第149話 王国会議



Side ブリーンガル王国国王


「軍務卿、詳しく話せ」

「はい、陛下。

皆様もご存じの通り、魔王が復活してずいぶん経ちますが、いまだ勇者が召喚されたという情報はありません。

教会側が、わざと秘匿しているのかと思いましたが、どうもそうではないと思われます」


王城の中にある会議室で、国王である我をはじめとした各大臣や集まれる領主を集めて会議を行っていた。

魔王復活から今まで、大人しくしている魔王に戦々恐々としていたところ、ロンガート伯爵の領内の町にダンジョンが現れたとの報告が来た。


「では、教会は勇者召喚を今後も行わないつもりなのか?」

「それはないでしょう。

魔王に対抗できる戦力は、勇者以外ありえません。

聖剣使いは数多くいますが、真の聖剣の力を引き出せるものは勇者以外にありえない。

となれば……」

「……聖剣使いでは、魔王に対抗できないか」

「はい。何故かは分かりませんが、聖剣が魔王の弱点というわけではないようです」

「勇者のことは、教会に任せるしかない。

今は、国内の問題だ」

「はい、陛下。

皆様もすでに聞き及んでおいでと思いますが、ロンガート伯爵の領内の町でダンジョンが出現しました」

「な、なんと……」

「エベル卿、ご存じなかったのか?」

「いや、知らせは聞いたが、本当のこととは……」


危機管理がなってないものもいるが、この会議に参加しているほとんどの者が知っていた。

その上で、これからどうするかを話し合うのだ……。


「話を続けます。

ダンジョンが出現したのは、呪われた町と言われていたバストルです。

町から人々が避難して無人になったにもかかわらず、今の今まで朽ちることなく魔物に占拠されることなく当時のままの姿で残っていた町です。

バストルの西には、魔王が出現して跡形も無くなったレストールの町跡が存在します」

「……もしかして、魔王の仕業か?」

「ホーバス伯爵、どういう意味だ?」

「へ、陛下。これは私の想像ですが、魔王はダンジョンの奥底に籠ります。

そのため、地上に出てくることはありません。

ですが、もしかしたらダンジョンからダンジョンへ移動しているのではないか、と……」


ホーバス伯爵は、考えてしまったのだ。

魔王が、一つのダンジョンの奥底に閉じこもっているだろうか? と。

たとえ、僕たちを使っていたとしても一つの場所にいる意味はないのでは……。


確かに、我も各地の視察に移動することがある。

我自身の目で確認することもあるのだ。


「では、バストルのダンジョンは、魔王のダンジョンだというのか?」

「な、なんと……」

「国内に、魔王のダンジョンが?」

「お静かに! お静かに願います!

……陛下、いかがいたしますか?」

「……ブレグレン宰相、お主の意見を聞きたい」


我は、ずっと黙ったままの宰相の意見を聞きたくなった。

女の身でありながら、宰相の地位まで上り詰めたのだ。何か、あるのかもしれんと。


「……私は、ダンジョンを利用するべきと考えます」

『ダンジョンを利用?

それは、教会の意向に反することではないのか?」

「教会に逆らえば、勇者を派遣してもらえなくなるぞ!」

「それだけではない!

国内の治療院の、治療士がいなくなることも考えられる!」

「これだから女は……」

「待て! 宰相に意見を求めたのは我だ。

今は、皆の意見をまとめて今後どうするか考えたい!

……して、ダンジョンを利用とはどういうことだ?」


宰相は、我に一礼すると意見の続きを話した。


「ダンジョンには、様々な魔物が存在します」

「何を当たり前のことを……」

「んん?!」

「し、失礼しました陛下……」

「続けて」

「はい。

ダンジョンに出現する魔物は、地上では出現しないものも多くいます。

その魔物から素材を回収し、武器防具などを制作します。

また、ダンジョンには数多くの地上では手に入らない珍しい宝物も手に入れることができます。

宝物庫の中にも、ダンジョンで手に入れたものも多ございます。

魔王がおとなしい今こそ、力を蓄えるためダンジョンを利用してはどうかと……」

「なるほどな……」

「……」


会議室が静かになる。

皆、考えているのだろう。

ダンジョンを利用することの理がどれくらいになるかを……。


「陛下! 私は反対です!」


静まった会議室に、女領主の声が響く。

ニーベルグ辺境伯か。


「ニーベルグ辺境伯か。何故、お主は反対なのだ?」

「陛下、ダンジョンが出現したバストルの町の南側に何があるかご存じでしょうか?」

「バストルの町の南側?」


我は、側に仕える執事の一人に視線を送る。

すると、一枚の地図を会議室にある棚から取り出し、机の上に広げた。

国王と言えど、国にある町をすべて把握しているわけではないのでな……。


「南側だな……。

……なるほど、グラブスの森か」

「グラブス! そうだ! あの闇龍を忘れていた!」

「陛下! あの闇龍がダンジョンの存在を知れば……」

「十中八九、争いとなろうな……」



かつて、世界に覇を唱えた魔王と争った龍が存在する。

それが、光龍と闇龍。

二頭の龍は、当時の魔王と熾烈な争いを繰り返し、各地を破壊していったが、ついに二頭の龍は魔王を倒した。

だが、その戦いで光龍が犠牲になり闇龍は悲しみ、各地の魔物を相手に暴れまくった。

そしてある日、闇龍は気が済んだのかバストルの町の南側に広がる森の奥深くに籠ってしまった。


その後、闇龍を見かけることはなくなったという。



「伝承では、闇龍が暴れ回った場所は各地のダンジョンの近くだったとか。

それが本当ならば、ダンジョンを利用することは危険です!」

「う~む、ならばどうするか……」

「私は、国を挙げてのダンジョン討伐を提案いたします」

「……教会の意向に沿え、と?」

「はい、闇龍が出てくるか分かりませんが、我々がダンジョンを攻撃していれば、味方であることは伝わると思います。

その上で、ダンジョン討伐を成功させれば、森の利用もできるのではないかと……」

「ダンジョンよりも、あの森の利用を、か」


グラブスの森には、龍の恩恵を受けた数多くの薬草類が存在するらしい。

もし、そんな薬草をもとに薬を生産することができれば、王国に莫大な利益をもたらしてくれる。

また、教会の意向に従ったことで、教会が派遣する治療士も便宜を図って多く派遣してくれるかもしれない……。


我は考える、どちらが我が国に利益をもたらすか。

そして、即効性があるのはどちらか……。



「……よし! 我は、ダンジョン討伐を命令する!!

軍務卿! 戦いの準備だ!」

「ハハッ!」

「各領主にも、兵を出してもらうぞ!

それと、ダンジョン討伐時の素材や宝物に関しては、手に入れた者の好きにすることを許可しよう!

国に治めるもよし! 自分のものにするもよしだ!」

「「「おおぉぉ!!」」」

「このことは、各領主へ知らせ!!

今日より二十日後! ダンジョンへ進軍を開始する!!」

「「「「ハハッ!!」」」」


こうして、我々の戦争は始まった……。







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