの連絡がなければ、今頃はダンジョン内を調べられていただろう。
別に隠す必要もないのだが、秘密工作部隊なんかを事前に入られても大変だからね。
こうして、対処させてもらった。
ミアたちのおかげで、こうして地図を出すと地上の範囲が映し出される。
あの川を含む、半径約十キロが地上のダンジョンとなったのだ。
これで、町も弄ることができるし街道も森や林や草原も、思いのままだ。
まあ、そんなに弄ることはしないけどな……。
やるとすれば、城壁を新たに設置したり橋を丈夫なものに変えて、途中で跳ね上げ橋に変えるぐらいか。
後は、川に流す水の量を変えることかな……。
とにかく、王国が攻めてくるまでにできることをしておこう。
▽ ▽ ▽
Side ミア
……どうやら、間に合ったようです。
川を渡った後、少し上流に行った場所が最後の追加範囲コアの設置場所でした。
地面に設置して、保護魔法を掛け、意味ありげな石碑を設置して終わりです。
すると、すぐに周りの雰囲気が変わりました。
設置前は、周りを必要以上に警戒していましたが、設置後は安心感があります。
ダンジョンの巫女である私たちは、やはりダンジョン無しでは生きていけないのですね。
いえ、マスターがいなくては生きていけない、ですね。
「ミア、隠れて」
「はい!」
エレノアに言われ、川のすぐ側にある林の中に身を隠しました。
すると、橋の前の街道に人が出現します。
エレノアは、これを感じ取って隠れろと言ったのですね。
男は、キョロキョロと周りを確認しています。
どうやら、今、自分がどこにいるのか理解するのに時間がかかっているようです。
さらに、理解してからは信じられないという表情です。
そして橋の方を見て、睨みつけているようです。
急に現れたことから、マスターが町から転移させてここに飛ばされたことは分かりますが、どこまで探られたのか考えます。
「あ、あの男、王国へ帰るみたいよ」
「どうやら、諦めたようですね……」
次は、王国の正規兵が来るのでしょうか?
しかし、この辺りまではダンジョン側の領地といってもいいでしょう。
攻めてくるまでに、準備を進めなければ……。
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