第146話 手帳に記されていたもの



Side ミア


勇者オオノ様からの、手帳を受け取りました。

始めは、どういうことなのか意味が分かりませんでしたが、手帳を読み進めていくうちに、その意味に気がつきました。

勇者オオノ様は、私たちに知らせたかったのです。


「この手帳には、ある出来事が記されていました」

「出来事、ですか?」

「セラさんは、勇者が討伐隊を率いてダンジョンに挑戦した話はご存じですか?」

「魔王のダンジョンですよね?

はい、存じています。

勇者が、ダンジョン攻略に失敗したと大々的に知らされましたから……」

「その、ダンジョンでのことが書かれているのです。

本当は何があったのか、という真実が……」

「え?」


手帳の中には、魔王のダンジョンであったことが書かれていました。




▽    ▽    ▽




Side 勇者オオノ


本日より、陛下と教皇の命により討伐隊、総勢百名名を率いて魔王のダンジョンへ潜る。

そして、魔王討伐を成功させ、魔王の魔石を再び封印する。



魔王のダンジョン、第一階層。

さすがは、魔王のダンジョンというだけのことはある。

第一階層から、オークの軍勢が出現して手を焼いたが、誰も脱落することなく第二階層への階段を発見。

そのまま、第二階層へ進む。



第二階層からは、早くもフィールド階層となっていた。

森が広がり、タイガー系の魔物が頻繁に襲ってくるため休息をとることができない。

木の上に登り休息をと考えたが、スネーク系の魔物によってそれもかなわなかった。

ここは、進むしかないようだ。



第三階層から第七階層まで、第二階層と同じフィールド階層が続く。

何とか休息場を見つけ、交代で休息をしてきたがこれも限界だろう。

今日、初めての死者が出た。

休息が、満足に取れずにいたことが原因の死だった……。



第八階層の宝箱から、聖域の魔道具を発見する。

これで、休息が取りやすくなった。

聖域を発動し、討伐隊に休息をとらせる。



第九階層から第十五階層までは、人工的に作られた迷宮だ。

マッピング能力が無ければ、すぐに迷い出られなくなるほど複雑になっていた。

しかも、迷宮の道中で危険な罠が仕掛けられていてここでも犠牲者が出てしまう。



第十六階層からは、再びフィールド階層となっていた。

今度のフィールドは草原で、隠れる場所も無くただただ広い草原を歩かされる。

しかも、同じような景色のため今どこを歩いているのかさえ分からなくなったほどだ。



十九階層からは、草原から砂漠へとフィールド変わった。

出てくる魔物も、砂漠の魔物が多く、砂の中に隠れて突然襲いかかってくる厄介な魔物たちだった。

だが、気配察知と魔力察知のスキルがあれば、魔物の居場所が分かり冷静に対処できるようだった。



第二十六階層からは、城の内部のような構造物の中だった。

所々に部屋があったり、階段があったりとまるで夜の場内を探検しているかのようだ。

だが、私たちはそこで出会ってしまった……。



撤退だ。

討伐隊の半数が失われてしまった。

撤退だ。




▽    ▽    ▽




Side ミア


「……これが、ダンジョン内の勇者たちの動きです」

「簡潔にまとめられていますが、いろいろとメモがされていましたよね?」

「ええ、出現した魔物や数、どう戦ったかとかいろいろ書かれています。

でも、大事なのはそこではありません」


そう、重要なページは第二十六階層のページです。

勇者オオノ様たち討伐隊が出会ったもの、それを知らせることこそがこの手帳を私に届けたかった理由です。


「勇者様たちは、一体何と出会ってしまったのですか?」

「災いです」

「災い?」

「災いといっても、自然現象などの災いではありません。

災いという名の、武器を持った魔物の存在なのです」

「災いという名の武器……」

「セラさんは、知っていますか?

この世界には、あってはならないものが存在していることを」

「……確か、教会が集めて封印していました。

この世に出ると、災いしか生まないものを封印しているのだとか……。

もしかして?」


そう、その封印に漏れた武器が使われていたということでしょう。

しかも、魔物によって……。


「ですが、災いを呼ぶものはすべて協会が封印したと宣言されたはずです」

「では、誰かが教会から封印を解いて持ち出した、ということになりますね」

「そんな、まさか……」

「ですが、魔王は封印されていましたが復活しました。

しかも、誰かの思惑で、です。

ならば、災いの武器を持ちだしたのも……」


魔王復活が、あのレストールの町跡で起こったことは分かりました。

しかも、誰かが魔王の封印されている石板を持ち出して、私たちのダンジョンへ持ち込み復活させたかったようですが、それは阻止されレストールの町での復活となったとか。


勇者オオノ様たち討伐隊が向かう前にも、討伐隊を名乗る者たちが潜入したと手帳に書いてありましたから、その時、災いの武器を持ちだした誰かがダンジョンで死に、武器などが魔物へ渡ったということでしょう。


教会関係者と思いますが、碌なことをしませんね……。


「ミア様、災いの武器を持った魔物はどんな魔物だったのでしょうか?」

「手帳に記載されているメモには、ヴァンパイアとあります。

しかも、災いの武器のおかげか覚醒して自我があったとまで記載されていました。

ひょっとしたら、ダンジョンから地上に出ているかもしれません」

「そ、そんな……」


さらに恐ろしいのは、そのヴァンパイアがダンジョンマスターになった時です。

災いの武器の内包された力で覚醒したなら、使いこなすことも簡単なはず。

ようやく、こちらの世界の安住の地を手に入れたのです。


地球でもこちらの世界でも、静かに暮らしていくことは難しそうですね……。







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