第148話 逃がされた者



Side ???


「ハァ~、ヴィシガル枢機卿のご子息は、よくこんな封印の剣を持ちだせたな……」

「権力ってヤツでしょう。

ヴィシガル枢機卿は、教会の上層部から一目置かれている人物ですし、そのご子息となれば……」

「困ったものだな……。

封印された剣を持ち出して、こんなにも魔力を内包されては……」

「そういえば、ご子息はお亡くなりになられたとか?」

「ああ、ダンジョンの餌食になったそうだ。

魔王のダンジョンを甘く見すぎだ。

他の連中に対して、いい牽制になったんじゃないか?」

「……そうですね、ものを知らない上層部のご子息たちは、親の権力を自分の力のようにふるまいますから……」

「ハァ~、本当に困ったものだ……」


この吸引の間に、兵士が一人入ってきた。

何か、急な知らせを持ってきたようで、汗だくだった。


「た、大変です!」

「どうした?!」

「ブリーンガル王国より救援要請です!

至急、盾になる奴隷か魔物が欲しいと、要請がありました!」

「騎士長、それって……」

「おそらく、ブリーンガル王国は戦争を始める気だな。

しかし、教会に奴隷や魔物の調達を要請してくるとは……」

「町のギルドは、完全に独立組織で連携もできますからね。

しかも、情報は共有するべきという信念もありますし……」

「融通が利かないだけだろう。

それに比べて、教会は献金の額次第で融通が利くらしい……」


私は、この会話を聞きながら教会の裏の顔を見た気がしました。


「あの、それでどういたしましょうか?」

「すぐに奴隷を調達! それと、牢に繋いでいたヴァンパイアも出せ。

結構強いらしいからな、いい盾になるだろう」

「了解しました!」


そう言って、兵士は走って吸引の間を出ていく。


「よろしいのですか? 牢のヴァンパイアの処遇を勝手に決めて」

「構わん。上層部には、俺から進言しておく。

それに、王国に恩が売れるのだ。損はないと、賛成してくれる……」

「さすがは、次期枢機卿候補のクラービリィ様ですね」

「……さて、私たちも手伝いぐらいはしておくか」

「ここを離れても、よろしいのですか?」

「この剣の魔力を吸い出すまで、まだ結構な時間がかかる。

ここにいても、何もすることがなくて退屈だぞ?」

「では、あそこへ出かけますか?」

「……そうだな、そうしよう」


そう言って、騎士の二人は吸収の間を出ていった。

吸収の魔法陣の中心に刺さった剣があるだけの部屋に、私は天井から降り立ち姿を現す。

クローヴァーに、逃げるように言われて逃がされたが、救出しないで逃げるわけにはいかない。


そう考えて、気配や魔力を遮断して潜り込んだが、広い教会に迷いに迷ってこの場所にたどり着いた。

クローヴァーが持っていた剣が、部屋の中心に刺さっているのを発見して天井で隠れていたが、いい話が聞けた。


それに、クローヴァーが生きていることやブリーンガル王国へ送られることも聞こえた。

私は、床に刺さった剣の側まで行くと、剣の柄を握る。


「これは、クローヴァーの剣。

あの子を救出したときに返してあげないと……」


そう考えて、力を込めて剣を抜く。

剣は、たいした抵抗をすることなく床から抜けた。

そして、姿が変わった。


「……こ、これは、鎌?」


漆黒と言えるほど黒く、私の身長より大きな鎌へと姿を変えてしまった……。

……そういえば、この剣は使う者によって姿を変えるのだったわね。

クローヴァーが、そう言っていたわ。


「とにかく、今はここを出て王国へ向かいましょう。

運が良ければ、向こうで会えるか途中で救出できるか……」


そう考えて、私は吸収の間の天井から出ていく。




▽    ▽    ▽




Side ???


気配と魔力を消し、教会の屋根の上へと出た私は、数多くの馬車が並ぶ教会正面に降り立つ。

そして、隠れるように馬車の下に潜りこんだ。


「おい! 奴隷を積み込め!」

「はい! ほら、歩け!」

「一つの馬車に、十人は乗せれるはずだ。

おい! その魔物は向こうの馬車だ! しっかり鎖で拘束しておけよ!」

「了解!」


クローヴァーがいた。

全身傷だらけで、あんなに殴られて……。

すぐにでも飛び出して、クローヴァーを救出したい衝動に駆られるが、今はその時ではないと自分に言い聞かせ、力いっぱい握った拳から力を抜く。


そうしないと、私から漏れた気配や魔力で馬たちが暴れてしまうから……。

ここは教会の正面。

ここで暴れたりすれば、聖騎士の精鋭が教会の中から出て来て私とクローヴァーを殺して終わるだけ……。


「ベネン騎士長! 奴隷、魔物ともに乗せ終わりました」

「よし! それじゃあ出発してくれ!」

「出発!!」


ようやく動き出した馬車。

その数、十二台。

その積み荷は、奴隷たちと魔物と言われる私たち魔族。

馬車の下に隠れている私は、町を出た後、馬車から離れて追跡するつもりだ。


「いつまでも、馬車の下は危ないからね……」


ヴァンパイアの私は、姿を変えられる能力を持っているため馬車の下でも分からないだろうが、ずっと能力を使うことはできない。

だから、馬車から離れて追いかける形にするのだ……。



馬車の下から、町の様子をうかがうと冒険者と言われる者たちが多いことが分かる。

魔王のダンジョンのすぐ近くの町だからしょうがないのだが、それにしても多い。


確か、討伐隊が敗北してからはダンジョン攻略が滞っているらしいと始祖様が仰っていたが、どうもそうではないようだ。


おそらく、最深部へ行くことは難しいがダンジョンの恩恵は受けようとしているだけなのだろう。

だが、それで喜ぶのは魔王様だ。


そして、ますます魔王様を倒すことは難しくなるぞ……。




「止まれ! この馬車はどこへ向かうつもりだ?」

「リンガールの町です。

ブリーンガル王国からの要請で、リンガールの町まで運ぶところです」

「……よし、許可証もあるな。行っていいぞ!」

「どうも……」


そう言われて、再び馬車が動き出す。

検査もおざなりにされ、私が発見されることなく町から出ることができた。


では、最初の休憩地で馬車を離れるか……。






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