第147話 捕らわれた者
Side ???
あるダンジョンの最深階層。
ここには、大きな禍々しい黒い門が設置されていた。
その門は固く閉じられていて、取っ手の部分には、黒くて太い鎖が何重にも巻かれて鍵がかかっている。
そして、そんな門の前に一人の女性が座っている。
「『ダンジョンの256階層に、魔界へ通じる門が存在する』
本当かどうか怪しかったが、本当に存在しているとはね……」
感慨深く、門を下から上へ眺めて感想をもらした。
そして、一本の黒い禍々しい剣を抱きしめ言葉を続ける。
「魔界への門が存在しているということは、天界への門である『天界門』も存在しているということ。
何故なら、天界と魔界は光と影であり、表と裏なのだから……」
教会の騎士が持っていたこの剣、災いを呼ぶ剣として有名な『オブロック』という伝説の剣であり教会が封印した魔王の剣の一つだ。
人族の騎士が持っていても使いこなすことができず、こうしてその騎士をダンジョンの餌にして私が貰ってやった……。
この剣の特徴の一つに、持ち主によってその形態を変えるというのがある。
幸い、私が持ってもその形態は変わらず細長い剣のままだった。
一振り、二振りするだけで空気が切れていく感覚がある。
……これは、武器として使うと何の抵抗も無く切れてしまいそうで怖くなる。
その時、私は敵の気配を感じた。
場所は、ダンジョンの第二階層付近。
頭を上げ、後ろを振り返れば、一人の女性が立ってこちらを見ている。
「主、どうでしたか?」
私の問いに、女性は笑顔になり私に近づいてくる。
「ダメね。始祖様は、このダンジョンを離れることを拒否されたわ。
魔王様のお側を離れることはできないって……」
「そうですか……」
私は剣を杖代わりにして立ち上がり、近づいてくる主を迎える。
「いいわ! 私たちだけで、このダンジョンから出ましょう!
私たちも、いつまでも始祖様に頼るわけにいかないでしょうし……」
「主……」
「フフフ、大丈夫よクローヴァー。
私たちはヴァンパイアだけど、始祖様のおかげで太陽の元でも生きていける。
それに、こうして自我もある。
行きましょう、ダンジョンの外へ。
そして、私たちの楽園を作りましょう!」
主は、笑顔で私に宣言する。
私たちだけの楽園を作ると……。
「はい!」
私も、笑顔でそう返事をして、このダンジョンを二人で出ていった。
……それが、昨日のこと。
なのに……今は……。
▽ ▽ ▽
Side クローヴァー
全身を聖剣で切られ、私は今、牢の中で磔にされている。
私をはりつけるために手足に打たれた杭は、聖水に浸され聖なる魔力のこもったもの。
そのため、傷は治ることなく血を流し続け、ヴァンパイアの力も発揮できない。
「ハァ……ハァ……」
息をするのも苦しいのだが、死ぬこともできず、ただ生きているだけだった。
いっそ、聖なる魔力のこもった聖剣で心蔵を貫いてくれれば、灰になって死ぬことができるのに……。
いつしか、そんなことを考えてしまうようになるのだろうか?
私は、何気なしに牢の外を見る。
すると、そこには教会の騎士が二人で談笑をしていた……。
「……それにしても、何もしゃべらない女だな」
「ヴァンパイアのメスだろ?
女じゃねぇよ、クリッジ。教会じゃ、魔物を認めてねぇから気をつけろ?
お前も、懲罰房に入ることになるぞ?」
「それは、勘弁だな!」
笑いあう二人の騎士。
そこへ、見回りの騎士が一人、入ってきた。
鎧の形状が、見張りの騎士と違い、さらに紋章のようなものが肩に刻まれていた。
「ご苦労だな、二人とも」
「これは、騎士長!」
「見回り、お疲れ様です!」
二人の態度に頷いた後、私の捕まっている牢の中を見る。
「……これが、例のヴァンパイアか?」
「はい! ヴィシガル枢機卿のご子息が持ち出した、封印の剣を持っておりましたヴァンパイアです」
「魔王のダンジョンから出てきたところを、偶然教会の精鋭が発見し捕らえました」
「フム……。確か、連れがいたと聞いたが?」
「それは現在、捜索中です。
このヴァンパイアが立ち塞がったために、逃げてしまったとか」
「残念だな……。
で、封印の剣は今はどこに?」
「吸引の魔法陣の間に刺さっています。
内包されていた魔力が、かなり強すぎるとかで封印もできないとか」
「困ったものだな……」
そう話しながら、私に興味がなくなったのか牢から離れていく。
そして、二人の騎士の肩に手を置き小声で何かを話している。
「………だ」
「そ、それは……」
「騎士長、………」
何を言っているのか分からないが、時折私を見てくる。
あの感じは、私を牢から出して何かするつもりなのか?
それとも……。
そこへ、さらに誰か入ってきた。
ガチャガチャと、音を鳴らしながら入ってきた。
「おい! ヴァンパイアはまだ生きているか?!」
「こ、これは、聖騎士様!」
「ん? 騎士長か、何をしているのだ? 見回り中だろう?」
「ハッ! 例のヴァンパイアに興味がありましたので……」
「……そうか。
だが、このヴァンパイアは我が聖騎士隊がもらい受けることになった!
お前たち、すぐに封印の枷を嵌めて運び出せ!」
「「ハッ!」」
聖騎士は、そう命令すると牢を出ていこうとする。
そこへ、騎士長が声をかけて止める。
「聖騎士様、このヴァンパイアはどこへ運ばれるのですか?」
「リンガールの町だ!
浮遊帆船を使い、リンガールの町へ運ぶ。
そこで、戦争の盾として使う予定だ!」
「魔物ですよ? 盾としての役割ができると?」
「魔物だからこそだ。
ブリーンガル王国の国王陛下からの要請でな、盾になりそうな奴隷などをを招集しているらしい。
教会の上層部が、恩を売っておいて損はないと決めたことだ。
すぐに、運び出せ!!」
「「ハッ! 了解しました!」」
そういうと、聖騎士は牢の外へ出ていった。
騎士長も、何か興が覚めたらしく無言のまま牢の外へ出ていく。
「……おい、早く枷を嵌めて外へ出すぞ!」
「お、おう!」
牢の鍵を開けて、私に枷を嵌める。
そして、杭を抜き磔から外した……。
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