第145話 勇者からの依頼
Side ???
私の上空を、浮遊帆船が速度を上げて通過していく。
誰にも見つからないように砦を抜けてきたんだ、ここで見つかるわけにはいかない。
街道近くの木々を利用して、浮遊帆船が通り過ぎるまでじっとして隠れておく。
「……通り過ぎたか」
私は懐から、黒い手帳を取り出す。
ページを捲っていき、あるページで手を止めた。
そこには、この手帳の持ち主が死んだ後、どうしてほしいか書かれている。
ある意味、これは遺書といえるかもしれない。
「……勇者オオノ様、今年も確かめに来ました。
すでに私で三代目になります。
勇者様からの依頼とはいえ、ここまで続くのはオオノ様にお世話になったお爺様の恩を返したいがゆえ。
しかし、この依頼も私の代で終わりでしょう……」
フードを目深にかぶった旅装束の女性は、手帳をそっと閉じて胸に抱きしめた。
そして、ハッとするとすでに浮遊帆船が見えなくなっていた。
そして、女性は再び街道を通って西を目指す……。
▽ ▽ ▽
Side ???
木の影から、町の様子をうかがう。
いや、町の様子ではなく町の入り口である門の様子をうかがう。
去年までであれば、そこには誰もおらず門は開いたままだったのに、今は門兵が守っていた。
「……どうなっているの? 去年までは誰もいなかったのに……」
困惑するも、私は懐から手帳を取り出しページを捲っていく。
そして、あるページで手を止めると、今の状況と同じことが書かれてある文面を見つけた。
「誰もいなかった町に、人が住みだしたら尋ねてみてくれ。
ダンジョン巫女のミア様にお会いしたい、と……」
この手帳の持ち主は、こうなることも想定していたということ?
私が訪ねようとしている方たちは、こんなこともできるということ?
困惑しながらも、私は街道に戻り町の門へ近づいていった。
「止まりなさい! ここはまだ交易をしていない町だ。
通り抜けか? それとも、この町に何か用事でも?」
「あ、あの、ダンジョン巫女のミア様にお会いしたいのですが……」
「ミア様? 何故あなたのような旅人が、ダンジョン巫女様のことを知っているのだ?
それにお名前まで……」
「わ、私は、今は亡き勇者オオノ様の関係者です!
お願いします! どうしてもお伝えしたいことがあるのです!」
「……分かった、少し待ってくれるか?」
「は、はい!」
私は、門の中の兵士の詰所に案内され、待合室のような部屋に連れてこられました。
そして、ここで少し待つようにと言われ待つことにします。
部屋の中にあるソファに座り、手帳を取り出してページを捲ります。
勇者オオノ様が伝えたかったことを、もう一度読みます。
これが伝わればいいのですが……。
▽ ▽ ▽
Side ???
何度かお茶を出してもらい、かなり長い間待ちました。
そしてついに、その時が来ました。
ドアが開き、お茶のお変わりがと開いた扉を見ると、そこにはこの世のものとは思えないほどの美女が姿を現していました。
私は驚き、固まってしまいました。
「……初めまして。ダンジョン巫女のミアと申します。
それで、あなたが勇者オオノ様の関係者の女性ですか?」
「………」
「……えっと、どうかされましたか?」
「は、はい!! す、すみません、あまりの美しさに見惚れてしまって……」
「は、はあ……」
「初めまして! 私は、勇者オオノ様に恩がある者の孫です。
勇者オオノ様に依頼されて、あなた様に会うために来ました!
よろしくお願いします!!」
「……えっと、それで、あなたのお名前は……」
「あ、す、すみません! 私は、セラと言います」
ああ! 恥ずかしい!!
名前を聞かれていたのに、ミア様の美しさに動揺して聞かれてもいないことをぺらぺらと喋ってしまった……。
今、私は顔を真っ赤にしていることだろう。
変に思われてなければいいのだけど……。
「それで、私に会うためとおしゃっていましたが?」
「は、はい! この手帳を、お渡しするためにお会いしたかったのです」
「手帳? ですか?」
私は懐に入れていた手帳を取り出し、ミア様の前へ提出しました。
黒い革の手帳です。
勇者オオノ様が愛用されていたものだと聞いていますが、あのような手帳をどこで入手されたのか分かりません。
ミア様は、手帳を手に取るとパラパラとページを捲りながら読まれています。
その姿も、かなり絵になります。
ここに画家がいれば、すぐにでも絵にして残そうと書き始めるでしょう。
そして、最後のページまで読まれるとそっと手帳を閉じられました。
「……確かにこれは、勇者オオノ様の筆跡でした。
そして、書かれていた内容も理解いたしました。
セラ様、よく私に会いに来てくれました。お礼を申し上げます」
「い、いえいえ! 私の祖父が受けた依頼を、私の代まで引き継いだだけです!
そんな、お礼を言われるほどのことでは……」
「いいえ、あなたで三代目ですよね?」
「は、はい」
「三代にもわたって、この手帳を届けるだけの依頼を引き受け、それを実行されたのです。誇っていいことだと思いますよ?」
「そ、そうでしょうか……」
「そうです。
それに、こうして無事に手帳は私の元へ届きました。
ご依頼の達成、おめでとうございます」
「……あ、ありがとうございます……」
私は、涙があふれて言葉になりません。
お爺様からずっと続いていた依頼が、今、こうして終わる。
年一回、訪ねてくるだけの依頼でしたが、毎回毎回何もなくここまで来て帰るだけのことでしたが、今日、ここにきて終わりを迎える。
今私が流している涙が、これまでの苦労の結果なのでしょう。
「では、報酬をお渡ししないといけませんね」
「え、報酬、ですか?」
「はい、この手帳の最後にも書かれています。
この依頼を引き受けてくれた人たちに、相応の報酬をお願いしたい、と」
報酬? そんなこと、お爺様やお父様からも聞いたことはありませんでした。
貴重なものとはいえ、ただの手帳を届けただけです。
問はいえ、ここまでの苦労に見合った報酬なら貰ってもいいかもしれません。
「どのような報酬がいいですかね……」
「……あ、あの、それでは手帳のことを聞いてもよろしいでしょうか?」
「手帳のこと?」
「はい! 私も手帳は読んでみたのですが、何も分からなかったので……」
「そうですね、手帳にどんなことが書かれてあったのか教えましょう」
「あ、ありがとうございます!」
私も読んでみましたが、ところどころしか分かりませんでした。
何が書かれているのか? 都は無く、どういった意味があったのかが分からなかったのです。
ミア様が教えてくれれば……。
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